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出会いはいつだっただろう。両親が仕事でいない、ロンドンの夜。
好奇心で外に出た己が見たのは、不敵に笑う白い男だった。
『こんばんわ、可愛らしい坊や?』
『こんばんわ……馬鹿なくらい目立つ、怪盗さん』
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「マジックショオ?」
「そう。興味があったらと思ってね。いい情報を頂いた報酬の『色』だよ」
「はぁ…まぁ、この日は暇だし良いけど」
「なんだ、結局部活動はしないことにしたのか」
「めんどい」
新宿の、とあるカフェ。そこには、親子というには殺伐とした、壮年の男性と、中学生くらいの少年がいた。彼らの間に流れる空気は、どちらかといえば、年の離れた友人。といった方が近かった。
「九瑠璃と舞流は連れていけないだろうけど…」
「むしろ、来ない方がいいだろうね。一枚しかないし」
「一枚しかよこさない癖してよっく言うよ。……『次』のショーには呼んでよね。ラスベガスでもロスでもさ。うちの親もまた見たいって言ってたし」
「おや、それは光栄だね。………考えて、おくよ」
一枚の、そのチケットを大事そうに手帳に挟んだ臨也は、そのチケットの意味を正確に把握していた。
だからこそ、無意識に、それを挟んだ手帳を撫でる。
「…臨也君、頼んでも、いいかな」
「却下」
「………聞く前から拒否かい?」
「碌でもない事くらい、知ってる」
両親がいなくても臨也が妹達と共にやってこれたのは、ある意味、この男がいたからだった。優しく笑う彼が家族と共に遊びに来ては沢山の魔法を見せてくれるそれを楽しみにして、幼い頃は寂しさを紛らわせていた。彼の息子も妹と同い年くらいで、弟ができたみたいに楽しかったことを覚えている。
もう一つ家族ができたみたいだと思ったからこそ、その頼みは引き受けられない。
「俺は情報屋。情報を求め情報を売りはするけど、それ以外のことはお断りだね。なぁんであんたの頼みを引き受けなきゃいけないのさ」
「でも、引き受けてくれるだろう。臨也君」
「・・・」
「他の人に頼んでも構わないが、その彼らに危害が及ぶ可能性だってある」
「俺に危害が及んでも構わないって?」
「そうはいってないだろう?ただ君なら…あの探偵とだって、手を組もうと思えば組めるはずだ」
「……あぁ、男爵閣下か。あの人もまぁ、俺にとってはお得意様だけど」
思いだすのは、都内に住むあの小説家。自分に事件のネタをくれと言ってくる、風変わりな客だ。まぁ、目の前の男だって、客なのだけれども。
「君は、何だかんだ言ってお人よしだから」
「……答えになってないし。それに、俺のどこがお人よし?中学の同級生からは結構最低人間として認識されている自信があるんだけど」
その問いに、男は笑ったまま答えなかった。ただ、君は優しい子だよ。と、そう繰り返すばかりで。
そして数日後、自分の目の前で、彼は炎に包まれていった。
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「…墓参りも10回目…。まったく、俺に律儀に墓参りに来させるなんて、俺の祖先よりすごいよねぇ」
臨也は、いつもより少し質素な格好で、その墓の前に立っていた。口をついて出るのは、少し前に復活した、白い鳥のこと。ここ二年、大体共通の話題と言えばそれくらいだった。
「あんたの息子も、奥さんも、あいっかわらず元気だよ。まぁ、奥さんの方は空元気っぽいけど…。ねぇ、あんたはまだ、俺に頼んで正解だったって思ってる?」
10年前、彼の頼みを受けて、臨也は様々な情報を隠匿し、そして流した。彼の頼みを聞いた形だったが、それを10年も、臨也は無報酬で続けている。
俺にただ働きをこれだけ長い間させるなんて、あの男ぐらいだよ。とは、アメリカでとある男と呑んだ時に臨也がこぼした言葉だった。
「……そろそろ、俺も動こう、かな。ちっちゃくなったホームズとも連絡とったし、ま~たただ働きが増えたよ…。まぁ、あのいけすかない男爵閣下と違って、ミステリー好きなホームズジュニアは気にいってるし、いいけどね」
臨也はこれまで、今、この空を舞う鳥手を貸したことはなかった。しかし、そうも言っていられない。小さな探偵も動き出したし命の危険は少々感じるモノの、人間観察にはもってこいだろう。上手くいけば、CIAとFBIに個人的な人脈を作れるだろうし。
「とりあえず、報酬とあの約束…『次』のショーの件、忘れないでよね……トーイチ」
幼い頃、英語の発音に慣れ親しんだ口で言った通りに名を呼んで、臨也はその墓前を後にする。
途中、高校生くらいの少年とすれ違ったが、相手の方は臨也に気づかずに、臨也は何も言わずに反対の方向へと足を進み続けた。
「…あれ」
少年が見たのは、墓前に不釣り合いにもおかれた、赤い、薔薇。
「誰か、来てたのか?」
二代目の鳥と情報屋が邂逅するまで、あと、少し……。
あとがき↓
超・思いつき