「あ、これもいいなぁ。あ、でもこれも可愛いかも…。ねぇセルティ。どれがいいんだい?」
『私は別に、今のままでのいいんだが…』
「何言ってるのさ!たまには気分転換に違うヘルメットもいいと思うよ?あ、ねぇこれは?」
平日の池袋。
そのとある場所で、新羅とセルティは買い物に出かけていた。目的は模様替えの為の日用品の買い出しと、セルティの新しいヘルメットでも買おう。ということである。
セルティとしてはヘルメットは今のままで別にいいのだが、新羅のテンションが異様に高くて断れなかった。
一方の新羅は、まぁ、「セルティとデートだ!」と、前日、否、買い物が決まった日から浮かれまくっている。
どれほど浮かれているかといえば、先日四人で呑みに行った時、会計を全部自分でしてしまうくらいには浮かれていた。
ついでに、静雄と臨也が引いて、二人仲好く新羅から物凄く距離を取るくらいには浮かれていた。
『…あ、こ、これはダメか?』
「ん~?あ、いいね。じゃあ、後は…セルティは買いたいものはあるかい?」
『そうだな…。先日、臨也に習った菓子を作りたいんだが、アーモンドプードルが家になかったんだ。買っていきたいんだが、いいか?』
「セルティ…!僕のた」
『じゃあ行くか』
僕の為に作ってくれるんだね!と言おうとした口は、見事にセルティに促されて遮られた。
********************
「あれ、新羅にセルティ?」
「げ…臨也。……と、静雄に、門田も」
「よ」
「おぅ、……あ、臨也、俺仕事だから行くぞ。終わったら電話する」
「はいはい」
二人が目的の物を買いに店に行くと、そこには、何故か店内でのんびりとお茶を飲んでいる臨也達がいた。
静雄は、上司に電話をかけつつ、小走りで店を出て行った。
「何で君達が…」
「静ちゃんが何か食いたいって言いだしてね。買い物。ドタチンも誘ったの。俺、材料は基本的にここに買いに来てるからね。小学校時代からの常連ー」
「ははは。臨也君は昔っからここに買いに来てくれたもんなぁ」
恰幅のいい男性が、奥から大きな荷物を持ってやって来た。その男性はその荷物を臨也の隣に降ろすと、セルティを見て、おや。と声を上げる。
もしやヘルメットをしてはいるのはダメな店だっただろうかとセルティが慌てると、男性はセルティのそれには気付かなかったようで、自分でお茶を継ぎ足している臨也を見た。
「臨也君、君がこの間言ってたのは…そっちの子かい?」
「あぁはい。多分、今後も買い物に来ると思いますから、良かったら覚えといてください」
「おぉ、もちろんだとも。お菓子作りしようとしてる子に悪い子はいねぇからな!ははははは!!」
「……と、いうわけで、セルティ一人でこの店来ても大丈夫だと思うから」
呆れたように脱力した臨也の頭を、男性は今度は豪快に撫でる。それでも臨也が抵抗しないところからして、既にこれが通常らしい。
臨也に対しても「いい子」というなんて、なんて希少というか、奇特な人なんだ。と二人は感動した。こんな人間がこの世に存在しているとは思わなかった。
「で?何をお探しだい?」
『あ、アーモンドプードルを…』
「あぁ、ありゃそっちの奥の棚だな。量も色々あるから」
『あ、有難う』
そうPDAに打って、セルティは教えられた棚へと向かっていく。それを見届けると、臨也は呆れたようにため息をついた。
「この間浮かれてたのはこれだったんだね…」
「あぁ、呑んでた時の奴か…」
門田も、思い出したように遠い目をした。あれは、凄かった。事態の収拾というか、最終的に臨也の手刀一発だった気もする。
「あはは。いやー、セルティとデート!いやもう昨日は浮かれすぎて眠れなくて!」
「はいはい。…じゃあ、俺は帰ろっかな。おじさん、ごちそーさまー」
「はいよー。またな臨也君」
「お茶、ご馳走様でした」
そう言って、臨也が大きな荷物を持とうとすると、それを横から門田が取る。どうやら、中身は薄力粉らしかった。
「はーい。あ、セルティ。んじゃ俺達帰るから」
『そうなのか?……あ、その、臨也』
「?」
戻って来たセルティの予想外な一言に、新羅のこの後の予定はガラガラと崩れることとなる。
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「はい、ポルボロンね。静ちゃん、それ柔らかいから。気をつけないとボロボロに…ってあぁ、言わんこっちゃない!」
「静雄、皿に戻せ。まずは拾わないと」
「おぅ」
『難しいんだな…』
「美味しいんだけどねー。食べる時にね」
新羅宅。
折角だからこの間教えてもらったのを一緒に作ってほしい。と言われた臨也は、セルティのその頼みを断り切れず、新羅の家へ行くこととなった。
折角だからお茶会にしようということになり、仕事があると遅れてやって来た静雄も来て、お菓子を食べているのだが……今現在、一人いない。
「他にも時間あったからゼリー作ってみたよー。これは一番簡単だよねぇ」
『まぁ、慣れればな』
「…というか、臨也、新羅はどこに行った?」
「?あぁ、新羅ならあっちの部屋の片隅でウジウジとしてるよ。慰めにとか行かないでねドタチン。さっきそれで暴走しかけたから」
「……わかった」
一人輪から外れているのは、折角のデート…は、まぁ、終わるところだったが、折角の二人っきりを邪魔された新羅だった。そりゃあもちろん、セルティが作ってくれたクッキーは美味しいし、淹れてくれた紅茶も美味しかったが、邪魔されたことには変わりないのである。
「どうせだからきんぴらごぼうの作り方のレシピ、書いて行こうか?」
『頼む』
「……主婦化してるぞ臨也」
「あはははは。そぉ?ってか、新羅ー。ほら、セルティにレシピ渡すから、材料買いにまた二人で行けばいいじゃない。デートだよデートー」
「そんなこと言われてもねぇ臨也……君のおかげで折角今日こそセルティと夢の一夜を過ごゴファッ!」
さりげなく夜這い(…?)宣言をした新羅は、セルティの見事な上段回し蹴りによって倒れる。もちろん、全員放置。
『すまない、こんな奴で』
「いやいや、いつものことだよー」
「……夢の一夜って、なんだ?」
「静雄、いいか、お前は気にせず菓子を食えばいいんだ。そういうことを気にしないでくれ頼むから」
「?お、おぅ」
そんなこんなで、非日常な池袋の日常は過ぎて行く。
あとがき↓
買い物部分、書き直しました。他は修正していません。
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