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その名前の通り、これはもしも。何ですよね。『もしも、臨也が女の子だったら』と、新羅さんが考えた結果なんですが…。
その結果として、皆さんが外堀を埋めるのが今回のお話。もちろん、埋めさせまいとする方もいますが、そう考えると、これは今まで書いた料理シリーズの中では、一番『未来』のお話になるのだろうと考えてます。
「まったく…科学者ゆえの好奇心と言えば分ってくれるとでも思っているのかしら。あいつは医者でしょう?」
「でも、波江だって、ちょっとだけ頷きそうになってたじゃないか」
「それは…まぁ、認めてあげるわ」
帰り道。再び波江の運転で新宿へと帰るその道中の車内は、行きと比べれば雰囲気も柔らかくなっていた。
「まぁ、解毒薬を作るって約束させたし、大丈夫でしょう。問題はそれまでね」
「家からはなるべく出ないよ。知り合いの情報屋…関西の奴なんだけど、そいつが東京に旅行に来てあげるって言ってたから、外はそいつに任せる」
「あら……もしかして、莉真の…」
「そ。俺の幼馴染でもある、変人」
臨也が変人と言うほどの人物だ。まとも過ぎるか突き抜けておかしくなっているかの二択しかないだろう。
情報屋とは、やはり奇人変人だけがなる職業なのか。
「俺の家に泊まるってさ…。あぁ、言動もちょっと変わってるけど、女の子だから」
「言動?」
「そ。俺のこと、臆面もなく『愛してる』なんていう、変人。かな」
その瞬間、波江は喧嘩人形とその人物を会わせてみたいと一瞬だけ考えた。
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「はぁ…嵐が去ったようだったね…」
『今回は、お前の自業自得だと私は思うが』
「えぇえぇぇ…結構上手くいったと思うんだけどなぁ」
臨也と波江が去った新羅の家では、二人がソファに座って息をついていた。一人は呆れて、一人は疲れて。
『大体、何故そんな薬を作った。誰にとっても傍迷惑な話じゃないか』
「そうかい?……あのねぇ、セルティ。君にもあんまり話したことはなかったと思うし、今では見ていて分かるかもしれないけど、臨也と静雄は、元はそんなに仲が悪いわけじゃないんだ」
『…あぁ』
池袋の街は、格段に平和になった。
相変わらず自販機は飛んでいて、標識も曲がっていることがあるけれど、それでも、蠢く何かが、いなくなったような気がした。
それは、切れてしまっていた静雄と臨也の『糸』が、再びつながったが故だった。
「昔ね、高校時代、門田に話したことがあったんだよ。あの二人のどっちかが、女の子だったらなぁ。て」
『…』
セルティは、口を挟まず聞くことにした。きっとその思いが、この事件の原因であると、思っていたから。
「だって、そうだろ?もし静雄が女の子だったとしても、臨也の家事能力からして女の子一人くらいパパッと養えるし、静雄だって家事ができないわけじゃない。臨也が女の子だったら、性格はともかく、いい奥さんになれそうだろ?静雄の暴力になんて怯えないし、静雄にとってはそれこそ優良物件だ」
だが、もし生まれつきどちらかが女だったら、それこそ、出会わなかったかもしれないだろう。
そう考えた時、新羅は、自分がどうにかできないかと思ったのだ。
「後天的にでもいい。どちらかが自覚して、上手くまとまってくれたらなって思ってさ。自覚してないし、鈍感だし、見てるこっちは、喧嘩別れした高校の卒業式からこっち、結構ハラハラした毎日だったんだよ?」
セルティは、そこで苦笑した新羅を見て、あぁ、そうだったのかと、妙に納得した。
確かに、あの二人は無自覚も過ぎる気はする。
「別に、今の状態が悪いとは思ってないよ?なんだかんだいって、臨也も怪我は少なくなったし、無茶しなくなったし、静雄の栄養状態も改善されたし、イライラもしなくなったしね。でも…さ、どうなるんだろうって、思ったら止められなかったんだよ。無意識で無自覚な『愛』だからこそ、臨也の妹達に邪魔…というか、妨害されてる静雄も何だか不憫だったし…」
二人が思い浮かべたのは、なんだかんだで兄大好きな双子の姉妹の姿だった。臨也は知らないだろうが、意外と水面下での戦いは激しいのである。
「それに……もしそれが、友愛や親愛ではなく恋愛のそれであったなら…もったいないと思うんだ、私は」
『もったいない?』
「うん。だってそうだろう?僕は、君に無償の愛をささげてる。君からも、愛が欲しい。そして、愛してもらっていると思っている。恋愛の『愛』は、この世で一番素晴らしいと思うんだ、僕は」
『新羅…』
「だから、二人がそうであったなら…とても素敵だなと、思うんだよ。あの二人と渡り合える人なんて、そうそういないしさ」
『…そこは、否定しない』
「はは。ありがとう。だからまぁ、ちょっとだけゆっくり、解毒剤は作らせてもらうよ。未知の薬だから当然って言うのもあるけどね、静雄と、今の臨也が会うまでは、伸ばしたいと思うんだ」
『…だが、臨也の身体が、』
「ちゃんと、そう言う調整をする薬は出すよ。もちろんね」
そう言って、笑顔でコーヒーを飲み干す新羅を、セルティはちょっとだけ見なおした。ちょっとだけ。
しかし、
「でもまぁ、ぶっちゃけ、」
『?』
「戸籍を作っちゃえば誰も文句言えなくなるから今のままが一番いいし、もうどうせなら行けるとこまで行っちゃった方がいいかなって思ゴフッ!!」
それはすぐに、地の底まで落ちて行った。
臨也、新羅はしっかりと私が見張っておくからな…!
こうして、新羅はのんびりと、しかししっかりと、解毒剤の作成にいそしむこととなったのである。
あとがき↓
どっちかって言うと、閑話的なお話でした。副題は『愛の伝道師・岸谷』…。しかし、ラストで台無し?でも、あんまり生真面目にしめたら、それは新羅じゃないと思ったんです…(泣)