――――――――――20XX年、某日。
少々例年と比べれば短かった梅雨が終わりをつげ、うだるような暑さを予感させるある日の東京。
の、
エコを無視して空調をきかせまくっている某、警察庁。
「え、休暇?」
「そう。今日は折原警部も斎城警部も休暇でお休みだって。聞いてません?」
その休憩室で、二人の女性がコーヒー片手にそんな話をしていた。
「うっわ、私聞いてないわよ…。二人で休んだの?」
「はい、まぁ、斎城警部のは決められてた有給で、折原警部のは、旅行前の有給だって言ってましたけど」
「旅行前?あぁ…あれか、科捜研に入った矢霧女史と、大学生の子供とか…。何か、私の描いてる大学生と違うんだけど。昨今の大学生は友人同士で旅行とか一人旅とかで冒険するより、家族と一緒に行くの?」
「さぁ…。私は、一回一人旅したことありますけど。親に事後承諾で」
「冒険するわね、若葉…。まぁ、私はあの頃からこっちの仕事だったからなぁ。羽伸ばしにばあちゃん家に行くくらいだったかな」
二人の女性は、コーヒーを見ながら時間を確認する。うん。まだ大丈夫そうだ。
「そういや、今日は長官もお休みよね。何、あの三人示し合せてんの?」
「そんなわけないですよ…。長官は、確か息子さんからのお誘いでどこかに行くって、折原警部が言ってましたけど」
「どっかって…」
SPつけてんの…?と思いつつ、浅上六実はコーヒーを飲み干した。後で問い合わせればすむ話だ。
「長官がお休みで、あいつらは休暇かぁ…。定時に上がれたら、どう?夕飯」
「はい、是非!あ、この間、いいイタリアンのお店紹介してもらったんですけど」
「お、いいじゃん」
そう言ってデスクのある部屋へと戻る姿は、普通の女性と変わらない。夕食の予定を立てる彼女らは、それらが本日、休暇をとっている存在によって打ち壊されてしまうなど、当然だが、知らなかったのである。
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一方。
旅行前の最後の有給と銘打って休みを取った臨也は、家でのんびりとしていたわけではなく、とあるデパートへと来ていた。
否、久しぶりに少しだらけてみようかと思ったら、家の女傑に運転手に命じられたのである。
「波江、決まった~?」
「えぇ、まぁ…後はどうしようかしら…」
「旅行先のお土産でもいいんじゃないの?」
買い物内容はただの日用雑貨の買い足しなのだが、子供二人が揃って友人と遊びに行ったので、自分にお鉢が回ってきたのだ。
あれから、ほぼ一年。
正臣や沙樹は大学生となり、学部は違うものの、帝人や杏里と良い友人関係を築けているようだ。池袋にもたまに顔は出しているようで、昔との差を面白おかしく、しかし、どこか寂しげにも話してくれる。
帝人や沙樹は池袋の住人で臨也の現在を知る数少ない人間でもあり、時折、勉強会をしに家に泊まりに来る時もある。まぁ、大抵臨也は残業でいない。
波江は、科捜研へと紹介したところなかなか評判になっているらしい。赴いたことはないが、あちらのお偉いさんとは(色々)親しいので、よくそんな話は聞いているのだ。
そしてまぁ臨也…自分はといえば、少し覚束なかった足取りも戻り、背中から挨拶代わりにたたかれてもさほど痛いと思わなくなり、新宿にいたころの生傷の後も薄くなって…すこぶる健康体である。
欠点としてあげれば、睡眠不足はいまだ解消されていない。
しかしそれでも、この生活に馴染んできている。妹以外の『おかえり』という言葉に違和感なく返せるようになって、新宿のではない、あの家に、自分で明かりを灯すことが少なくなった。帰って寝る、中継地点の、家といえるのかわからなかった家が、『家』になった。
「慣れって怖いよねぇ…」
「随分今更ね、私はもう、あなたが警察手帳を持つことに慣れたわよ」
呟いた言葉が聞こえたのだろう、厭味ったらしく笑ってそう言った波江に、今日も一応持ってるよ。と笑って返した臨也は波江から袋をとって歩き出した。
「お昼、どうする?このデパートで食べてく?」
「そうね…。あの子達は、今日は何時に帰ってくるんだったかしら」
「夕方だったかな?夕飯には帰ってきますって言ってたからね」
「じゃあ、食べて帰りましょうか。その代り、食べたらもう一軒店に行くわよ」
「え"」
寄り添いはしないが、遠ざかりもしない。
二人の距離は、一年経とうとも縮みも伸びもしなかったようである。
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「お昼、どうしよっか?」
他方、その頃池袋。
色々と回って満足したのか、公園で休憩している正臣達四人の姿があった。
「俺達は夕方に帰りますって言ってあるし、昼飯はどっかで食べないか?」
「そうだね。園原さん達は、何か食べたいとこある?」
「おいおい帝人…こういう時の為に、俺はちゃんと調べて「そういえば正臣、この辺に新しいお店で来たって言ってたよね。そこにしようか」……沙樹さん、俺はスルーですか…?」
実に通常営業中である。
紆余曲折とあったものの、池袋の街は、見た目はさほど昔と変わらない。その裏にあったものがごっそりと抜けたり、放逐されただけ。
どこか秩序のあった池袋の『非日常』は、無秩序なそれへと姿を変え、そして、それが日常になりつつあった。
臨也がいなくなっても、情報屋なんて人間は山ほどいるし、池袋の都市伝説は今日も変わらずその姿を見かける。正臣は意図的に彼らとの接触を避けていたが、そろそろ、臨也たち曰くの『掃除』も終わるとのことだし、顔を合わせて話す時が来るかもしれないだろう。…まぁ、積極的に会いたいとは、別に思わないが。
「行くよ~?正臣ー?」
「あ、おぅ!!」
それぞれが日常を生きる中に、小さな一石が投じられるからこそ、それは常からでは見えない『非日常』へと姿を変えるのだろう。
常に起これば、それはすでに『日常』だ。
そしてその『非日常』は、すぐ近くまで迫っていた。
「……?電話…か?」
あとがき↓
お久しぶりです、本業パロ続編よりおおくりしました。時間的には、『始』よりもちょっと前です。文体などがちょっと変わっているかもしれませんが、どうぞ、広い心でご容赦ください…。
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