ふと、パソコンに表示されたデジタル時計を見ると、いつの間にか日付は変わっていた。
もう、21日か。と、臨也はため息をつく。
昨日は4月20日で、語呂よく『420(しずお)』だとはしゃいだ(?)狩沢や妹達が、ケーキの上にチョコ文字で420とでかでかと書いて持ってきてくれと言って来たものだから、仕事の休憩時間を使って要望通りのそれを届けると、三人はなんと、嬉々として驚くべき行動に出たのだ。
「いやぁ…うん。あり得ないわ」
でも、同じく呼び出された静雄はもっと驚いた。というか、きょとんとした顔をしていて見物だったのを覚えている。いつもは食べ終わるのまで見届けてから帰るのだが、今、仕事が立て続けに入っていたので、早々に退散してきた。
「…ケーキなんて考えてたらお腹すいたな…。何かあったかな」
いつの間にか手元に置かれていたマグカップを飲み干すと、何やら甘さを感じた。
「…ココア?」
波江が淹れるのは、いつもコーヒーだ。ココアなどは妹達が来た時の為にあることはあるが、ココアを作るとは珍しい。しかも、何やらまだ温かい。もしや、また一旦こちらに来たのだろうか?
そんなことを考えつつ、自室のドアを開けると、ソファからのぞく、小さなきらめきが見えた。
「…?」
仕事に集中していたし疲れていたとはいえ、やはり、家で注意力散漫になるのは駄目だろうか。もしも、自分の命を狙う奴が来たら大変だ。
しかし、そう考えつつも、臨也は警戒はせず、しかし、音を立てないでソファに近づく。
あぁ、やっぱり。
何で寝てるのさ、静ちゃん…。というか、何故ここに…。
ドアが壊されたら、即警備会社などへ連絡が行くようにしているので、例えピッキングしようとも、ドアをふっ飛ばそうとも同じこと。
そう言って、確かに、鍵をあげたのは自分だ。お人よしで、存外律儀な彼なら、悪用はしないだろうと信じて。
失くすことはない。特殊な鍵は携帯の画面に表示させるとある画像であり、ドア口についた小型カメラは、特殊なセンサーで網膜パターンを解析する。そして、取っ手には、これまた特注の、指紋を読み取る特殊な機械付き。
どれか一方では無理なそれだ。登録してなければ、家主が入れない限り入れない。
なので、彼がここに入れるのは…まぁ、合法的に可能なのだが…。
毛布も掛けないとは…。客間の位地くらい知ってるはずなのになぁ。
そう嘆息して、臨也は自分の部屋から、少し大きめのブランケットをそおっと静雄に掛ける。
少し身じろぎはしたものの、起きたようではなかったので、ほっと臨也は息をついた。
……もしかして、
「ココア……」
疲れた時には甘いもの。は、よく静雄から聞く言葉でもある。勿論、妹や他の人間からもだが。
しかし、この場・状況において、これができるのは目の前で寝てる喧嘩人形しかなく、よく考えれば、波江は明日…否、今日も来るのだ。忘れたものがあっても何も構わないし、むしろ、この時間、外を出歩くのは危険だからホテルで休んでいるだろう。
「…ありがとね、」
小さく小さく呟いて、間抜け面で寝ているその顔からサングラスをそっと抜き取り、テーブルに置くと、掠めるくらい軽く、静雄の額に唇を寄せた。
こうするとよく眠れるんだよ!と、昔言っていたのが誰かは覚えていない。
さて、と置いていたマグカップを手にとって、臨也はキッチンへと向かった。何やら空腹感はなくなったし、着替えて寝てしまおうと、そう思って。
時刻、4月21日午前3時。
それが、臨也が小さな魔法をかけた時間。
あとがき↓
すみません、糖度の調整ができませんでしたけど、たまには臨也さんからって思って、思っちゃってっ…!!これ、大丈夫ですか??!
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