やっと、やーっと、戦争コンビが会いました!家から出る理由をどう作ろうか、そこでオリキャラに活躍していただいたのですが、皆様には、物凄くお待たせしてしまったと思います…。
『if.~La bonne médecine a un goût amer~』
「……ここもない、か…」
池袋西口公園。
平日の昼間のその場所に、臨也はいた。
発端は、言わずもがな、六実が失くしたロケット。よりにもよって『笑えるネタ』…当事者からすれば破滅への第一歩を踏み出すのに値するそれをロケットに入れたまま失くしたのだというから阿呆だ。
しかもロケットは、幼少時代の自分達が写った写真入り。
特殊な加工がしてあって、そう簡単には開けられない作りだが、誰かに拾われているとまずい。とくに、ロケットに掘られたとあるロゴ。これの意味を知っているものならば、命の危険性さえ感じることができる代物だ。
「しっかし……西口公園でぼけっとするまでは持ってたとか…。真性の阿呆だね」
家の中の探索や、念のために自宅に電話をして調べてもらうよう六実に頼んだ臨也は、動きやすいデニムのショートパンツに黒のスニーカー、上はいつものVネック…にしようと思ったら、現在のサイズ用と買ったそれには、おそらく六実と、波江の仕業だろう。アイロン一つで色々なデコレーションができるというデコシールによって、見事にシックな女物に変えられていた。
このやろう後でぶっ飛ばす。と思いつつ、それの上にいつものコートを羽織った臨也は、池袋に来たわけだが…。
「なんなの…!?俺なんかしたっけ…?」
さっきから、歩いていれば声をかけられ、お茶しに行こうとか、スカウトやってるとかとにかくウザい。それを無表情で追い払いまくったが、全くもって、ウザい。
しつこい男どもの何人かは路地裏だったので容赦なくぶっ飛ばしてきたのだが、そこで女の体では、パルクールはできても腕力などが足りない。仕方なく関節技やスピード勝負で沈めたわけだったが、この一週間、何処にも出かけず家で書類仕事をしていた弊害か、すぐに息が上がってしまった。
「全くもう…あぁ!これもリツのせい、六のせい!あんのアホ、帰ったら『マ○マの○』を原液で飲ませる!!」
そう声高に決意して、臨也は膝をついて、噴水近くのベンチの下を覗き込む。
しかし、それらしいものはない。近くの交番に、聞いてきた方がいいのだろうか。
そう、思った時だった。
「おい、て…あんたがさがしてんの、これ、か?」
「…え?」
ふっと振り返ると、目の前にずいっと差し出されたのは、自分が付けているものと同じ、『R'S』というロゴが入った、ロケットペンダント。
「あ……」
手に取り、ロゴを数回撫でてから、ぱちりと蓋を開ける。そこにあったのは、10年以上前に取った写真。そして、蓋の裏には小さなデータチップが貼られていた。その下にある、『RITSU』の文字。
「あった……」
手に握りしめて、グッとそれを抱く。最早、それを差し出してくれた人間のことなど考えていなかった。
嬉しい。嬉しい。嬉しい。
ただそれだけの感情が湧きあがる。不安だった心が、自然と軽くなって行くのが分かった。
自分達の楽しい思い出は、これと同じロケットから始まった。だから、例え何があろうと、これをその手にすることに迷いはない。
「それ、そこのベンチの下にあってよ…あんたが、六って叫んでたから…」
「え…あ、有難うございます!!すみません、取り乱して…しまっ……て……」
遠慮がちな声に、すぐ目の前に人がいるんだったと恥ずかしさで顔を赤らめながらも臨也が顔をあげた時だった。
これをわざわざ持っていてくれたなんてどんだけ素敵な人なんだ。ほんとに女だったら俺惚れてるかも!?
などと考えつつ見た、その、顔は。
「…?どうした?」
平和島、静雄だった。
********************
いきなり茫然として固まった少女を前に、静雄は焦った。
ロケットを返しそびれてから、バーテン服のポケットに入れて、会ったら返そうと決めて一週間。
その主には全く会えなかったものの、その名を叫びながらベンチの下を、自分の服装に気を使うことなく、まぁ、つまり、モデルと言われても納得しそうな綺麗な脚線美を惜しげもなく晒しながらベンチの下にもぐっていた少女に、その体勢を止めさせたいという思いと、もしやという思いで声をかけ、やっぱり、ロケットの持ち主の知り合いだったと安心したのだが…。
その当人が、自分の顔を見た瞬間硬直した。
「静雄?どうした…って、」
「と、トムさん!いや、あの、この間あった奴の知り合いみたいで……」
「ほぉ…って、お嬢さん、大丈夫か?」
トムがひらひらと少女の目の前で手を振ると、ハッとしたように少女が目を見張り、パッと立ち上がる。
「す、すみ、すみません!!ちょ、ちょっと、ロケットが見つかって安心してしまって…!」
「え?あ、あぁいや。それならあいつに言ってやってくれや。会えるかもって、ずっと持ち歩いてたんだぜ」
「そうなんですか?」
少女は、ロケットを両手で握りしめたまま、軽い身のこなしで静雄の前に立った。
その仕草に、一週間以上あっていない姿が重なって、静雄は目を見張る。
「有難うございました…!後日、六にもお礼を言いに来させます!」
「え、いや、別にそんな…」
「受けた御恩は返すが礼儀!後日、何かお礼を届けさせます!」
「い、いや、その…」
「それじゃあ!」
有難うございました!
そう深々と礼をした少女は、駅の方面へと走って行った。
その後ろ姿を見届けつつ、トムが感心したように頷く。
「今時の女の子が、あそこまで言えるってのはすげぇなぁ…」
「トムさん、あいつ……」
「ん?」
「笑って、なかったですよね」
「?可愛く笑ってたじゃねぇか。モデルとか芸能人って言われても納得するなぁあれは」
その言葉に、静雄は少女の顔を思い出した。
あれは、一緒だ。
叫びたい何かを抑え込んで、顔に笑顔を張り付けてる、アイツと。
あぁ、そう言えば…
「臨也に、似てたな………」
あとがき↓
長かったっ…!!
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