一人暮らしになっても、その生活はあまり変わらなかった。
妹達は事務所には入らないものの、自宅の方にはずかずかと入ってくるし、相変わらず、自分が作ったものをあっという間に食べ尽くす。
情報屋としての仕事も、時間を気にしなくなっただけで、そう変わってはいない。
変わっていると、したら、
「新羅は相変わらずだろうとして……ドタチンとかは、元気かな…」
何も言わずに去ってきた池袋、その、そこに住む、かつての友人達と、会わなくなったことだろう。
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何故あんなことをしたのか、と問われれば、『それが必要だと思った』からだとしか言いようがない。
理を詰めてそう思ったのではなく、感覚で、直感で。
いつか、彼らは自分の『弱み』足り得るだろう。と。
妹達は別だ。手を出したら最後、どうなるかは身を持って知らせている。第一、自分がヤル前にあの双子が殺しそうで…どちらかというと妹を止める方になりそうな気がしてならない。
自分は、新羅のように世渡り上手に笑えないし、門田のように誰かに優しくなんてしてやれない。ましてや、静雄のように圧倒的な暴力があるわけでもなく。
「…ま、別に、いいか」
自分がいなくたって、世界はまわる。自分はそれを加速したい。減速させたい。緩急をつけて時間の波を混乱させ、人々の姿を見ていたい。
それはかつて、一度は捨てようかと、考えてしまったものでもあった。
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「……どうかしたんですか、そのケーキ」
「あぁ、もらったんですよ。臨也の奴からね」
「情報屋から…。あぁそう言えば、彼は料理が上手でしたねぇ」
四木のもとを訪れた赤林は、得た情報のデータだろう紙束と共におかれた少し大きめのケーキ箱をひょいと開けた。そこにあるのは、恐らく…チーズケーキ。
「まだ高校生気分が抜けなくて作りすぎたと、いらなかったら捨てていいと言われましてね」
「捨てるだなんてもったいない。情報屋の料理の腕は、幹部なら知ってるじゃないですか」
最近、臨也はよくこうやって作りすぎたのだと菓子を持ってくる。まだ、高校生気分が抜けないのだと。
何故、菓子を作ることが学生気分が抜けないことと直結するかは知らないが、毒なんて入ってませんよ。と臨也と共に一度食べたプリンは確かに美味かった。
ついでに少し情報を集めたところ、高校二年生辺りから、臨也はよく学校に作って持って行っていたらしかった。
「お茶でも淹れましょうかねぇ」
「コーヒーなら、先程部下に頼みましたよ」
ただし一人分ですが、といえば、そりゃあないでしょう。と赤林は自分の分も頼みに部屋を出る。
それを見て、四木は笑った。
「ったく…あの餓鬼、手放す覚悟ができてんなら、未練もとっとと捨てちまえって言ったのに」
それは難しいことだと、四木は知っていても、言ってしまう。
それを聞いた臨也の顔が、哀しそうに、でも嬉しそうに、歪められていたのを知っているから。
あとがき↓
…何書いているのかちょっと分からなくなった逸品。高校~現代の中間です。
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