「三行ラブレター?」
「そ。三行、六十文字。それで愛を語れってことだよ」
「三行半じゃなくて?」
「新羅…それは叩きつけるものじゃないか?」
怪我の治療も兼ねてやってきた臨也との何気ない会話。それが、その日の池袋の、ちょっとした始まりだった。
臨也は、三行でその愛を綴れという。60の文字。簡単なようで、なかなか難しい。
今日は急患もなさそうだし往診の予定もないと、新羅がペンを持ってその文字を数えながら唸っていると、セルティがちょうど仕事から帰って来た。
『新羅?』
「あぁ、お帰りセルティ!!今ね、ちょっと君にラブレターを書いてるんだ!!」
『ラブレター?』
不思議そうなセルティに、先程までいた臨也との会話を教えると、なるほど、と頷いた。
『面白そうだな』
「でも、難しいんだよ意外と。でも、頑張って書くよ。君への思いを三行に凝縮なんて」
『な、何を言ってるんだ!?』
そう言って、慌てるセルティに、新羅は笑った。
どんな六十文字を、君に捧げよう。
いつも言葉に出しているのに、いざ伝えようとペンを握ると、
何故か照れて、書けなくなる。
**********
「三行ラブレター?あぁ、昨日のテレビね」
「うん。波江は?誰かに捧げる六十文字!」
「そうね…誠二への思いを六十個の言葉になんて表せないわ。むしろ言葉じゃ足りないわ」
「……………あぁ、そう」
そんな会話をして、事務所を出る。たった三行なんて馬鹿馬鹿しいと思いつつも、頭に思い浮かべる自分がいた。
でもそれは、何となく言われたとおりにしているようで癪だったから。
送るのは、嫌味で人を小馬鹿にしたような、でも子供っぽい、上司へ。
帰る時、明りがいつ消えるのかと思う。
ちゃんと寝てほしいと思っても、
それをもたらすのがあの喧嘩人形だと、何処か面白くない。
********************
「三行ラブレターだぁ?」
「そ!昨日テレビでやっててさ、やっぱ人間は面白いよねぇ。一人一人、あそこまで違うものを作り出せるなんてさ!…あ、そこの醤油とって」
「…おぅ」
何となく食べに来た夕飯の席。
話題になったのはそんなテレビ番組。しかし、静雄は昨日、仕事の付き合いで呑みに行っていたので分からなかった。
「どんなんだ?」
「簡単簡単。三行、六十文字で、誰かへのラブレターを書くんだよ。結構難しいらしいよ?」
「……そうか?」
「うん。新羅から三行に何かまとまらないよ!ってメール来たし」
そう言って黙々と食べ続ける臨也を見つつ、新羅にこの話題を提供したのなら、今頃セルティは大変だろうな。と静雄は人事のように考えた。
三行、六十文字。
「?静ちゃん?」
「……なんでもねぇ。それよりおかわり」
「はいはい」
情報屋の顔も、今の穏やかな笑顔も
全てが手前だというのなら、
俺だけが知っている顔は、手前の中にあるのだろうか。
********************
「三行ラブレター?」
『おぅ…臨也の野郎が、昨日のテレビでやってたとか…』
「あぁ、やってたね。あれは感動するよ」
珍しく兄からかかってきたその電話の話題は、自分も随分前にゲストで出た番組のコーナーのことだった。
意外と難しいけれど、でも、何だかくすぐったい、三行六十文字。
「兄貴は、誰かに書いたの?」
『え?ん、んなわけねぇだろうが。んな恥ずかしい文章書けっかよ…』
焦ったような声に、あぁ、きっと心の中で書いたんだなと、幽は笑った。
「書いたら、伝えるのが一番だと思うよ」
『い、いや、だからな……』
電話口の向こう、たった一人、兄をニックネームで呼ぶ声が、夕食後のデザートの品名を告げているのが聞こえた。
「…兄貴、今度、俺も食べに行っていいか、臨也さんに聞いておいてね」
『?』
「久しぶりに、俺と兄貴と臨也さんで、食べたいな」
あの時口を衝いて出た言葉は、決して思いつきじゃない。
貴方が自分を受け入れたのは、
その人がいてくれたからだと、分かるから。
三行、六十文字の、大切な人へ贈るラブレター。
あなたも、贈りませんか?
PR
みんなそれぞれのラブレター、とてもほんわかした気持ちになりました。
ありがとうございました!