「アールーフー…会議中は食べカス落とすなとあれほど…」
「HAHAHA、ごめんイザヤ!興奮して喋りながら食べてたら落としちゃったんだぞ!」
世界会議場。今は休憩中で少し騒がしいそこの一角で、そんな光景が繰り広げられていた。
見慣れた者もいれば、何故ここに人が。と不思議そうに見つめる者もいる。
座ってハンバーガーを片手に笑っているのがアルフレッド…アメリカだが、それと相対して立っているのは、『人』だった。
「せめて、食べるのはいいから喋る時はテーブルに置け…。後でお前の後ろにハンバーガーとシェイク置く用のテーブル持ってくるから」
「OK!じゃあ、追加でもう10個「却下」……ジュースでいいから欲しいんだぞ」
「……野菜ジュース?ブラッドオレンジジュース?それともセンブリ「や、野菜ジュースがいいんだぞっ!」じゃあ野菜ジュースね」
そう言って、ポン、とアルフレッドの頭を撫でて颯爽と去っていくその青年は、厨房のコック服を着ていた。
あまりにも流れるような動作と去り方に皆が呆然とするが、そんな中、ニヤニヤとアルフレッドに近寄って行く影があった。参加者ではないものの、追加の資料を届けにやってきたギルベルトである。
「よ。アルフレッド。お前いっつも会議の時イザヤとあんな言い合いしてんのか?」
「やぁギルバート!いつもじゃないぞ。いつもは厨房に乗り込んだ時に怒られてる!」
それはいつもと同じだ。と思うが、まぁ、深くは気にしないでおこう。
ほら、どうせすぐ戻ってくるんだろうからテーブル片付けろよ。とゴミ箱を近くから持っていくと。そうだね。とアルフレッドはいそいそと片づける。………素直すぎて気味が悪い。
「お前、アーサーにももっとそういう風に接してやれよ…。何でイザヤにはあんな素直なんだ」
「あ、それお兄さんも気になった。イザヤの言うことはちゃんと聞くよねぇ?」
ぐぇ。とギルベルトの身体が曲げられる。のしかかってきたのは、やはりというかフランシスだった。どうやら、この休憩時間はアルフレッドとイザヤを話題にすることにしたらしい。
「お兄さんのところからイザヤを引き抜こうとしたこともあったり」
「へぇ、俺様はそれ初耳」
そんなことを言っている間に、折り畳み式のテーブルを軽々と持ってきた臨也がため息交じりでそれを組み立てる。
「テーブルクロスとかいるか?」
「いえ、あるとケチャップとかで汚されるので、いいです…」
てか、何の話してたんですか?
そう不思議そうに聞いてきた臨也は、どこから取り出したのか大きなランチョンマットと皿を取り出し、これに乗せろ。とアルフレッドに促す。
「あと、ジュースとハンバーガーは運んでもらうから。三つだけね」
「ワオ!いいのかい?」
「アルに甘いんじゃないの~イザヤ」
「え、いっつもこんなもんですけど」
んじゃあ仕事に戻るんで。あ、ギルさん厨房行きますか?マッシュポテトの出来立てあるんですけど。
お、いく行く。
そう言って、ギルベルトと臨也は楽しそうに笑いながら会議室を後にする。きっと、厨房に行くんだろう。
アルフレッドと言えばごそごそと食べ物を皿の上に載せ、どこかスリムになっていた。
「……で、イザヤの言うことは何で素直に聞くの?」
「ん?何でもってわけじゃないさ。でも、なんかあぁ言う扱いされてても嫌だとは思わないんだよね」
そう答えると、ふぅん。とフランシスは目を細める。弟とられちゃったんじゃない?とアーサーに言えば、んなことあるかぁ!とまたどんどん話の方向がねじ曲がるように喧嘩が発展していく。
そんないつも通りの見つつ、アルフレッドは臨也と初めて会った時のことを思い出した。
**********
その日、臨也は休暇でアメリカに来ていた。
アメリカには行って何で日本には帰らないんだ。とレストランのオーナーに言われたが、意地です。とは言えない為、笑って誤魔化してきた。
本当は親から呼び出しが合って来たのだが、とうの親が急遽仕事で北欧に行ってくると言われ、好きにアメリカで過ごせ!!とアメリカの自宅の鍵を渡されて入れ違いに出発されたのだ。
あんたらが呼んだんだろうが。とは思ったものの、まぁ、いつもこんなものか。と、妹達を親に預けなかったことを今更ながらよかったと思う。
「さ…て、どうしようかな~…。……ん?」
何かのお祭りでもあったのだろうか。風船を持った子供達数人とすれ違う。会話を聞いたところバザーがどうの。と言っていたから、この先でやっているのだろう。
何か掘り出し物があるかも、と言ってみれば、存外そこは賑やかだった。
「へぇ……」
来て正解だったかもしれない。ぐるぐると回りながら、面白そうなものをいくつか見繕って買う。土産になりそうなものもあり、気づいた頃には、小さな袋にいっぱいに荷物が入っていた。
そろそろ帰ろうかな。と、少し人も閑散としてきたバザー会場を見渡して、臨也が一息ついた時、『それ』は聞こえてきた。
「?」
子供の声と、少年と青年の間くらいの、男の声だった。
ヒマだし、と思ってその声の方へと歩いてみれば、焦ったような小さな女の子と、木に登ろうとしている背の高い少年の姿。……ちょっと、木の枝が折れそうな気がする。
女の子が焦ってるのは、多分木が折れてあの子が落ちそうだから、だろうなぁ…。
見るからに、とまではいかないが、何となく太っているような気がする。ちゃんと絞れば筋肉質で見た目もよくなりそうなのに、と、臨也は知り合いの姿を思い返す。普段農作業したり内政関係で机仕事してるのに、何であの人達はあの筋肉を保てるんだろう。あ、フランさんは除外。
酷いっ!という声を何となしに聞きつつ、臨也は何となく、ただ何となくのきまぐれで、その二人へと近寄って行った。
『その木、折れるよ』
『!あ、えと…』
『あの風船?』
ビスクドールみたいな可愛らしい顔の少女が、こちらを見て驚いたような顔をしている。
それに、あいつらも昔はこんなんだったなぁ。と妹達の無邪気な時代を思い出しつつ、臨也は懸命に木に登ろうとしている青年を引っ張った。
『うわっ!何するんだい?俺は風船を取ろうとしてるんだぞ!』
『見ればそれは分かるけど、君が取ったら君ごと枝が落ちて怪我するよ』
そう言うと、大丈夫さ!と笑顔で言われる。
『俺はヒーローだからね!』
『……』
その瞬間、臨也の中で目の前の青年が妹達とイコールで結ばれた。
なんだろう、同レベル。と言っていいのかもしれないし、同類。とも言いたい。そんな感じがして、いつの間にかそんな図式を作り上げた。
そう、言っても聞かない、我が道を行くタイプだ。
はぁ。とため息をつけば、どうかしたのかい?と察してくれない声が聞こえてくる。ちょっと違うのは、空気の読める度合いかもしれない。
『ヒーローなら、君を心配そうに見ている女の子を安心させるのも、一つのお仕事だと思うよ』
対処法にはなれている。と、少女を指示せば、少年は目を丸くした。そのすきに、自分の荷物を預ける。
『ちょ、君!』
『君がこの木に登ったら絶対折れるし…』
トントン、と器用に木に登ると、臨也は引っかかった風船を割れないようにとり、身軽に地上へと降りる。
その、人と言うよりは動物のような身のこなしに目を丸くした後、少女もその少年も思わず手を叩くしかなかった。
『はい、風船』
『ありがとう!』
母親が来たのだろう、呼びかけられて去っていく子供に手を振って、柄でもない事したなぁ、と臨也が考えていれば、ガシリ、と、肩を掴まれた。…痛い。
見れば、それは先程木に登ろうとした少年。その目は、なんだかすごく輝いていた。
『君、ジャパニーズニンジャか何かかい!?』
『……………は?』
それが、ファーストコンタクト。
あとがき↓
書いてたら何か長くなったので前後編です~
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