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「えぇ~?これって…」
その日、狩沢がネット仲間からもらったとある一枚の写真が、翌日の池袋を局地的に震撼させた。
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「イッザイザ~!やっほ~!」
「どーも…。ったく何なの?ドタチン経由で呼び出して…」
「悪い。だが、狩沢の奴が呼んでくれって言ったんだよ…。遊馬崎は知ってるか?」
「いえ、僕も全く…」
平日の池袋。
今日は池袋に来る用事はないと家でのんびりとしていた臨也が、門田によって呼び出されたのは13時頃だった。
まぁ暇だから。と思ったは良いものの、何か嫌な予感がする。おそらく、昨日関西にいる情報屋仲間からの知らせのせいだろう。
「俺、明日ちょっと大阪行くから、早く済ませたいんだけど」
勿論、その仲間は明日、拳固でボコることを心に決めているので、問題ない。
そう心に誓いつつの臨也のキラキラとした笑顔に、門田は一歩下がった。流石というべきか、臨也の機嫌が下降したことを察知したのである。
「イザイザさぁ、三週間前、池袋って言うか…東京にいなかったよね?」
「あぁ、よく知ってるね。仕事でちょっと出かけてたけど…それが何?」
「昨日さぁ……関西の方のちょっとした同志からデジカメ画像をもらったんだけど……これ、イザイザだよね?」
バッと目の前に出された、一枚のプリントアウトされた写真。
思わず門田達も覗き込んだそれに写っていたのは、十数人の集団だった。
制服を着た高校生が数人と、私服の、20代くらいの男女数人。
楽しいのだろう、全員が、満面の笑みで歩いている。……うん。隠し撮りだ。
「…?おい、狩沢。どこに臨也が…」
「やっだなぁドタチーン。ここの真ん中の…あっ」
狩沢が、臨也がどこにいるのかを指そうとしたその時、写真は臨也の手によって奪われていた。
臨也の顔は、門田でさえ見たことがないほど真っ赤になっていた。
「ちょ、どっから手に入れたのこれホントに!」
「あ、やっぱイザイザなんだ~?」
「え、あ、いや、えっと…あぁ~!!」
「い、臨也!?」
今度は、頭を抱えてうずくまる。冷静沈着な新宿の情報屋の欠片もない。
「へっへ~ん。で、これって変装?」
「ンなわけないでしょ…」
既に諦めたのか力尽きたらしい臨也の手から、狩沢が鼻歌交じりで写真を抜きとる。臨也はまだ衝撃から立ち直っていないのか、耳まで赤くしていた。
「おい狩沢…いないだろうほんとに」
「そうっすよ。制服のコスプレしてるわけでもあるまいし…」
「いねぇじゃねぇか」
渡草までもが、写真を見てそういう。確かに、そこに『臨也』の姿はなかった。
「イザイザ、い~い~?」
「もう、変にその情報ばら撒かなきゃいいよ…。特に静ちゃん…」
「りょーかーいっ!」
そして、狩沢が指したのは、その集団の中心にいる二人の女性のうちの…片方。足までかかるかというくらい長い黒髪に、可愛い白のワンピースと、藍色のカーディガンという、何だかお嬢様風の女性だった。
「こ・れ・が!イザイザ!!」
「「「…はぁ!?」」」
「何で狩沢が気付くのかが疑問だよ……」
その後、衝撃のあまり、三人は固まった。
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その後、逃げようとする臨也をとらえた門田が、後ろから拘束してワゴンにのせ、車という密室での狩沢による尋問が始まった。
臨也にとっての救いは、自分を後ろから抱えている門田がちょっとしたストッパーになってくれたことだろう。
「三週間前は、知り合いの高校生達の卒業式があって…それで、お祝い兼ねて遊びに行ったんだよ。多分、それは…U〇Jに行く時のじゃない?大阪駅近くでしょ」
「うん。そー行ってた。『R'S見た!』って言っててさ。関西勢はそれだけで何か分かったらしいんだけど」
「……それは、狩沢は知らなくていいと思うよ」
「それは嫌だよー」
にこやかな笑顔の応酬が、何だかどす黒い駆け引きの応酬に見えるのは気のせいだろうか。
今までの臨也の説明を要約すると、それは確かに自分であり、そして、じつは自分は女である。ということだった。ちょっとした事情で、男の恰好をしているらしい。
で、関西では、普通に女の恰好をしているという。
「まさか、よりによって狩沢にそれが流れるとは…」
「へっへーん。うちらのネットワークもかなり広いし早いんだよ~?」
「は、はははは…見習わせてもらうよ」
完全に臨也は逃げることをあきらめて、後ろの門田に全体重を預けた。気力もないらしい。
「…大丈夫か?」
「それ、逃げようとする俺を捕まえた人間の言うセリフじゃないよね」
「……悪かった」
説明が欲しかっただけなのだが、まさかこうなるとは思っていなかった。思考がしっかり働いていなかったためテンションの高い狩沢の号令に従ってしまったのが悪かったのだろう。
「ねね、これカツラだよね。それとも今の方がカツラ?」
「…今がカツラ。写真の方が全部自前だよ……」
あぁもう逃げたい。静ちゃんでもいいから襲撃かけてくれないかな。もうそしたら静ちゃんに免じて半年くらい池袋に来ないよ本当に!!
しかし、そんな時に限って、いつも来る喧嘩人形は無情にも来てくれなかった。
「さて!そうなったらゆまっち。行くよ!」
「えっ!?」
「その同志によると、こっちの、写真のイザイザはメイドにドレスにつなぎ、ゴスロリもセクシー系衣装も何でも着こなすなんか凄い人らしい!」
「えぇっ、そう何すか!?」
「ちょ、それ絶対自分に都合よく解釈してるよね!?」
狩沢のテンションにあおられた遊馬崎が、渡草を促して車を発進させる。そのエンジン音が、臨也には地獄の扉が開く音に聞こえた。
「俺はコスプレなんかしたことないってば!」
「何を言う、我が同志の言うことに嘘はない!!」
「ちょ、ギャー!!助けてドタチン!!」
「ほら、男は回れ右回れ右!あ、カツラはこうやって外すのか~。お、イザイザ以外に胸も…」
「ぎゃ~!せくはら~!!っ、ちょ、揉まないでってば!」
「イザイザかーわーいー。ふふふ、良いではないか良いではないか」
「……狩沢、もしかして寝てないんじゃないか?」
「…だとしても、今振り向いたら俺達が殴られますよ…?」
後ろでの、明らかに振り向いてはいけないだろう背後の世界に顔を赤くしつつ、門田は臨也に謝った。……ついでに、例の写真はこっそり懐にしまう。何となく、もったいない。
「いーやー!!ちょ、ほんとに止めてー!!」
「だーあーめーw」
……本当に、申し訳ないが、止めたくとも振り向くと危ない気がした。
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「………大丈夫か、本当に」
「大丈夫じゃないよぉ~…」
現在、連れて行かれたコスプレ専門店での狩沢と店員による大着せ替え大会も三時間を経過。
流石に休ませろという門田の言葉によって、臨也は門田に抱きついてえぐえぐと泣いていた。
既に気力体力ともに臨界点を突破したらしい。
ちなみに、今の服装はショートパンツに黒のニーハイソックス、上は黒と赤のチェックが入ったシャツに、同じ模様のネクタイという、スタイルである。髪は上で複雑に結いあげられており、いつものように頭を撫でるわけにはいかない。
「うぅ、帰りたい…」
「……悪いが、俺達にはあの二人を止める力はない」
遊馬崎も結局ノッてしまい、渡草と門田は二人して避難していた。
「明日行こうと思ってたのに…」
「あぁ、大阪にとか……もしかして、あれ、か」
「…そう。俺がほんとは女だって情報が漏れそうだ~って…その、写真に写ってる奴の一人から連絡来て、せきとめはしたらしいんだけどね…ちょっとシメに」
臨也の目が、物騒な光で光る。それでも、服のせいか、恐いというよりは違う印象を受ける。
「…ま、そろそろ終わらせないと際限ないからな」
「うぅ…お願いします…。ドタチンだって…この格好は似合わないと思うよね…?」
「…………」
門田は、何も言わずに視線をそらす。似合わない、とは思えないのだが、似合うと言ったらそれはそれで怒られそうな気がする。
「……ドタチン?」
「…すまん、ノーコメントで」
少しだけ、あの写真の中の満面の笑みが見たいと思った門田だった。
あとがき↓
…あれ、門臨?いいえ違います。
とにかく、中盤の狩沢様を書くのがめっちゃ楽しかった。