平和島静雄がすっきりとした顔で帰って行ったあと、そこに残ったのは呆れ顔の上司と、またまた壊されたドアの残骸だった。
コーヒーのカップを置いて、上司である折原警視は、その扉を出入りする人間の邪魔にならない方へと運んでいく。
「あぁっ!いいですよ、俺達がやりますって!」
「まだ、二課からの依頼が終わってないんでしょ?だったら先にそれをやる。これくらい俺にだって運べるよ」
「それは知ってますけど…!………はい、やります」
あの喧嘩人形が去った後の上司は、機嫌が悪い時といい時に綺麗に二分されるのだ。どうやら今日はいい方のようだが、忙しい時に更に厄介なことを喧嘩人形が喋って帰っていくと、仕事も増えるし、機嫌も悪くなって恐ろしい。そんな上司に臆面もなく接することができるのは、もう一人の上司である矢霧波江だけだ。
「…あら、またドア壊れたの」
「波江…。まぁね…」
「いい加減、あの男が入ってこれないようにするべきだと私は思うわ」
その言葉に、臨也以外のその場にいた人間が大きく頷く。
「どうやって?それこそ、飛ばすか首にするか…あとは、この世からいなくなるかの三択くらいじゃないの?上は、いい加減ここのセキュリティ強化して、カードを事前に渡そうかって言ってきてるけど」
「はぁ?あの男に不用意に機器に触られたくないわ。壊されそうだもの」
「………まぁ、否定はしないけどね。あぁ、一昨日本部が立った事件、そこの追加調査俺がやっておくから」
追加調査、とは、先程帰っていた平和島静雄が気になると愚痴っていたことだ。
「気になるのは分かるけど、明日は双子達と約束してるんでしょ?」
「勿論、行くよ。授業参観だし?だから、今日のうちに終わらせるの。今日は全員定時で上がることを目標にしようか。時間になったら、俺のこともパソコンからひっぺがしといて」
「眠らせてでも帰すから安心していいわ」
物騒な上司二人の会話を聞きつつ、部下達が思うのはただ一つ。
これ以上、この科捜研の一室が、駆け込み寺とならない事だった。

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