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青い空、白い雲、上を見上げれば憎らしいほど変わらぬそれは、視界を少し下にするだけで醜い有様となっていた。
むせ返るような血の臭いと、ほんの少しの硝煙の臭い。見た目化け物な天人どもでも血の臭いは一緒なのか、はたまた赤色が溢れすぎて隠されているのかとぼんやりと考えながら、少年は戦場をとぼとぼと歩いていた。江戸くんだりまで行ったのに成果はまるで無し。数人天人寄りの偉そうな爺どもの首と胴体をお別れさせて牛頭と馬頭にプレゼントしてきたが、思っていたよりも詰まらなかったので不機嫌である。これなら、義兄達と戦場にいた方がよかった。と、彼の白夜叉と並び称されるほどの戦闘狂などと一部噂される少年は呟く。その噂は意図的なものだったり面白そうだったから尾鰭胸鰭背鰭をつけて流したりしたものだが、おかげで自分達がいる時は天人も警戒心が強い。その分強い奴らや大人数で押しかけられる時もあるが、こちらは色々と二つ名をつけられる阿呆共が揃う陣だ。都合がいいだろう。
「…ぁあ、いた」
戦場にて、忍ぶの文字を知らぬ白と、それを目立たせるように在る黒。二色の陣羽織が、自分には気づかずぼけっと空を見ている。部下はどうしたのかと思ったが、それは野暮だとため息一つで疑問を流す。あちらこちらと転がる生きていたはずのモノに、決して見覚えがないわけではないから。
「…そこのアホ二人、そろそろ帰りますよ」
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門田は、簡単に言うと、困惑していた。
仕事だと連れられてきた、仮設の歌舞伎座が建てられる土地。
そこには…
「あぁ、お疲れ様どす~」
「昼はここに置いときますんで、あ、食べやすいよう握り飯にしましたから!」
「あぁ、そっちは役者の衣装や荷物もあるんで、入らんようにしてください」
…実に見覚えのある人物たちが、いた。
女だてらに友人について諜報活動をして、時には飯炊きなんかもしてくれた、少し年上の女性。
実家が米農家で米は命だと、お守り代わりに歳の数だけの生米を巾着に入れて懐に持っていた、少し年下の青年。
自分達より何年も前から戦争に参加して、若い自分達を怒鳴り散らしながらも導いてくれた、父のような壮年の男性。
すべてがすべてとは言わないが見覚えのある人達が、まるで別世界の住人のように、俺に視線もくれずに去っていく。
なぜ、
どうして?
いや、そう思ったとて、その疑問はすぐに自分の中から答えが出る。例え周囲の人間が知らなくとも、自分達はあの戦争に出た。刀を、武器を持って戦っていた。平穏な暮らしができている今、極力関わりたくないと思うのは普通なのだろう。
一人、こちらにいるという事実が、どこか悲しく思えた。
「へぇ、籐五郎さん、甘楽から電話来ましたわぁ」
「ん?なんだ、珍しい。外を歩くのは嫌だとすぐに帰ってくると思ってたんだが」
「それが、明日にでも素敵なお客を連れて行きたいとかで、その方のところに一泊するんだそうです。あと、新選組は粗忽な暴れ者と京では有名でございましょう?歌舞伎座の中はもちろん、近くに寄りついて欲しゅうないという話題を覚えていたようで、その方に護衛を依頼したいとか」
「ほぉ、まぁ、甘楽が護衛なんぞいうんなら…ええんやないですか?」
一方、彼らは笑いたい衝動を抑えながら仕事をしていた。確かに、下手に関わらないようにしているということは、ある。しかし、どうとでもすればいいこと。こちらが何かを振ってそれに話を合わせる芸当くらい、平和ボケしていなければやれることだろう。
それをしないのはただ偏に、彼が痺れを切らして接触してくるのを待っているからである。
何故って?ただでさえ江戸へ来たのは不本意なのだ。意趣返しというか、江戸に住まう人間に八つ当たりをしてもこんなささやかならバチなど当たらないだろう。
「そういや、甘楽が護衛に、言うなんてどんなお人だ」
「さぁ…?あれのことやから、その辺の強そうなチンピラ雇ったわけやなさそうですけど?」
「まぁ、甘楽さんより弱ければ護衛になんて言いませんけど…そんなの江戸にいますかねぇ?」
はてさて誰が来るのか。そう忍び笑いつつ、彼らの悪戯は続く。
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「へぇ…子供二人と万事屋ねぇ。しかも片方は夜兎の小娘ですか」
「とはいっても、戦闘狂ってわけじゃねぇ。家出娘らしいがな」
「ふぅん…ま、あんたがいいっつうんならいいんじゃないですか」
俺は会いませんけどね。と、臨也は杯を傾けてのんびりと月を見上げた。銀時の家には宇宙船が刺さっているので、辰馬が取った宿で酒盛り中だ。
「お前の天人嫌いも相変わらずか」
「やだな、昔よりはましになったと思いますよ?利害抜きで酒を飲める方もいますから」
「へぇ、いいな。今度会わせろよ」
「いいですよ。終戦前に取引してた方なんですが、今でも文のやり取りくらいはしてましてね。江戸におられるし、暇があればご案内します」
それも、夜兎なんですがね。とため息交じりの言葉を聞いて、そりゃあ妙な縁だな。と笑う。ずっと江戸にいるということは、神楽の父ではないだろう。
「…怪我は、どう?」
「あ?」
「こってんぱんに妖刀にやられたと聞いたもんで」
「何で知ってっ…!…って、そうだな。てめぇがしらねぇわけねぇか」
「当たり前でしょう」
俺を誰だと思いで?とにやりと笑うその顔に何も返さず、銀時は杯の中の酒を煽った。
臨也。苗字なんてものは持ってない。あえて名乗るなら銀時と同じ坂田か、幼少時世話になった辰馬の実家の坂本か、もしくは銀時達と同じく義兄と仰ぐ高杉だ。ここで桂がないのは、語呂が悪いとの一致満場での意見によるものである。
頭脳明晰、陰謀詭計権謀術数、ありとあらゆる策を巡らす、銀時達の策士の一人だった。ついでに顔はいいものだから女に化けての情報収集から幕府方のお偉いに取り入っての情報さもお手の物。力強さはないが、その素早さは当時の江戸城お庭番頭領を足で負かすほどだった。つまり、戦場でも役に立つ人材。
まぁ、欠点と言えばその笑顔で量れる毒の数々だが。
「まぁ、その辺諸々は小太郎義兄さんもいるところで話しましょう。明日はうちの座に行くんですからねー。懐かしい面々ばっかりですよ銀兄さん」
「おぅ。依頼もありがたいしな」月
を仰げば、半分は充ちたそれを、無粋な塊が遮る。あぁ、あれが空の星だったなら許せたろうにと、どこかぼんやりと臨也は思った。
「…葬式、みたいだ」
「ん?」
「いや、昔誰か言ってたでしょ。俺と、銀兄さんと、晋兄さん。黒白赤と、そろうと不吉な色に見えるんだけど、敵の葬式だと思えば悪くないって」
「……ついでに、死んでく自分達への手向けの色だと思えば、それもいいって言ってただろうが」
あれそうでしたっけ?と臨也はからからと笑ってつまみを取る。酔っているわけではないが、話題が話題故にだろうか。いや、臨也のことだから、本当にそう思っているのかもしれない。
「…ま、あいつらが気味悪いと思わずにいったなら、俺は少しは嬉しいけどな」
「相も変わらずお人よしですねぇあんた」そ
れよりこれどうします?と、焼酎の瓶を抱きしめて先程から煩く眠る黒い物体を臨也が箸で示す。視界に入れないようにしていたのに無理やり話題に出すとは、まったく無粋だ。
「ほっとけ。馬鹿は風邪ひかねぇよ」
「…そうですねぇ。そうしましょうか」
あとがき↓
ちょっときりが悪いですか、ここまでで。