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平和島静雄は、騒ぎの中心地から少々離れた場所で、何かのざわめきを感じ取った。
野生のというべきなのか長年のというべきなのかよくわからないそのカンは、正確に、しかし本人にはよくわからないものとして、『彼』の訪問を知らせた。
「静雄?どうした」
「あぁ、いえ…」
「向こうの大通りで事件だそうです。野次馬が喋っていました」
ヴァローナの言葉に、事件?と聞き返せば、詳しくはわからないと返される。トムは会社に連絡を取り、警察がしばらくうるさいだろうから帰って来いと言われたのを受けて、後輩二人を促した。
「会社に戻るぞ」
「はい」
「っす」
********************
門田は、こちらに小走りでやってきた四人の子供たちに目を見開かせた。
二人は、今年大学生になった、良く知っている二人だ。以前はよく騒動に共に巻き込まれて行動を共にしたこともあったが、今は学業に専念しているのか、会うことは少なくなっていた。いや、その二人はいい。問題なのは、彼らと共にいる少年だ。
もう一人の少女は知らない。見たこともない。しかし、彼女と手を繋いでこちらへやってきたのは、いつの間にか池袋の街からいなくなっていた黄巾族の将軍だった、紀田、正臣。
「な…!紀田!?」
「あぁ、やっぱり門田さん達だったし…!」
ブランクを感じさせない、しかしどこか大人になった雰囲気を醸し出す彼は、自分達を見た瞬間項垂れた。少女の方はよくわかっていないという顔だったが、少し考えて納得したように頷いた。「
え、何々?紀田君の彼女さん?」
「うっひょー!かわいい子だねぇ。同い年?」
「えっ、あ、えぇと…」
「お二人とも、今だべってる暇ないんで。もしよかったらこのパーキングから出てもらえませんか?」
「?なんでだよ」
「いや、警察関係者の車が止まるそうなんで…」
歯切れ悪くそういった紀田は、キョロキョロと辺りを見渡す。別に警察関係者の車が止まる気配はないのだが、何故それを知っているのかと問えば、考えていなかったのか目が泳ぎ始めた。
「おい、紀田?」
「えぇっと、いやぁ……」
「あの、門田さん。実は…」
見かねたように、追いついてきた竜ヶ峰が間に入ろうとした時、その声は聞こえた。
「構わねぇよ。そのまんまで」
「…斎城さん!」
「急いで車とってきたが、間違ったかなこりゃ」
派手、とは言わないが地味というわけでもない、それなりに高そうなシルバーのスポーツカー。その運転席から顔をのぞかせたのは、サングラスをかけた、いかにも怪しい職業についているといわんばかりの男だった。
「あれ、今日は電車で買い物って…」
「最寄が家の近くだったからな。帰りは車の方が良いし、取ってきたんだよ。俺のは動かす必要ねぇから、端にでも置かせてもらえりゃ問題ねぇ。止めるっつっても、あとは若葉達のだろうが、こっちに一緒に置くにしても出て行ってもらうまでもねぇよ」
気ぃつかってくれてありがとさん。と、慣れた調子で正臣の頭を数回叩いて、その車はするりと駐車される。降りてきたのは、存外ピシッとスーツを着た青年だった。もちろん、顔がそれっぽいので、どう見たって危ない職業の男にしか見えないが。知り合いらしき紀田達に誰なのかと問おうとした時、一人の女性がこちらへ走ってきた。パンプスであるというのに随分と速い女性は、門田の記憶が正しければ、KEEP OUTの向こうにいたはずの女性である。まさか注意か。と思えば、聞こえてきたのは呆れたような声だった。
「斎城警部!遅いじゃないですか、私服でいいからすぐにって連絡したでしょう!?」
「おぉ若葉。そうはいってもこれからすぐに本部に行くんなら着替えた方が良いと思ってよ。車もついでに取ってきた。キーはお前に預けとくから」
「ちょっ、あぁもう!」
「若葉さん」
「あぁ、沙樹ちゃん。あと数分もしないで到着って連絡来たわ。ランプなしの車だったからちょっと遅れたみたい。警部!どうせなら一緒に現場までご案内しますから、待っててください!」
「おー」
ボブカットにメガネの、どこかかわいらしい印象を持たせる女性は、疲れたように頭を数回振りながらため息をついた。どうやら、斎城と呼ばれている男の部下らしいが…
「………警察?」
「言いたいことはわかりますけど、正真正銘警察の方ですよ、門田さん」
竜ヶ峰が、呟きを拾って肯定する。職業を言われたって、信じられないと答える人間が住人中十人だろうその男は、しかしそんな視線をものともせず車に寄りかかっていた。
「状況は?周囲にいた奴らとかはかえさねぇようにしてんのか」
「その辺りは池袋署の人間に任せてます。後で報告も上がってくると思います。本部の方も、大会議室はすぐに机の準備ができると報告が」
「食いモンだの仮眠室だのは後回しにして、資料と聞き込みと、あと監視カメラとかの解析に回させろ。交通の方もだな。逃げられてたら厄介だし、それらしい車を見つけたらナンバーチェックして追え」
「指示はあらかた回してます。管理官にはどなたが行かれるでしょうか?」
「んなの、上の爺どもが決めるんだから俺らが知るか。っと、来たな。紀田!帰ったら着替えとかの調達頼むかもしれねぇから、俺の部屋に入るときは若葉に鍵もらえ」
「えぇ!?斎城さんのもですか?」
「若葉に頼むよりゃ、男のお前に頼んだ方が良いだろうがよ」
そう言って、斎城という男はパーキングの入り口、に目をやる。すると、ファミリータイプのワゴン車が一台、券を受け取って入ってくるところだった。
「…あれ?」
「どうした狩沢」
「いや…見間違いかもしれないけど、なんか今運転席に見たことある人がいたような…?」
そう言われて遊馬崎と共にワゴン車へと視線を向けるが、運転席の窓は既に閉まっていた。ここからでは、上手く中の人間は見えない。
ワゴンは、シルバーのスポーツカーの隣で止まった。子供達が駆け寄り、斎城がにやにやと笑いながらも車から身を離す。そして、若葉、と呼ばれた女性は、直立不動で敬礼した。
「お疲れ様です、折原警部!」
運転席から出てきたのは、一年前に姿を消した、死んだ、と言われた、新宿の情報屋だった。
あとがき↓
書き溜めていたら、どこまで上げていたのか忘れていました…。