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「ちょっと静雄さん。それ私のだよー!もう三枚も食べたじゃん。私達にも少し分けてよ!」
「あ?そんなに食うと太るぞ?」
「……兄…計…(兄さんが…カロリー計算してる)」
「そう!だから大丈夫なのーv」
現在地、新宿。
何故この三人が臨也の家にいるのかとか、そういった疑問にいついては割愛させていただくが、とりあえず確実に言えることは、今日が平日で、静雄は兎も角、双子二人はまだ学校にいる時間だった。
「二人とも、あんまり騒がない。静ちゃんも何怒ってんのか知らないけど、大人げないよ~?」
「は~い」
「謝(ごめんなさい)」
「…チッ」
どんな人間でも扱いに困るだろう双子を見事に操作(?)する臨也は、テーブルの上、それぞれの前に一枚ずつ皿を置いた。
「はい。えっと…カルトッフェル・プファンクーヘン?って言ったかな。ホットケーキミックスもうなかったから作ってみたんだけど」
「…ケーキか?」
「一応ケーキだよ」
聞き慣れない言葉にフォークを入れることを躊躇う静雄だが、それに反して双子二人は嬉々として口に入れた。
「あ、美味しい!臨兄、これ何が入ってるの?」
「…菜(野菜)…?」
「正解。ジャガイモのパンケーキです。まだ食べるか?」
美味しいと言った妹二人にそう問うと、元気な頷きが返ってきて、臨也は苦笑しながらキッチンへと戻って行った。
すると、舞流が意地悪そうな笑みを浮かべて、ケーキを食べる静雄に近寄る。
「…んだよ」
「静雄さんダメだなぁ~。臨兄が折角作ってくれてるんだから、感想くらい言わないと!」
「…愛…不足……(愛が足りない)…」
「あっ!?愛って…お前らなぁ…。俺は別に」
「でもでも!これで、臨兄が次に持ってくるのは私達二人分だけだよね。静雄さん、何も言ってないし♪」
「…」
常なら、あまり臨也に懐いているようには見えない双子二人だが、小さな頃から親が海外出張気味であったらしいから、実際はほぼ、臨也が育てたようなもので、臨也や静雄の高校時代を知るものならば、兄の所へ来た双子二人の兄への懐きっぷりもよく知っている。
臨也曰く、『現在の一人暮らしは親離れさせるため』らしい。そこで『兄離れ』と言わないあたり、どこか認識がおかしい。
静雄としては、その内この新宿のマンションに双子二人も住むんじゃないかとまで考えたが、情報屋というなかなか危険な仕事をしている臨也本人から、危ないから無理と聞かされた。
しかし、双子二人はこのマンションへのカードキーをいつの間にか手に入れている。仕事場へは別の鍵を使わなければいけないが、キッチンやリビングなどには入り浸り放題なのだ。
「…さぁな。臨也のことだから、二枚以上焼いてくるんじゃねぇのか」
「え~?そうかなぁ?」
「……残(残してる)…」
「えっ?うおぉ、ホントだ!静雄さん、いらないなら私達で食べるよ!」
「はっ?ちょ、おい!勝手にフォーク入れんな!」
「いいじゃん、食べないんでしょ~?」
「だぁれがんなこと言った?」
静雄の皿にある、四分の一ほど残ったケーキにささっているのは、二つのフォーク。もちろん、舞流と静雄のだ。
お互い反対側にささっているので、ぐぐぐ、と引っ張ると、不規則に生地が破かれて二つに分かれそうになる。
「静雄さん…。諦めて舞流ちゃんにそれちょーだい?」
「ふざけんな…。手前だって、まだ皿に残ってんじゃねぇか…?」
…。
一方、九瑠璃は自分の皿に残っているものをすべて食べ終えると、皿を手にそっとテーブルを離れた。
いつも以上に熾烈な争いをしている二人は、勿論、そのことには気づかない。
パタパタとキッチンへ行くと、何枚か器用に焼いて重ねている臨也の姿があった。
九瑠璃は、この後ろ姿が結構好きだった。
少しだけ黙ってその姿を見て、もう気づいているだろうけれども、くい。とエプロンの紐を引いた。
「ん?どうした、九瑠璃。…あぁ、食べ終わったの?」
その言葉にうなづくと、臨也はじゃあ焼きたてをあげよう。と、ちょうどフライパンで綺麗な色に仕上がっていたケーキを九瑠璃の皿にのせた。
「舞流と静ちゃんは?」
「…食(まだ食べてる)…」
「おや、意外。まだまだ食べるだろうと思って結構焼いたのに」
静雄の予想通り、臨也は今ちょうど、六枚目の種をフライパンに広げているところだった。
確かに、自分も含めてまだまだ三人で食べはする。
「静ちゃんと舞流は、何か仲良いよなぁ…。九瑠璃も、俺よりなんていうか…。親しげに見えるし…」
「…否(そんなことない)…」
「そう?ありがとう。これ焼いたら持っていくから、先にリビング戻れ」
その言葉にうなづいて、焼き立てのケーキが載せられた皿を手にリビングへと戻る。
臨也は親しげだと言ったが、どちらかというと、高校時代に切れたと思っていた静雄と臨也の間の糸がまた寄り集まって復活したように見えて、嫌だったのだ。なので、どちらかといえば池袋にいる静雄に会って、今日は何を作ってもらっただとか一緒に作っただとかを話して、簡単にいえば牽制しているにすぎない。
それを遠目に見かけた臨也が勘違いいただけなのだろうけれど、まぁ、勘違いしてもらっておこう。変に感づかれて、進んでもらっては困るのである。
門田や新羅などは、どちらかというと進んでほしいと思っているようだが、やっぱりまだ、自分達だけの兄でいてほしいのだ。
「あっ、クル姉!ずるいよ、もらってきたの?」
「…分(半分)…」
「ありがとー!クル姉大好き!!」
焼きたてのケーキをフォークで半分に割って、半分を九瑠璃は片割れに渡した。自分達は二人で一人だ。ならば半分にするのが一番いい。
目の前で不機嫌そうにしている静雄を見たが、どうせすぐに臨也が来て新しいホットケーキをこのテーブルにのせるだろうと、九瑠璃は小さく聞こえる足音で理解した。
「…不渡(まだ、あげません)…」
「…は?」
何のことだと静雄が目を見開くが、わからなくてもいい。と九瑠璃は何も言わなかった。代わりに、舞流が目をキラキラと輝かせて九瑠璃に抱きつく。
「さっすがクル姉!カッコいい!最高!!」
あげないのは、大好きなケーキと、
「…ん?何かしたの?」
「……やっぱ、お前の妹だな。わけわかんねぇ」
「はぁ?静ちゃん、俺にそう言わないでよ…。ほら、お代わりする?」
「ん」
「あ、臨兄~!私も!」
「お前はまずそれを食え」
それを作ってくれる手をもった、兄。
あとがき↓
ギャグにしようと思ったのですが、たまにはと九瑠璃にナレーション(?)をやってもらいました…。舞流と静雄が戦っている間に、ちょこっと九瑠璃が漁夫の利…。よって、双子VS静雄なので、この場合軍配は双子に上がった…で、いいんですかね?その前に、ここの静ちゃんは無自覚が大前提なので、愛が足りないと言われてもからかわれているとしか認識していません。その内、進ませるか進ませないかで第三者会議でも開かせようかな…。
さて、彩樹様。こんな感じでいかがでしょうか?