情報確認時は今日。たったの数時間前。
衝撃的かと思われる内容と裏腹に、
それは随分と静かに受け入れられていた。
「…まぁ、静雄がすみませんでした。
とか言ってたんだろうと思われてるだろうな」
『マジですかそれ?!』
「知ってる人は皆そう思うだろうね…」
『闇医者さんって、あの人ですよね?…ちょっと意外だな』
「さぁて、セットンさんはどう出るかな~」
「お前やっぱ情報屋して性格よくなったよ…うん」
『皆さんはこの情報、どーおもいますかぁ?』
******************************
信じられるか!
セルティの声はそれ一つだ。
他の三人が情報を出し合い協議している間も、
セットンとして積極的に会話に混ざれずそれしか考えられなかった
。
どうせ今頃、
画面の向こうでは臨也がにやにやと笑っているに違いない。
あれが本物か偽物かなんて知らないが、
あれだけ顔が同じならどこかで血が繋がっているだろう。
そうなればやることも想像できると言うものだ。
何よりも甘楽としてここに顔を出しているということが、
性格がねじ曲がった人間であるということを証明している!
「…セルティ?」
!…森羅、大丈夫か?
「…うん。リビングでちょっと話さないかい?」
その言葉に、
セルティはチャットのことを思い出し多少迷うそぶりをしたが、
結局森羅の話が気になって情報交換どころではないだろうと判断し
、チャットに少し落ちると書いて部屋を出る。
「いいのかい?」
あぁ、別にいつでも話せるからな。
部屋を出るとき、
スリープ寸前の画面が何行か更新されているのが見えた。
乙ですー
お疲れ様です
セットンさん乙です!それではさようなら~☆
そしてこの日を境に、甘楽がチャットルームに顔を出すことは終ぞ無かった。
******************************
「おかえりなさい」
「…」
怪我したから一晩帰って明日から暴れろ。
と言われ半ば強制送還された臨也を玄関で迎えたのは、
今頃職場にいるはずだろう波江だった。
「ちょっと?頭打って更に変にでもなったの?」
「へ、え、あぁ…ただいま」
現実だったらしい。
怪我人に容赦がないこの物言いは間違いなく波江だ。
「貴方が怪我したらしいから、
大人がいた方がいいだろうって言われたのよ」
「…あ、あぁ、そう言うことね」
どう言った風の吹き回しだと、
真っ白になった頭で真剣に考えてしまった。…何とも情けない。
「しばらく籠もるかなぁ…」
「あら、捜査息詰まってるの?」
「葛原に聞かされた話じゃ、乗り捨てた車と、
乗り換えた場所は特定したらしいよ。単に最近、
一人で思考を回すことがなかったなぁと思ってね」
情報屋であった時はお互い様、敵を騙すならまず味方からで、
ずっと誰もが違う盤上で互いを操っていた。
一人でも平気なように、一人でいいように、
思考を回すことを絶やさなかった。
それはある意味成長と同義であった。
だというのに、
仇敵一人が去ったとは言え物騒な世の中でこの体たらく。
「なっさけねぇ…」
「…えぇそうね」
うわ波江さん容赦ないわー
怪我人なんだから少しくらい優しくしてくれたっていいのにそうだ
子供達に慰めてもらおうそうしようとブツブツ呟きながらうなだれ
て幽鬼のように廊下を歩く。
頭に怪我を負っているのだから低くするなといいたいが、まぁ、
無理だろう。
「…いつまでもお高く止まってんじゃないわよ」
******************************
「ただいまぁ」
「臨也さん。怪我は大丈夫ですか?」
「標識にやられたってマジっすか」
「うん、俺が待ってた言葉はこれだよ…。
後それ俺が標識にぶつかってったみたいに聞こえるからやめて」
リビングまでたどり着くと、心配そうに沙樹が、
楽しげに正臣が言葉をかけてくれる。
他の二人はどうやら帰宅したらしい。
池袋内でまた情報を集めるとのことだ。
「そういえば、あの情報大丈夫なんすか?目ぇつけられるんじゃ…
」
「あぁ、チャットでのこと?
あぁしておけば首なしライダーは噂が元で傷つけられないよう離れ
ようとしないだろうし、
以前の非日常を知る人間は平和島静雄の件で謝っていたと思うだろ
う。それでも目を付けてくる人間には、
警察が関係者かと目を光らせていると思わせればいい。
それぞれの警戒心を煽って動けなくできればタダだしね」
「タダって…まぁそうかもしれませんけど」
「ご飯どうしますか?」
「あぁ、食べるよ。今着替えてくる」
そう言って鞄と上着を腕に臨也が自室へと向かうと、
正臣はさながらゴゴゴゴゴ…
とでも言うような効果音を背後から感じた。
決して聞こえたわけではない。
後ろを振り向くと、
不機嫌さが振り切れて今にも何らかの薬品を取り出しそうな、
波江の姿があった。
「な、ななななななみ、波江さん…?」
「どうかしたんですか?もしかして具合が悪いとか…」
沙樹、その空気読んでなさは臨也さんの影響なのかそうなのか。
それとも生来の気質なのか?俺には時々お前が分からないよ。
「…いいえ、体調はすこぶるいいわ。…それよりも、」
鋭い眼光が正臣を射抜く。恐ろしいほどのその視線は、
人一人気絶させることも可能なんじゃないかと思わせた。
「貴方達はどこまで情報とれてるのかしら?
私にはあまり入ってこないから…教えてくれる?」
「え、あぁ、わかえりました。でも何で」
「
とっとと終わらせて間抜け親父にどういう教育してたのか聞き出す
わよ」
「へ…」
言葉を遮られた正臣は、
チャットルームの情報を書き留めた物をとろうと中腰のまま振り返
る。沙樹は、
心配そうな顔から少しだけ驚いたような顔に変わっていた。
「…何度だって凡俗に落としてやるわあの男…!」
その小さな呻く呟きは、幸か不幸か沙樹にしか聞かれなかった。
その後に自棄になったように波江が言ったとっとと温泉でも行くわ
よ!の一言に、疲れてるんだなぁと正臣が苦笑して資料を渡す。
「…正臣は、鈍感でもいいけど、一人で先には行かないでね」
「え?…おぅ?」
「…何か今、寒気がしたなぁ」
PR