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アルフレッドは感激していた。あんな華麗な身のこなしができる人間がいるだなんて!!しかも、日本人の旅行者だという。親に呼ばれてきたのだがその親が仕事で出てしまったといったその青年に、じゃあ俺が案内するよ!と、アルフレッドは自慢の街並みを案内することにした。
「アメリカには、いつまで?」
「明日かな。一旦アメリカの自宅に戻って、荷物を取ってそのまま帰る予定だよ」
黒髪に赤眼のその青年は、自分を少し小さな子供のように扱って来た。最初はム。としたアルフレッドだったが、それが完全な子供扱いではなく、どこか仕方ないなぁ、と苦笑を混ぜた扱いだと分かると、少しくすぐったくも感じた。
すぐに打ち解けて口調も砕け、会話も弾む。
バザー会場でのあの身のこなしは、『パルクール』というものらしかった。一応スポーツの一種で、それを自身で改良したらしい。
「他の人にも今教えていて、俺のこれはスポーツ、というより逃走術かな」
「ワオ。ますますジャパニーズニンジャだね」
日本語で話せば、青年は嬉しそうに笑う。何でも、留学中でフランスにいるらしく、日本語での会話は久しぶりらしい。菊に日本語を教えてもらっていてよかったと、あの時の苦労を思い出しつつアルフレッドはハンバーガーを食べた。
「…それにしても、よく食べるねぇ…」
「そうかい?モグモグ…俺は…ジュルル…君達が食べなさすぎだと思うよ?」
「はは…でも、そういう豪快な食べっぷりは、嫌いじゃないな」
「?」
「ふふ、すっごく美味しそうに食べてるし、見てて飽きないし楽しいてこと」
でも、誰かと喋ってる時は気を付けなよ。
そう笑うと、日本人の青年もバーガーをパク。と食べ始めた。sサイズだが、彼にはかなり大きいようである。
結局、アルフレッドがその半分を食べてやることになった。
アルフレッドが案内したのは、主にニューヨークの街並みだった。家がその近くだというので、あまり遠くに行くと帰れない。と言われたのもある。それに、初めて来たんだったら、何処を案内しても楽しいだろうと考えたのだ。
ちなみに、上司からかかってきた電話は無視している。
「そういえば、君はフランスには何で留学しているんだい?語学とか?」
「ん?あぁいや、パティシエなんだ。お菓子。でも最近は、他にもよく料理を作ってるよ。ヨーロッパの家庭料理は、有名どころは結構作れるようになった…かな」
「へぇ、凄いな!あ、じゃあさ、今度俺仕事でフランスに行くんだ。行ってもいいかい?君のお菓子、食べてみたい!」
日本人は、菊を見ていて思うが、細部までこだわる人間が多い。というか、こだわり過ぎているとさえ思う時もある。目の前の彼もそうなら、どんなものを作るのだろう。
そんな感情が止められなくなったアルフレッドは、
「そうだ!どうせなら俺の家に泊まって行きなよ。明日の朝に家に帰れば大丈夫さ!」
「へ、えぇっ!?」
困惑する青年の手を取り、了承の声を聞かぬまま、アルフレッドは我が家へと足を向けたのだった。
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結論からいって、結局、臨也は少年の家に泊まることになった。一人暮らしだというがなかなかに大きい家に、親は何をしているんだ?と思いつつも、キッチンに立つ。いつも思うが、自分は結構、あぁいうキラキラした目に弱い。多分、今頃池袋で喧嘩している喧嘩人形の、お菓子を目の前にした時の目や妹達の目もそうだ。何かを企んでいない、純粋に期待や嬉しさに満ちた目と言うのは、少々どころでなく臨也には眩しい。
あぁ、俺って黒い生き物だなぁと感じつつ、臨也は今日一日ファーストフードばかり食べていた少年の食生活までついつい気になって、買いだしの時に買ったタッパーなどに、一週間は持つだろう…と、思う料理を詰め込んだ。もちろん、フルーツを細かく切ってゼリーとかジャムとか、あとフルーツポンチにしてかなり甘くしたりとか、食べなさそうだが何もなくなったら食べそうなものも詰め込んでおく。
ちなみに、夕食にと作ったのはビーフシチューだった。
煮込んでいる間に少年が持っているゲーム機で遊んだが、何でも日本製だという。こういうゲームではあんまり遊んだことなかったな。とぼやけば、得意げに使い方を教えてくれたりもした。
周りはたいてい年上だったから、こういうのはちょっと、久しぶりかもしれない。
「それにしても、料理上手だね!パティシエよりシェフでもいいんじゃないかい?」
「そう?でも…お菓子の方が、作るのが好きだから」
あの笑顔を見て、これに決めたんだ。と笑った臨也に、少年は凄いね。と笑う。
「誰かの笑顔を見て仕事が決まるって、ちょっと凄いなって思うよ、俺」
「でも、俺がそれを見たいって、そんな自己満足だから」
「…でも、いい理由だと思うよ」
君のケーキが好きな人にとって、君はHEROじゃないか。
自分でも、照れくさいことを言ったと思っているのだろう。少し顔が紅いのは指摘せず、お代わりは?と聞くことで臨也は笑いを抑えることにした。
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次の日、アルフレッドが起きると、なんと陽がもう高く上がりすぎていた。どうしよう、送るっていったのに!と思って慌ててみれば、その青年の姿はない。玄関のドアは閉まっていて、ポストに鍵が入っていた。……あれ、鍵ってここにおいてたっけ。
しかしまぁ、何処に行ったんだろう。と思って家中を捜していれば、キッチンに大きな皿と、その上には野菜やビーフが挟まったバーガーが3つと、コップが一つ。そして、そのコップに止められてメモが置いてあるのを見つけた。
「?」
『ごめんね、飛行機に間に合わなくなるから、もう行きます。これは、泊めてくれたお礼と案内してくれたお礼。フランスで会えることを祈っているよ』
そのメモの下には、店の名前が書いてある。わざわざご飯を作って行ってくれたのか。と思ってぱくりと食べれば、しゃきっとしたレタスの味がした。おそらく、ギリギリまでいてくれたのだろう。
その後、冷蔵庫の大量の料理によって、しばらくアルフレッドが規則正しすぎる食生活を送り、5kg減量できたのは、上司達の間で奇跡としばらく言われたのは、まぁ、おいておこう。
それから二カ月後。フランスで行われた世界会議。
アルフレッドは、あの時あった彼の店に行ってみよう!と思いつつも、店の名前が書いてあるメモをすっかり忘れてきてしまっていた。ついでに、フランシスから今日は絶賛ストライキ日だと告げられてうなだれる。
「ちょっと、どうしたの?ホテルで食べればいいじゃない」
「行こうと思ってたお店があるんだよ!」
「店の名前は?」
「メ、メモを置いてきて……」
覚えてない…。と告げれば、呆れたように肩をすくめられる。
「誰かに写メで送ってもらえばいいじゃないか」
「家の、冷蔵庫に貼ってあるんだぞ…。しかも、他にも色々貼ってあるし…」
やけ食いするぞっ!と決意して、アルフレッドは手元のバーガーにかぶりつく。ちなみに、残りの手持ちはあと5つだ。
「フランシス、作ってはもらえないかい!?」
「え、お兄さんが作るの?てか、もうすぐ休憩終わりなんだから、我慢しなさい」
え~。と口を尖らせても、ほらほら早く。と無理矢理席に着かされる。やがてルートヴィッヒが再開を告げれば、会議は始まってしまったのだった。
**********
「ギールさん」
「おぉ、イザヤ。どうした?」
「レストランがストライキで休みになったんで、先生の忘れ物届けに来たんです」
「忘れもん?」
「この間、俺の家に忘れてった眼鏡」
会議が行われているホテルの、一階ロビー。そこには、多くの宿泊客と混ざって、二人の赤眼の青年達がいた。銀と黒。髪の色は違えど、何故か似通ったものも感じられる。
「そういや、どうだった?こないだのアメリカ」
「よかったですよ~。あ、バザーで買って来たお土産、気にいってもらえました?」
「おぅ!小鳥のお出かけ用にしてるぜ」
ピ。と鳴いて出てきた小鳥には、プロシアンブルーのリボンに、小さな金の細工が通されたものが巻かれている。どこか小鳥も嬉しそうで、よかった。と臨也は笑った。
「そうそう、アメリカで、面白い子にもあったんです。街を案内して、泊めてももらったんですけど」
「へ~。なんて奴だ?」
「あ……いえそれが、一日一緒だったのに、名乗るのも名乗ってもらうのも忘れてて…」
実は、それに気づいたのは飛行機でフランスに帰ってる途中だったりする。
とうとうボケたか俺!?と思いつつ、どうにかして調べようかと思っている臨也だった。
「店に来てくれるって言ってたんですが…」
「んじゃ、待つしかねーな」
「そーなんですよねぇ~…」
そう言っている合間に、会議が終了したらしい。見知った顔がこちらへ走ってくるのが見えた。
「ギールちゃん!イザヤもおるやん!」
「よぅ」
「お久です、トーニョさん。会議お疲れ様」
「おぅ、親分めっちゃ疲れたで~」
「あれ、イザヤ?」
「あぁ、フランさん。この間眼鏡、忘れてってたんで」
最初に来たのは、アントーニョとフランシスだった。ギルベルトが来ているのは予想していたらしく、遊ぼうと真っ先にやってきたらしい。
「そーだイザヤ。ちょっと今日お兄さん家で呑むんだけどさ、人数増えちゃったから協力してくれない?多飯ぐらいなのよ」
「?多飯ぐらいって…アルフレッドのことか?トーニョがよく許したなぁ」
「いや、あいつ会議中ずっと鬱々としてんねん。めっちゃうっとうしいし、いつもはいつもでムカつくんやけど、アレはあれで調子狂うんや」
「で、いい?」
「まぁ、ストライキはいってて暇なんでいいですけど…」
「よし」
んじゃ、その一人呼んでくるから待っててね。と戻って行くフランシスを見送りつつ、仲悪いんですか、と聞けば、色々あったんや…。と返される。
「まぁ、いいですけ「あ~~~~~!!」…!?」
大きな声に、ロビーが静まり返った。
なんだろう、とその声の主を見つめれば、先に目に入ったのはフランシス。もう戻ってきたのか、と隣りを見ると…
「あ。」
そこにいたのは、先日の少年だった。まさか『国』だったとは。と苦笑すれば、物凄い勢いで激突される。
「っわ!?」
「凄いや!君の店に行きたいと思っていたら君が現れるなんて!」
「は、はは…。うん、凄い偶然だね」
ちょっと苦しいから離れて、と言えば、ひょい、と離される。しかし、そのまま手は繋がれていた。
すると、話の展開が分からないらしいアントーニョとフランシスが不思議そうに見てくる。
「なに、イザヤと知り合いだったの?アルフレッド」
「イザヤっていう名前だったのかい!?わぁ、初めましてイザヤ!」
「は!?」
「へ?」
「アルフレッドって言うんだね。よろしく」
「え?」
「どないなっとんねんこの二人」
「あ~…そういや、さっき名乗ってなかったって言ってたな…」
ギルベルトが、自分が聞いた範囲で。と二人に教えている間にも、アルフレッドはニコニコと笑っていた。臨也が、どちらかと言えば苦笑気味だ。
「何か映画みたいだね!俺、こういうのは初めてだよ!」
「はは、俺も流石に初めてかな。こういう形での再会は。でも…あれ、フランさん、彼が、今日の?」
「え?うん。たくさん食べる子だからこれから買いだし行くよ~」
「了解しました…。ほら、じゃあ行こう。たくさん作ってあげるから」
「うん!あ、お菓子も食べたいんだぞ!!」
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もちろん、その後の酒盛りでアルフレッドは悪友三人の凄まじいまでの酒豪っぷりを眺めつつ食べていたのだが、あの出会いはちょっと映画みたいだな。なんて思う。こういうのは本当にあるんだなぁとノンフィクションの世界を実感した瞬間でもあった。
あれ以来というか、あれから何度か、臨也はアルバイトで世界会議での厨房にも入っている。特にフランスで行われる時は必ずいて、その度にアルフレッドは厨房に乗り込んでは菓子や食べ物を取ってくるのだ。
これは、何だかんだ言って上げているイザヤも悪い。とフランシスが呆れている。
「よし、終わったらイザヤにプリン作ってもらうんだぞ!バケツプリン!」
「その前に会議に集中しろ!!」
あとがき↓
前篇だけでも区切りは良かったなぁ。と思いましたが、書きたい部分がいっぱいあったので書きました。