それは、委員会か何かの手伝いだったと思う。近くの大きな体育館で行われている大会の準備をして、どうせなら見てみないかと誘われた。
自分が最初思っていたよりも大きな大会だったらしく、駐車場には行った事のない県ナンバーのバス、応援に来ている人々の、テレビを通してぐらいしか聞かない言葉使いに、少しだけ何やら違う場所に迷い込んだように思った時だった。
自分の名前を呼ぶ、声がしたのは。
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「え…っと……」
「あ、やっぱり静雄君だよね!?僕岸谷新羅。覚えてないかな、小学校で一緒だったんだけど」
「…覚えてるよ。お前みたいな変わった奴」
「ははっ、ひどいなぁ。静雄君は、誰かの応援?君の行った中学の子は出てなかったと思うけど…」
そう言って、久しぶりに会った同級生…新羅は、大会のパンフレットを見た。ページに何かの目印のようにおられた箇所や書き込みに、静雄の目が丸くなる。
「お前、こう言うの好きなのか?」
「え?…あぁ、これ?色々興味持ってついてきてる間に癖になっちゃってさ。同級生がでてるんだよ。この大会」
「へぇ…」
あそこにいるよ。と指さされた方を見ると、猫耳のパーカーを被った小さな二つの物体が、ベンチに寝ている白い…胴着の少年の回りをウロウロとしていた。その少年の顔は、タオルで覆われていて見えない。
「さっき試合が終わったばかりでね。流石に疲れてるみたい」
「あの、猫耳のは…」
「あぁ、妹さんだよ。いっつも大会にはついてくるんだ」
よく見ると、その猫耳フード達は手にペットボトルやタオル、救急セットなども持っていた。…どうやら、心配しているらしい。
「ま、落ち着いたらあいつも起きるしね。…っと、そろそろ、あいつの次の相手の試合だ。ちょっと見てくるよ」
「……お前、マネージャーか?」
「え、まさか。僕はただ…そうだな。あれだけ綺麗に相手の急所を理解するのを見るのが、面白いだけだよ」
そう言って、新羅は観覧席の方へと走って行った。
ふと、新羅の同伴だという、選手の方を見る。いつの間にか起きていて、頭からタオルを被っているその少年は、ピョコピョコとはねる少女二人の頭を優しく撫でていた。
ふと、そのタオルで隠された向こう側から、視線を感じる。
「……?」
感じた視線は、何故か紅かった。
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「あ~…つかれた。明日学校行きたくない…」
「どーせ君は行かないだろ。て言うか、おしかったねぇ準優勝」
結果から言うと、臨也は決勝で負けた。
惜しいところまで行ってのギリギリの敗北だったが、それは鮮やか過ぎる敗北だった。
「ま、狙ってたことを惜しかったっていうのは変かな」
「気づいてるんなら言うな。…そういえば、俺が休憩してる時に誰かと話してたみたいだけど…何、昔の同級生?」
「うん。小学校の時のね。前に言っただろ?面白い奴がいるって」
「ふぅ、ん…面白いねぇ。俺には、つまらなそうな男にしか見えなかったけどなぁ」
「……君ってホント、自分と自分の半径内に収まる人間以外に興味示さないよねぇ」
「何、その半径内って」
「言い得て妙だろ?」
ふふん、と笑う新羅にバカじゃないの。と返して、臨也は前を歩く二人の頭を軽く叩いた。その首には、おそろいの『銀色』。
昨年の新人大会と、今日とったものだ。そう、準優勝だった理由は至極簡単。この我儘娘達が『おそろいがいい』と言ったからである。
第一、正式な部員でもない自分が何故。と思わないでもないが…。まぁ、深く考えるのは止めにしよう。
「新羅は今日は夕飯食べていかないんだろ?おじさん帰ってきてるらしいし」
「臨也…それは嫌味かい、もしくはイジメ?セルティは仕事でいないし、父さんと二人っきりでの夕飯なんて怖いからごめんこうむるよ…」
「そう?じゃあ、スーパーにでも寄っていこうか」
臨也はまだ知らない。【つまらなそうな男】と判断した男と、近いうちに毎日のように喧嘩しあう関係になる事を。
新羅はまだ知らない。その範囲のとても小さかった臨也が、いつの間にか様々なものを飛び越えてしまって、『すべて』を愛そうとする事実を。
そしてまた、静雄も知らなかった。あの日あの時感じた紅い視線が、他ならぬ新羅の紹介で、数年後に出会うものだと。
あとがき↓
あんまり胴着な部分なかった!でもなんだか楽しかったのでいいです…。静ちゃんは手加減難しそうですが、臨也さんならふっつーに優勝を取れる…けど、めんどくさいし面白そうだから、いつもこの順位をちゃんと狙おうとかゲーム感覚で大会出てそう。……真面目に頑張ってる人からしたら腹立つなぁ…。
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