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学校だけは、しっかり行こう。高校は無理でも、予備校に行って大検受ければ大丈夫だろうし、元々頭悪いわけじゃないだろ?
働きたい。といった自分達に、まだ完全に治っていなくて助手にベッドに括りつけられていた人は、そう言って笑った。
そして、あれから一年と少し。
「それじゃ、先に行ってますよ!!」
「はーい。デジカメ持って後から行くから、気をつけてね」
「はい!行こう、正臣!」
「ちょっと、バッグ忘れてるわよ!」
俺、紀田正臣と三ヵ島沙樹は、大学生に、なります。
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「いや~、天気もいいし、良かったよね。入学式日和だ」
「そう言って…私は貴方のリハビリが終わる方が遅いと思ってたわ。車いすで会場に入れるかと考えてたくらいだもの」
「…………リハビリ終わったのはもう半年も前だってのに、色々と気が早いなぁ波江」
春を告げるような、爽やかで、少し冷たい風が吹く、四月×日。
この日、東京都のいくつかの大学で、新入生を迎える為の入学式が行われようとしていた。
「事実じゃない。あの子たちは覚えもいいし、暇な貴方から勉強も習ってたんだもの。受かって当然でしょう。なら、心配するのは貴方のリハビリ状況じゃない」
「暇なって…俺から仕事の書類取り上げてベッドに縛り付けてたの波江じゃないか…」
お互い品の良いスーツを身にまとった二人は、その入学式会場まで並んで歩いていた。近くに駐車場はあったので、そこからの徒歩だ。
「でもまぁ、よく有給が取れたわね」
「ん?」
「無理かもしれないって、貴方の同僚が前に言ってたから」
「あ、あぁ~~…。うん、まぁ、ちょっと尊い犠牲も出たけどね」
遡ること数日前、警察庁の某偉い人がいるお部屋。
「長官、休みください」
「却下」
その瞬間、室外にいた人間が寒気を覚えるほどのブリザードが発生したことは、言うまでもない。
しかし、室内にいる二人は、そんな空気の中でも笑顔を絶やさなかった。
「仕事は終わったのか?折原」
「終わらせますので休み下さい」
「却下だ却下。お前のおかげで書類仕事もはかどって、裏取りもはかどって、ついでにお前の部下も喜んでるのに何で休み何ぞやらにゃあかんのだ」
「そんな理屈は通りません。大体、後者二つはそうだとしても、書類仕事は長官がサボるからでしょう。俺のせいじゃありません」
きっぱりすっぱりといった臨也に、男は眉をひそめた。こちらをまっすぐと見る目は、六年前とさほど変わりない。変わりない…が……。
「そんなこと言うなら、奥さんに今度ばらしますよ?長官が実は聖辺ルリの大ファンで、仕事だって言って息子さんとコンサー「わーっわーっわーっ!!お前どこで知ったそんなこと!!しかも二年も前の話だぞ!」…………………二年前『から』でしょう。先週、池袋でのイベントちょっとでも見たいからって運転手の斎藤さんにコース変えてもらったそうですね?駄目ですよ。池袋なんて危ないところ」
「お、折原…」
折原臨也は、一年ほど前まで池袋と新宿に潜伏し、敵を騙すにはまず味方から。警察も、事情を知る一部さえ疑ってしまうほどの見事さで裏の世界へと入りこみ、その危険性を肌で感じて来たのである。
その真摯な顔と声に、まさか、自分を心配してくれたのか!?と思った。が、
「斎藤さんが可哀想でしょう!俺にとっちゃあの人は小さい頃から飴やらガムやらくれて、長官のついでだからって家まで送ってもらったり遊んでもらったりもした近所の親切なおじさんレベルで親しい人なんですよ!?」
「………………お前、情報屋やってる間に性格ねじ曲がったよなぁ…ほんと」
「っさいくそ親父」
「俺はお前の親父じゃないぞ」
「じゃあくそ爺」
あぁ言えばこういう…。
テンポの速い会話にため息をついて、男は椅子に深く座りなおした。
ちなみに、臨也は先程から立っている。そこは、どんなふうに接していても、階級というものがあるのだ。
「…で、何のために休むんだ」
「あれ…言ってませんでしたっけ?正臣と沙樹の大学の入学式ですよ。保護者だし…行きたいと思って」
そう言ってほほ笑んだ臨也に、それならそうと早く言え。と、男は呆れたように呟いた。
復帰してそう日も経っていないのに、まさか怪我が悪化したのかと考えてしまっていた。事実、復帰初日は復帰を祝う同僚から肩を(かなり)強く叩かれただけで、顔をしかめて唸っていたほどだったので、あり得ない可能性ではない。
そう思ってたら何故休暇をすぐに許可しなかったのかというと、臨也がいると仕事の効率が3倍は良くなるからである。
「あの子らも大学生か…良かったな」
「俺の手伝いはしないで、好きなことしていいってはいってるんですけどね。どうにも、こっちに来たいみたいで。説得してます」
「しなくてもいいじゃないか。頼もしい人材が増えるのはいいことだ」
「それでも、大学に入って視野を広げてほしいと思うのは、我がままじゃないでしょう。学歴も大事な時代だし、何より、友人と一緒にいてほしいですからね」
「…?まぁ、相変わらず、お前があの子らの親をやっていることは分かった。一日だけだぞ!その代わり、それまでにたまっている仕事はすべて片づけろ」
そう言って渡された許可証を手に、臨也はにっこりと笑った。
「わかりました。書類はちゃんと振り分けてやりますので、不可の物はお返ししますね」
「えっ!?ちょ、おい折原!!?」
それを見ていた部下は、「この人達は本当に上司と部下って感じしないよなぁ…」と、ここ数日で慣れた光景に苦笑していた。
「…まぁ、部下達も昨日今日と交代で休暇取ってるし、回復するでしょ」
その後、臨也はにっこり笑顔と共に仕事を容赦なく部下(と上司)に振り分け、見事、本日の平和な有給を勝ち取ったのである。
「尊い犠牲ってそういうこと…。相変わらず人使いは荒いのね」
「そう?新宿で波江と仕事してた時とあんまり変わらないと思うんだけどなぁ…。あぁ、波江が優秀すぎたのか」
「…………バカなこと言ってないで行くわよ」
「はーい」
早足で先を進む波江の耳が少しだけ赤いのを認めて、臨也はこっそりと笑った。
波江も、結構ストレートな言葉に弱いよなぁと。楽しそうに。
「そういえば、」
「ん?」
「正臣達のこと、『友人を作ってほしい』じゃなくて、『友人と一緒にいてほしい』って言ったのね。どうして?」
振り返ってそう行った波江に、やっぱり波江は凄いなぁ。と呟いた臨也は、数歩大きく歩いて波江と並んだ。
「二人が入学する大学にね、実は――――――――――…」
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そして、入学式の終わり、保護者である二人と落ち合って帰ろうと正臣達が辺りを見渡している時、その声は、聞こえた。
「紀田…君?」
その、小さくとも自分に確実に届いた声に、正臣は驚いたように後ろを振り返った。
そこにいたのは、背も高くなり、眼鏡をかけているが、絶対に見間違わない…あの時裏切るように出てきてしまった池袋の、友人。
「みか……ど…」
竜ヶ峰帝人が、そこに、いた。
あとがき↓
すみません、ちょっと焦って書いたので誤字脱字などあるかもしれませんが(汗)