さて、授業参観です…。親が来て嫌だ~って子も、親が来るのが楽しみな子もいた気がしますね。でも、私が知る限り、そのなかに学生服の人はいませんでした…。
さて、そんなことを思い出しつつの、授業参観です。
来神組+双子
あ~…やばい。どうしよう。
その日、色々と考え込んでいた臨也が、不覚にも静雄の武器(教室のドア)を食らい、意識が落ちるその瞬間、臨也が思ったのはそれだった。
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それは、いつも通りの来神高校の朝の一幕。相変わらず仲がいいんだか悪いんだかわからない二人の朝の挨拶という名の器物損壊がつきものである喧嘩で、全員が度肝を抜かれる事態が起こった。
そう、あの、『あの』折原臨也が、平和島静雄の攻撃を見事に受けたのである。これは、攻撃、というより投擲した静雄本人も唖然としていた。
結果、臨也は救急車で運ばれる、ということにはならなかったものの、保健室のベッドで未だ意識を失っていた。
いつもとは違う、と思いながらも怒りの方が勝っていた静雄は、まさか体調でも悪かったのか。と眉間に皺を寄せたまま、臨也が寝ているベッドの脇にあったパイプ椅子に腰かけていた。
「静雄、臨也は起きた?」
「あ?いや、まだだ。…って、なんだそれ」
「ん?臨也の今日の荷物だよ」
「いや、そりゃわかるけどよ…。なんで、私服があるんだ」
新羅がその手に持っていたのは、一つは、臨也がいつも持ってきている鞄。教科書など一切入っていない、軽い一品。そしてそのもう片方の手には、紙袋が握られており、その中にあったのは臨也にしては珍しい、落ち着いてたような服だった。
「今日、臨也の妹達の授業参観だからね。午前で授業早退して小学校に行く予定だったんだよ。先生にもちゃんとした理由だからって、昨日のうちに言ってたし」
教師も他のクラスメートも目を丸くしていたが、新羅は臨也が内心ウキウキとしていたのを知っている。妹関連では幼稚園まで迎えに行って近所の奥様方とだってにこやかに話せる臨也だ。きっと、どんなことをして何をするとかまで聞いていて、遠足前みたいに気分が高揚していたのかもしれない。
ついでに、色々と考えていて、静雄から投げられたドアが直撃したのだろうが。
「ま、まだ時間もあるし、ギリギリくらいになっちゃったらしょうがないからセルティにでも…「いいよ、今起きた…」あ、おはよう臨也。吐き気とかはないかい?」
新羅がベッドの方へ視線を向けると、確かに、臨也は目を開き、腕を額の上に乗せていた。
新羅の問いに手を振ることで答え、普通に起き上る。静雄が思っていたよりも、痛みが酷いわけではないらしかった。
「…今、何時……」
「ちょうど、三時限目が終わったところかな。もう少しで次の授業始るけどね。静雄もほら、授業行こう」
「え?あ、いやでもよ…」
「あぁ、行け行け静ちゃん。俺はここで少し惰眠でも貪ってから小学校行くから。静ちゃんがいるといつ殺されるかと不安で眠れないんだよ」
「っ…!一生そこで寝てやがれ!」
「うっわ!」
バシ、と臨也の手が置いてあった箇所に拳を入れてベッドにへこみを作らせると、静雄は眉間に皺を寄せつつも保健室を出ていった。
それを見て、湿布や包帯を出していた新羅が苦笑する。
「あの言い方はないんじゃないのかい?」
「湿っぽすぎて気持ち悪い。何あれ。いっつも喧嘩してる相手が怪我したくらいで何なの。バカなの?」
「そうかもねぇ」
あはははは。と笑うと、臨也が新羅を睨む。しかしそれさえも受け流して、新羅はポン、と臨也の頭に手を乗せた。
「でも、心配してもらったんだから、あんまり酷く言わないようにね。まだ痛むんでしょ」
「……仕方ないから、善処してあげよう」
「…いや、それしないってのと同じだよね」
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一方の九瑠璃と舞流は、兄が来てくれるという事でウキウキしながらその時間を待っていた。
本当なら両親に。と臨也は言っていたのだが、あんまりにも会わなくて、その内声どころか顔すら忘れるんじゃないだろうかとさえ思っている親に比べたら、臨也が来てくれた方が嬉しい。
「いざにい、来てくれるかな~」
「来るっていってたよ。がっこうサボってくるって」
「え、それはだめだよ」
「せんせいにちゃんといったから大丈夫っていってた」
今日の授業は、国語だ。しかも作文。ご両親とか、ご家族のことを書きましょうね。と言われて周りがお父さんやお母さんはと書き始める中、二人は迷うことなく兄は。と書いた。
それはおかしいなんて同級生から言われたが、兄といる時間の方が長いのだ。周りににおかしいと言われても、自分達にとってはそれが普通なのだ。
やがて、授業が始まる時間が近づいてきて、少しづつ、よそいきの服や普段着などに身を包んだ大人達が現れる中、一人だけ背の低い保護者が現れて、二人は顔を輝かせた。
知り合いの大人がいたのだろう。にこりと笑って会釈をした兄もまた、九瑠璃と舞流を見て、にこりと笑った。
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「あ」
「どうした岸谷」
「…臨也の奴、さっさと着替えて行っちゃったみたい。湿布と包帯、やりなおそうと思って来たのに」
場所は戻って来神高校保健室。そこはもぬけの殻だった。
「静雄が言ってたが、あんまり酷くはなかったんだろう?」
「あぁ、そうだねぇ…とりあえず、お腹の部分に綺麗に内出血ができてたから…どうだろう。あれを酷いとは言うべきかな」
「……は?」
綺麗にね、ぶつかった形になってたんだよ。あれは笑ったねー。
そう話す新羅に、あぁあいつは静雄の前では意地っ張りだったなと、門田は嘆息した。
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私達のお兄ちゃんは、
そう続けられた二人の作文は、はっきり言って臨也からしてみれば赤面ものだった。
親がいない間も云々。いつも云々。まるでお母さんみたいに云々。まるでお父さんみたいに云々。
何だろう、双子の新手のいじめだろうか。明らかにその『兄』が自分なのはまるわかりなので、微笑ましいような眼で見てくる周りがウザい。
静雄の攻撃を食らって気絶したままだった方が良かったかもしれないと思ったが、それは既に叶わぬことである。
「で、いざにいは、私たちのじまんのお兄ちゃんです!」
そう、舞流の言葉で締めくくられると、他の生徒と同じように拍手が上がる。
しかし流石に、臨也にそうする気力はなく、どうだった?とこちらを向いてきた二人に苦笑を返して、前を向け。と手を振って促したのだった。
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私達のお兄ちゃんは、まだ高校生になったばかりですが、私達がもっとずっと小さい頃からずっと、私達のそばにいてくれています。
中学校もあんまり行かずに、まだ喋れなかった私達のそばにいてくれたことも、ほんの少しだけ覚えています。
お父さんもお母さんもお仕事でいない間、お家のことを全部しているのはいざ兄で、私達は、まだあんまりお手伝いさせてもらえません。
いざ兄は、まるでお母さんみたいに、毎日ご飯を作って、おうちの掃除して、いつも忙しそうです。でも、いざ兄はお父さんみたいに、色んなところに連れてってくれたり、遊んでくれたり、色んなお話もしてくれます。
いざ兄は、お父さんもお母さんもやれて、とっても凄くて優しいです。
いつか、もっともっと大きくなったら、いざ兄のお手伝いをして、いざ兄のことを助けてあげられるようになりたいと思います。
折原九瑠璃
折原舞流
「私の家族は、」1-2の折原姉妹の作文より抜粋。
あとがき↓
ギャグで行ってみよう!と思ったら意外や意外にしんみり系になりました…。折原家になるとしんみりが多くなるこの不思議。
このまま素直に成長すればいいのに、屈折した愛と、妙な信頼(そう簡単に死なない)が出来上がっていくと信じて…。
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