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そんなわけで、後編!
ちょっと展開が無理矢理すぎたかな、と思いつつ……。
戦争コンビ+取り立て屋+生贄の皆様
その日、静雄はトムと共に、このホテルに来ているというとある男に話を聞きに来ていた。
回収対象の男が、行方をくらましたためである。
幸い、その男は何処に行くかは聞いていないが、先日東北行きの切符を買ったのを見たと言っていた。
「こりゃ、社長に言わねぇとな…」
「そっすね、流石に東北は…」
その時だった。
聞き慣れた、この池袋にはいないはずの声が、静雄の耳に届く。
「…?」
「?静雄?」
「え、あ、いえ…何か騒がしくありませんか?」
「?あ~…あっちの部屋だな…」
それは、静雄達がいる部屋から三つ隣の一室。しかし、壁が薄いからだろう。これは響き外まで届くようだった。
聞こえて来たのは、男の、奴当たるかのような、声。
そして、
『も、ともとは、貴方が、闇で臓器を片っ端から売っていたことが元凶では?!』
その声は、先日新羅の家で出くわした、あいつで。
そういえば、闇で臓器を片っ端から売って、しかも女はその前に最低なことに使い捨てにするんだと、セルティ相手に酒でも入ったかのように愚痴愚痴と言っていた。
では、今、この中にいるのは…。
「おい、静雄、ヤバくねぇか?中にいるのって…」
トムがそう言うのに何とか応えようとした静雄が、それをせずにその部屋のドアを吹っ飛ばしたのは、男の、『こんな何やっても誰も何も言わないような女いないぞ!』その言葉。それだった。
そして、
自分の名を、呼んでくれた気がした。
********************
男の手が、破られた服を開こうと胸元に手を伸ばした、その時だった。
ドアが吹っ飛び、男達がなんだなんだと戸惑っている間に、一人一人と、まるで物ののように綺麗に投げられ、壁や、家具や、窓、そして、廊下へと頭から突っ込まされていく。
それを呆然と見ていた臨美は、目の前に現れたその人物に、目を丸くした。
「し…ず……?」
「っ、臨美!」
一番身なりの良い、つまり、自分がここにいる原因の男をゲシゲシと蹴っていた静雄の名を呆然と呼ぶと、ハッと気づいたように静雄がこちらへやってきて、手足の手錠を軽く砕いた。
「大丈夫か?!怪我してねぇか?」
「え、あ、うん………」
「てか、服破けてんじゃねぇか!待ってろ、今セルティに連絡してやっから。それまでは~…あぁ、俺のシャツでもいいから前隠せ!」
「えっ、あ、いいよ脱がなくて!し、シーツにくるまってれば…」
「良いから!ンなもんにくるまってたって嫌な気分しかしねぇだろうが」
そう言って、何故か焦る臨美に首をかしげつつ、静雄が自分のワイシャツを脱いで渡そうとした時だった。
静雄の後ろ、しかし臨美を見ないようにして、トムがこちらに届くほどの音量で話しかけて来た。
「静雄ー、風呂にあった備え付けのバスタオル、未使用みてぇだったからおいとくぞ」
「え!?あ、ありがとうございますっ!」
「俺、フロントに説明してくるわ」
「はい!」
足音が遠ざかるのと共に、静雄はそっと、バスルームの入り口に置かれたバスタオルを取って、臨美の肩に掛ける。
「………あの男、この間言ってた奴か」
「…え?」
「セルティに愚痴ってただろうが。最低最悪の男がどーのって」
「……聞いてたの」
「ありゃ聞こえたっつうんだ」
セルティはパソコンに打ち込んで、臨美は喋って、男は云々と語る二人の存在は、自分と新羅にはいたく居心地の悪いものだったのだ。良く覚えている。
「…別に、静ちゃんには関係ないでしょ。私が仕事でヘマしただけで……。静ちゃんは、別に…。そんなことする暇があるならお仕事してなよ。上司にまで迷惑かけちゃってさ」
「…手前が呼んだんだろ」
「?」
「呼んだだろ、俺の事」
聞こえたんだ、あの時、幻聴でも何でもなく、自分のことを、助けを求めるかのように呼ぶ声が。
「……呼んでないよ」
「いいや、呼んだ。ぜってぇ呼んだ」
「呼んでないよ!!というか、何でそんなこと気にするわけ!?静ちゃんは私の事が嫌いなんじゃなかったの?!」
「はぁ!?誰が言ったンなこと。…俺は、手前の仕事が気にくわねぇだけだ!」
「何でさ!静ちゃんが取り立てやってるように、俺はこれが仕事なの!何が気に食わないっての!」
全く、わかってない。
そう思った時、静雄の中で何かがキレた
「心配だからに決まってんだろうが!!」
「え……?」
「手前が仕事でヘマしただのなんだの言って怪我作って新羅のとこ来たって新羅やセルティから聞くたびに、俺どう思ってんのかわかってんのか?だから散々池袋にはくんなって言ってんのにわかりゃしねぇ!」
「え、ちょ、静……」
「あ、げ、く、に、手前はこんな危ない目になりやがって…!ブクロに来るたびにさっさと帰そうとしてた俺の努力が無駄じゃねぇか!」
「は………」
「いいか!池袋に来る時は俺に言え!一緒にいてやるから!」
言い捨てるようにして叫んだ静雄を見て、臨美が言えたのは、まず、彼の名前だけだった。
「…………………………静、ちゃん」
「ぁあ?」
「駄目だよそんなこと言っちゃ…。そう言うのは大事に取っておかないと」
頭のどこかで、先程男に言われた言葉が蘇る。『何やっても誰も何も言わないような女』。どんな罵倒よりも、そんな言葉が痛かった。
だから、期待…して、しまう。
そう思った時、静雄の大きな手が臨美の頬を包む。
そしてやっと、臨美は自分が泣いている事に気がついた。
「…手前に言わねぇで、俺は誰に言うんだよ」
少し荒れた手が、優しく涙をぬぐった。
「………静、ちゃ…」
「…好きだ。臨美」
言葉と共に、静雄の顔が降りてくる。
先程の男達とは全く違って何の恐怖も感じず、臨美はそれを静かに受け入れた。
躊躇いがちに入ってきた舌に応えて、そっと離れる。
……ずっと、言いたかったんだ。
そう恥ずかしそうに俯いて呟いた静雄は、その呟きに目を丸くした後、何か言いかけようとした臨美の唇を、先程とは違って強引に奪い、抱き込むようにして深く深く口づけた。
……私も好き、だよ。
そう、言おうとしてくれているが、まだ、聞くには照れるからという。そんな、理由で。
あとがき↓
生贄の皆様は空気を読んで気絶してます!!
そういえば、告白した静ちゃん書いたの初めてかもしれないぞ私……。
あ、ちなみにおまけ。これ入れるとギャグになるからと思って。
『臨美っ!大丈夫か!?』
「あっ、セルティ!!」
「どわっ…!」
二人だけの世界が形成されつつあったその場所に、一人の女性が紙袋を持ってやってきた。
それはそう、静雄が服を持ってきてやってくれと頼んだセルティである。
そのセルティの登場に、臨美はおもわず、ほぼ密着していたと言っても良い静雄の身体を突き飛ばした。
流石に予想していなかった静雄は、ベッドに突っ伏す。
『大丈夫か、怪我は!?か、顔が赤いが…!』
「あ、大丈夫、手錠で手首とかすれたくらいで…静ちゃんが良いタイミングで来てくれたしね」
『そうか、良かった…。あぁ、これが着替えだ。バスルームでシャワーくらい浴びると良い。こいつらは路地裏に私が放置しておくから』
そう言って、臨美の背を押してバスルームへと入っていく女性二人を認めた後、フロントから戻り、取り立て対象の知り合いの男の部屋で少し待っていたトムが戻ってきた。ちなみに、その男とは何やら話があって仲好くなった。余談である。
「…静雄、大丈夫か?」
「……まぁ、一応…」
照れ隠しにしても方法があるだろうがよあのバカ………
そう小さく毒づくが、平和島さん?
人のこと言えないからな、それ。
と、実はキスシーンに戻ってきて慌ててこっそり出たトムは、何も言わずにため息をついたのだった。