新羅はその日、そわそわとしているセルティをなだめながら、家でのんびりと人待ちをしていた。
今日の昼間は、池袋を中心にもの凄い騒動があり、門田などが混乱した様子で電話してきたのを覚えている。
が、新羅はそれを『僕もよくわからない』の一言でかわしておいた。
まぁ、実際、よくわかっていない。わかっているのは今日、『彼ら』が日本に姿を現したこと。そして、
ピンポーン…
『来たっ!』
「え、ちょっとセルティ、まだ多分エレベーターだよっ!」
今日、その家族が、我が家を訪れる事くらいだった。
「あぁいらっしゃい、臨美。それに九十九屋に…子供達も」
「久しぶり、新羅。ほら、ご挨拶ご挨拶」
視線を落とせば、そこにいるのは可愛らしい、写真で見た通りの子供達。
「「初めまして!」」
「はい、はじめまして」
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「いやぁ、それにしても服と髪で印象って変わるねぇ」
「岸谷もそう思うか?まぁ、おれの臨美は男装しても可愛いが、やっぱりこの姿が一番だよな」
「はいはい…ご馳走様、臨美」
「…何で俺に言うの」
可愛らしい子供達はセルティに任せ、三人でのんびりと話すのは、専ら今日の騒動のことだ。
「CDは、日本ではいつ?」
「さぁ…まだアメリカにいるのから、回線パンクしそうってきてたから…今頃連絡が殺到してるのかもね」
「はは、池袋とは違う意味で大混乱か」
新羅が、おもむろにテレビをつける。するとそこで映るのは、まさに、今日日本各地のビルに設置された画面で流された映像だ。
「全部で五曲…ライブ映像と、PV?」
「PVっていうか、ライブでバックに流す映像だったり、練習中に取ってたビデオとかを繋げてそんな感じにしたみたい。歌ってるというよりは騒いでるでしょ」
「うん」
テレビ画面では、曲をバックにして色んな人間が議論を巻き起こしている。しかし、そんな自分達に対する批評も右から左と流すように、臨美はバックに流れる音楽だけを聞いて楽しげにしていた。
「相変わらず、批評とかは気にしない?」
「情報屋としての批評だったら気になるけど、これはねぇ…。仕事にしてるけど、もとから好きで歌ってるわけだし。誰がなんて評価しようとも、聞いてくれてる人が嬉しいんなら、まぁ、いいんじゃない?」
「そういうところは実に男らしいね…」
「ありがと」
『臨也』が『臨美』であると新羅が知ったのは、実に最初の方だった。中学時代、夏休みに折原家に遊びに来ていた彼女の幼馴染達によって知ったのだった。それ以来、隠す為に色々と協力してきた。
「あの時の苦労も、これでやっと報われたよね…」
「うっるさいな~。莉真達が勝手に協力を取り付けたのは、いまでも悪いと思ってるよ」
「いや、そのおかげで僕は、同年の医者仲間を得ることもできたし、君達みたいな規格外と知り合いになれたからね」
「…俺も入ってるのか、それ」
「もちろん」
臨美や九十九屋を始め、どうにも類は友を呼び、臨美の幼馴染達もまた、裏社会に長くいる人間や、表の世界でもなかなかの地位にいる人間が多かった。思えば、あの頃得たコネも多い。
例としてあげれば、臨美…リンと共にステージで歌う、リツ、浅上六実。彼女は関西を中心に活動する情報屋で、海外では臨美とコンビを組んで色々な場所へも赴いているし、表の世界で言ったらリュウこと齊城龍輔。彼は、警察庁の若きエリートだ。他にも戦場カメラマンに傭兵じみたことをしている人間もいれば、大学病院に勤める医者や、高名な音楽家にアクション俳優なんかもいる。はっきり言って、多種多様すぎる。
そんな人間が、小学校時代集まってできたのが、『R'S』だった。
確か由来は、ニックネームの頭文字がすべて『R』であることから。
どこかで聞いた話だな、と言えば、それを見て思いついたとコミックスを渡されたのも記憶に新しい。
ちなみに、中学時代は既に海外にも行っていた。一度だけ、セルティも共に行ったことがある。アメリカだった。
あまり観光は出来なかったが、それでも楽しい海外旅行だったのを覚えている。
「そういえばさ、私と羽島くんがレストランに移動しようかってしてた時、遅刻確定だった真一達、なんと静ちゃんに会ってたんだって!凄い偶然じゃない?」
「それは…って、その呼び方を改めるつもりはないんだ…」
「ん?あぁいや、今更どういう呼び方をすればと…平和島さん?あ、羽島くんのお兄さん?」
うん、会話がずれてるな。と思いつつ、そう言えば静雄は見てないのかな、とふと新羅は思った。見ていたら、絶対何かのリアクションが来そうなのに。門田からもそんな連絡はなかった。
「ママ、セルティお姉ちゃんに遊んでもらった~」
「そう?ありがとねセルティ。もう仕事でしょ?」
『あぁ、もっと遊んでやりたかったが…』
「ま、日本からしばらく出る予定はないし、うちに来てもいいしまた連れてくる」
『ほ、本当か!?』
九十九屋の言葉に嬉しそうに手を握り締めたセルティは、それじゃあ仕事に行ってくる。と嬉しそうにしながら家を出ていった。
それを見送って、皆で顔を見合せて笑う。
「セルティに気に入られたみたいだねぇ」
「セルティさん、手がとっても優しかった」
ジュースを飲みながら、静也はね。と美鈴に同意を求めると、美鈴もそうだね!と元気に頷く。
「手?」
「うん、母さんや、父さんや…兄さん達と、ちょっと似てた」
だから、好き。
そう言ってほほ笑む静也の顔に、新羅は見覚えがあった。ほんの少しの面影は、育った環境にしても出てくるものであると、痛感する。
しかしまぁ、性格はこの腹黒夫婦から受け継ぎ、変人幼馴染達の影響も色濃く出ている為、全く別だ。
「岸谷…今、お前変なこと思わなかったか」
「やだなぁ九十九屋…言いがかりだよ、いいがかり」
あとがき↓
岸谷家編をお送りしました。タイトルはセルティと新羅が玄関で出迎えた時より。
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