今回の話を中編…もしくは長編にしようと思った原因に、新羅がゆっくりゆっくりゆっくり(×∞)解毒剤を作るのもあったのですが、もう一つ、臨也さんの仕事仲間や幼馴染さんを静ちゃんにけしかけちゃえー。と思ったのもありまして。
思いついた当初よりも人は減らしまくりましたが、それでも…3人?くらいです。
もっと人を出すものは、またいつかやろうと思います。はい。
それでは第五話。今まで臨也さんだったので、今回は変わりに静ちゃんです。ついでにオリジナルキャラ。
『if.~La bonne médecine a un goût amer~』
その日、平和島静雄は摩訶不思議な男と出会った。
池袋駅西口公園の噴水の前で、大きなキャリーバッグ片手にのんびりとベンチに座っていたその男は、明らかに浮いていた。
「静雄?どうした」
「あ、いえ…あの男、朝もいたなと思って」
集金も終えて帰る途中、変わらない体勢でいる男に、静雄は思わず足を止めてジッと見ていてしまった。
トムもそれを聞いてその男を見る。
男は、静雄と同じくらい、20代前半の、細身で茶髪の青年だった。
今時、というにはアクセサリーなどを付けてなどもおらず、また、服は整えられたかのようにきっちりと着こなしている。ただ、傍らのキャリーバッグだけが異様だった。
「待ち合わせでもしてんじゃねぇか?」
「朝からですか?それにしては、時計とか見たりもしてないみたいっすけど…」
男は、飽きることなく、楽しそうに自分の周りを、周囲のその光景を見ているようだった。その仕草が一瞬、最近見ない情報屋と被る静雄だったが、気のせいだと片づける。
「よぉ、兄さん。あんた、朝からここにいるようだが、誰かと待ち合わせか?」
「…あ?」
流石に気になって来たらしいトムが男に近寄って話しかけると、男は話しかけられたのが意外そうに目を丸くした。
「あ、あぁ…そうだけど。びっくりしたな。話しかけられるとは思わなかった」
「そうか?朝っぱらからそうしてりゃ、気になる奴だって出てくるさ」
「ん~…それでも、東京人は我関せずで素通りする奴ばっかだと思ってたからさ」
男は、占領していたベンチから立ち上がり、グッと背伸びをした。
そんな仕草を見届けながら、静雄は男を見る。
家出には、見えない。
「何をやってたんだ?こんなところで」
「ん?」
「家出じゃねぇだろ。待ち合わせでもねぇし」
「あ~…まぁ。人間観察?でも、あんたらがここの前を通ったのは、朝の八時五十分だな。それからずっとここにいたわけじゃないぜ?飯食いに行ったし、買い物もしてみた。けど、やっぱつまんなくってなー。えぇと…三時間と十三分だな。ここにいたのは」
「…は?」
静雄もトムも、流石に驚きを隠せなかった。
確かに、ここの前を通ったのは最初の集金の時ぐらいだからそれくらいだろう。
しかし、何故、この青年は、そんな細かく、しかも当然のことのように時間を告げられるのだろうか。
「はは、引かないでくでよ?まぁ、体内時計って奴かな。頭の中の時計、体が覚えてる時間感覚。それが、俺は人よりちょい正確過ぎんだよ。まぁ、職業病っちゃあ職業病らしいがな」
ちなみに、今は午後四時三十七分。もう少しで三十八分だな。
その言葉にトムが携帯の時計を眺めると、たしかに、デジタルの秒針はもうすぐ一周するところで、時間もぴったり、同じ表示を示していた。
「ほぉ…こりゃすげぇな」
「そうか?昔はめっちゃくちゃひかれたぜ?周りが言う時間が納得できなくて、これは俺だけの時間なんだって、周りとは違うんだって認識しにくかったしなぁ。ま、人それぞれ、少しは特技があるもんだし、それで周りに引かれちまうのも道理だけどよ」
そう言った青年は、にこりと笑った。
かげりのない笑みは、自分で自分を『人とは違う』と言いながらも、同じように『人とは違う』はずの静雄とはまた違っていた。
「あ、でも、あんたらの待ち合わせってのは外れじゃないぜ。ここで午後五時辺りに待ち合わせしてんだ。もうすぐ来るはずだけど……。あぁ、来た来た。よ、之浪」
そう言って、青年は右手を軽くあげた。その先を見ると、そこにいたのは静雄と同じくらいの長身で、しかし静雄より細く…と、いうよりは、どこかやつれたような印象を持つ青年だった。
「十九分、早かったな」
「はいはい…。ったく、仕事中なんだぞこっちは。それを、現金使い切っただぁ?」
「はははははー。悪い。買い物してたらパーっと」
「その浪費癖、いい加減治せ」
そう言って、之浪。と呼ばれた青年は、小さながま口を放った。
それをパス。と捕まえて、青年は笑う。
「いいじゃん、電車賃くらい貸せって」
「それ、何回目だアホ。……すいません、こいつがなんか迷惑かけませんでしたか?」
「え?あぁいや…。ずっとベンチに座ってるもんだからな、何してるのかと思っただけだ」
「そうでしたか。…六。さっさと行くぞ」
「あいよっ!!あ、それじゃあ、失礼します」
キャリーバッグをもう一人が持ち、どうやらりく、という名前らしいその青年はぺこりと頭を下げた。
それに手をあげてトムが答えると、六はくるりと身体をひるがえして、迎えに来た青年の横に並ぶ。
「…面白そうな奴だったっすね」
「あ?あぁ、まぁ、確かにな」
周りとは違う自分を、あそこまでまっすぐに受け止められる人間を、静雄は初めてみたかもしれないと思った。あんな風に笑顔で、前向きで。羨ましいとさえ一瞬思ったほどだった。
「また、話せますかね」
「多分な。あぁ、目ルアドでも聞いてきたらいいんじゃねぇか?」
「え?………あ、あぁ。聞いてきて…。ん?これ、あいつのっすかね」
静雄が手に取ったのは、小さなロケットのペンダントだった。開けるのは流石に失礼だろうと思って開けなかったが、ベンチのすぐ下にあったということは、そうかもしれない。
そのまま今日は帰ります。と言って、静雄は青年の後を追い始めた。
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六は、池袋駅の改札近くにいた。
駆け寄ってロケットを渡そうと思ったその時、聞き慣れた名前が六の口から聞こえてくる。
「え?臨也忙しいの?」
臨也。
それは、つい一昨日会ったっきり、珍しく池袋に来ていない人間の名前。メールが来て、しばらく仕事が忙しいから来るなと言われたのは、昨日の夜のことだ。大きな仕事が大量に来たらしいとかで、助手と二人で24時間体勢だという。門田も、それを聞いて行かない方がいい。と今日の昼頃に言われたばかりの、その男の、名前。
「あぁ。何でも面倒な仕事が大量に入ったとかでな。遊ぶだけなら、今日行って夕飯食ったら俺んちにしろ。怒ったら恐いことの一つや二つや三つ也四つ、体験してるだろ」
「おぅ!」
怒られたことを何故か誇らしげに胸を張って肯定する六は、少し考えたような仕草をした後、にっこりと笑った。
「それなら、臨也のお仕事手伝うかねぇ。それならちょっとはましになるだろうし」
「いいのか?ディ○ニー○ン○に行くとか言ってた…」
「あぁ、別に。臨也と行くつもりだったし、行けねぇんだったらさっさと仕事片づけて連れ出すしかねぇだろ。…よし、決まり!臨也の手伝い!」
「…まぁ、同業者のお前なら俺よりは大丈夫か…」
そう言って、二人は改札を通って行く。静雄は、ロケットを握ったまま、声をかけることができなかった。
臨也の家に?しかも、仕事の内容も知っているのか。それに、○ィズ○ーラ○ド?
それに、同業者って……
言いようのない感情が、自分の中で生まれるのを感じる。それは、とても小さいけれど、自分の中で根付いて大きくなっていくような気がして。
「何だってんだ……」
静雄は、しばらくそこで立ち尽くしていた。
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新宿の、とある高級マンション。
その一室のベルが、来客を知らせる音を鳴らした。
「あぁ……はいはい…。って、え?」
コーヒーを飲んでいた波江は、モニターに映る人間に目を丸くした。そこにいたのは、二人の青年。
「どうかした?波江」
「ちょっと…来るのは女性って言ってなかった?どう見たって、どっちも男よ」
「ん?あ、あぁ…。でもいいよ、開けて」
そう言われて、波江は臨也と共に玄関へと向かう。何の躊躇いもなく臨也がドアを開けると、背の低い方の青年が、小さく勢いをつけて臨也に抱きついた。
少しだけたたらを踏んで臨也がそれを受け止めると、抱きついた青年は至極嬉しそうな声をあげた。
「ひっさしぶりやなぁ!会いたかったでー。元気しとった?リン!」
「はいはい…。そっちも元気そうで安心した。久しぶり。それと、これの出迎えありがと、ロウ」
「いや、いつものことや…。あぁ、そっちが助手さんか。初めまして」
「あ、えぇ…。って!だから、どっちが泊まるって言ってた客なのよ」
背の高い青年が持ったキャリーバッグ。しかし、出迎え。と言ったということは、抱きついた青年の方が遠方から来たということだろうか。
そう考えていた波江の前に、抱きついていた青年が、立った。
「すんません。感動の再会なもんでつい!…あ、ちなみにこれ、れっきとした変装やからv」
後半で、その声は気味悪く思えるほど綺麗に、女性の声に変わった。
そして、その手がグッと、頭を、否、髪を無遠慮に引っ張る。
すると、
「これからちょおお世話なります!浅上六実いいます!」
でてきたのは、腰までとは言わなくとも長い髪。身体はどう見ても男に見えるのに、その顔だけは女に見えた。
「え…え!?」
「はは…。ごめん、波江。これが俺が言ってた、関西の友人の情報屋。ちなみに、もう一人はまたちょっと違う仕事してるけど、池袋在住ね」
「よろしゅう。あぁ、リツ。その悪趣味なバランスやめ。気味悪いわ」
「はーい。…よろしくね、リンの助手さんv」
にこやかな笑みと、その瞳の奥に隠された好奇心の塊を、さらに濃縮させたような光。
それは、ある意味不気味なものだった。
小さくも作られた波紋に、新たに二つ、三つと、雫は落ちて広がっていく。
それは否がおうにも、静かに眠っていた人形をも巻き込んでいくものへと、なって行くのだった。
あとがき↓
あて馬?というよりは、ライバル!?とりあえず、静ちゃんには自覚への道①として、無自覚ではありますが『嫉妬』を覚えてもらいました!!これも、どっちかっていうと閑話でしょうかね…。ちなみに、リツこと六実ちゃんは、『おそらくそれは、』の最初の方で、幼少臨也さんにタオルを持ってきてくれた子でもあります。裏話?
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