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ここ最近、折原臨也をこの池袋で見た人間は『一人』もいなかった。
否、静雄が聞いてみた人間は、誰しも見ていないと首を振った。
セルティや新羅、門田達や、来良の二人。まさか何か企んでいるのでは、と見かけたら教えてくれと頼んだが、誰しも、見ていないと口をそろえる。
それは、ある種不気味なものだった。
静雄としては新宿の奴の事務所に乗り込んで何を企んでいるかと聞きたいところだったが、最近仕事が忙しいのも立て込んでおり、また、忙しいらしい、と来良の生徒から聞いたので、何もないだろうととりあえず推測しているのだ。
そういえば、何故来良の生徒は、臨也が『忙しい』と知っていたのだろう。しかし、それは何故かセルティも知っていた。何でも、ネットにそういう情報が流れていたらしい。半日もたたずに消えた情報であり、あまりネットに詳しくない静雄は、それを知らなかっただけだと判断した。
「静雄、夕飯どっかで食べてくか」
「そうっすね。何処に行きます?」
いつものように騒がしい、池袋の夜。それでも、どこかいつもより静かな池袋。それにいつの間にか慣れていた静雄は、気づくことはなかった。
その隣を、闇色のコートの男がゆっくりと横切ることに、疑問を浮かべることも、せずに。
**********
四木は、その情報を整理して、疲れたようにため息をついていた。
先程まであっていたのは、いつもの新宿の情報屋ではなく、その助手だと名乗る人間だった。
助手ならば、と色々と引きだしてみようと思ったのだが、存外臨也に揉まれているらしい、高校生ぐらいの、どこか見覚えのあるその少年少女は、意外と喰えない子供だった。
「おや、情報屋は来なかったんですか」
「赤林さん…。えぇ、ここ数週間、池袋に姿を現したという噂すらないですよ」
いつの間にか入ってきていた赤林にそう返すと、四木はコーヒーを飲み干す。全く、新宿の情報屋はいつも独りだと思っていると、いつの間にか人を集めている。
しかも、一癖も二癖もありそうな人間をだ。
そう思ってため息をつけば、赤林から予想外の言葉がかかる。
「『噂』がないだけで、あの情報屋はきているでしょう、この池袋に」
「…は…?」
「おや、言ってませんでした?実は一昨日会いましてね。ちょっと、世間話をした程度でしたが」
深夜という時間帯でしたが、バイクの傍らで休憩していましたよ。と事も無げに言う赤林に、何故それを子供達が来る前に行ってくれなかったんだと思う他ない。
「しかし、深夜とはいえ目撃が少ないとは…珍しいですね。良くも悪くも目立つ男だというのに」
「………………え」
「?」
その瞬間、赤林は一つ、新しい『事実』を知った。
「どうかしました?」
「いえいえ。路地裏だったので、私が見つけたのも偶然でしたし。当然でしょう」
この男は、四木は、知らないのだ。
それは至極、当然のようで、しかし赤林からしてみれば意外なことだった。
**********
「あぁ、それじゃあ…。はは、わかった。情報が入ったら知らせる。報酬は…そうだな、考えておく」
『変なもんにしたらその場で却下するからな』
九十九屋は、その電話口から聞こえる少し不貞腐れたような声に、ひっそりと笑った。昔はあれだけ可愛かったのに、いつの間にこんなひねくれたのか。あのまま成長していればなぁ。と思いつつ、からかいがいがある今を楽しんでいる。
「それじゃあ、折原。頑張れよ」
『はいはいどーも。まぁ、何かいつの間にか後進育成も入っちゃってるから…ちょっと、時間かかるかもだけど』
「そうか」
いつの間にか自然に出るようになった東京弁は、少し、昔を思い出す。東京に戻ってきたばかりの頃はいつも向こうの言葉で自分に愚痴っていたのに、いつしか自分にも東京弁になっていた。
まぁ、それだけの月日が流れたということだが。
『…?何かしたか?』
「…いや、お前らがいなくなるんなら、寂しくなるなぁ。と思って、な。俺もそっち行くかな?」
『寝言はねて言え』
ブチッ、と、少し勢いよく回線が閉じて、九十九屋は苦笑した。あちらでは、眉間に皺を寄せているか呆れているかだろう。嫌われてはいないが、好かれていないのも知っている。そう言えば、昔から、臨は…臨也は、自分を全面的に信用してくれなかった。
まぁ、あってすぐさまからかったのが悪かったんだろうが……。
「さて…あとはどんな噂を流してやろうかな」
ちなみに、臨也が忙しいらしいという噂を数時間流して回収したのは、九十九屋だったりする。
知るモノと知らないモノ
察するモノと察せぬモノ
それぞれ入り乱れ交錯し
少しづつ、終局へ。
あとがき↓
九十九屋さんって、池袋…?と思いつつ。そろそろ話しを進めます(焦)