お待たせしていた通販分を、すべて発送いたしました。お待たせして申し訳ないです…。また、何通か印刷時のミスでお名前の後に『様』が入っておらず手書きとなってしまいました……。
次の通販は未定です。これから来年の今頃まで忙しい日々が続くので、更新も来年は完全に停止するかと思われます。たまに出没はする予定ですが…。年末に出したりする場合は、委託となると思います…。書店にお願いしようとは思ってます。
さて、全部発送完了したので、本業パロより。『遭遇』の後になります。
来良組+喧嘩人形+闇医者
――――――――――たまに、思う。
アイツは、何所かで生きているんじゃないかと。
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東京・池袋。
人々がやっと、息のしにくさを、そして『自由』の喪失を実感し、ソレに慣れざるをえないことを自覚した。
皆が、池袋の裏を僅かでも知り得ている人間の誰もが、あの『新宿最凶』に守られていたことを知った。
それは例えば、重要な客であったり、
情報であったり、
話題の的であったり、
はたまた取引相手でもあった。
どんな男であろうとも、彼は、この池袋を『外界』から守るのに一役買っていたのだ。
しかし、池袋で銃撃戦が繰り広げられ、大捕り物があったあの夜から、折原臨也は姿を消した。聞けば、新宿の事務所は売り払われ、数週間前から、仕事はすべて様々な理由で断られていたらしい。
「静雄は認めたくないんだろうけど、折原臨也という人間もまた、この池袋の非日常を象徴する大きな要因であったんだよ。そして何より、僕らの日常が非日常であるのを何よりも守っていたのは彼だ」
「はっ、あの野郎が…」
「あれから、どうして警察がすぐ来るか疑問に思ったことはないかい?そして、街では薬や暴力もまた、大小関わらず多発する」
静雄は、怪我をして新羅の家に来ていた。ちょっとしたかすり傷だが、静雄にとっては久しぶりの怪我だった。
そして、今の池袋の話題となったのである。
「『昔は良かった』なんて懐古するような言葉、一年前の池袋の連中は言うとは思ってなかっただろうねぇ。外から売人がこれ幸いにとのりだし、『娯楽』の減った池袋では、ただ何処にも発散できない感情を吐き出す為の暴力が増える。そしてそれを、今まではあまり出てこなかった警察が取り締まる。…本来は警察が取り締まるべきことが、少し前までは派手に起こったこともないし、警察が出てくる前にすべて終わっていた…」
「それが、あのノミ蟲の仕業だったってのか」
「もちろんそうだよ」
新羅は、臨也が必要以上にこの池袋、そして新宿に、薬が流通するのを嫌っていた。それは、彼が掲げていた『人間愛』の一欠片のようなものでもあったし、どこか信念を持って続けていたようにもみえる。粟楠会が流れ過ぎないようにとはしているが、それでも、昔に比べれば学生が手にしてしまう危険性などが増していた。
また、臨也と静雄の喧嘩は、一種のパフォーマンスでもあった。
人外とも言うべき二人の身のこなしを駆使した喧嘩は、どこか気分が高揚する。離れて安全圏にさえいれば、それは、プロレスなどを観戦しているような、そんな気分にさえさせるのだと聞いたことがあった。
「臨也は…ここを守ってたんだよ」
「………」
静雄は、肯定も否定もできなかった。
臨也がいなくなって嬉しい半面、確かに、街がどこか息苦しくなったように思えたのは事実だ。
しかし、しかしそれでも、
「あの野郎が死ぬタマか」
「静雄…?」
「あのふざけたアホ面ぶん殴るまで、それだけは認めねぇ」
死ぬはずがない。自分と、対等に喧嘩して、殺し合って来たあの男が。
だが、
「静雄………臨也はね、普通の人間だよ」
新羅のため息交じりの言葉が、静雄には強く重く聞こえた。
**********
「池袋なんて久しぶりだな~…」
「そうなんだ。あ、何処行く?」
「まずはお前らの荷物を置いてこないと…。先に杏里の家でいいか?」
「あ、はい」
池袋駅に、四つの影があった。
その四人は疲れたような顔をしながらも、会話は明るく、どこか弾んでいた。
「杏里さんは、一人暮しなんですか?」
「はい、大学入学をきっかけに…。竜ヶ峰君の家の近くです」
「……え、同棲じゃねぇの帝人?」
「正臣っ!」
四人は、世田谷の折原宅からの帰りでもあった。といっても、『帰り』なのは帝人と杏里だけで、正臣と沙樹は送りついでに出かけておいで。と二日酔いに苦しむ大人の世話を外されたのである。
今頃、臨也と波江はため息をつきながら酒瓶や皿などを片づけているだろう。
「でも、楽しかったなぁ…。面白い話も聞けたし」
「普通の仕事じゃないからな」
「でも、仕事には真面目だよ?」
「あ、私もそう…思いました」
女性二人の笑顔での言葉に、真面目な人間は仕事の合間に趣味でアレコレしねぇよ。と思った正臣だったが、流石にこれを言葉にすると千里眼でもあるんじゃないかという疑いを持つほど鮮やかに、帰宅したら玄関で臨也がまっているに違いないので、心の内にとどめておくことにした。
「あ、そういや、夕飯は食べてきていいよって、金もらったんだっけ…」
「えぇ?あ、僕の家とかで作る?あんまり使っちゃ悪いし」
「あ、大丈夫ですよ。お仕事の書類整理とかでもらったアルバイト代を早めにくれただけだろうし。ね」
「そう言ってたしな。あ、どうせなら露西亜寿司とかで買って、帝人ん家で食うか?サイモンにも会いたいし」
「あ、じゃあそうしようか…。まずは、家に帰って荷物置いてこよう」
笑顔で歩く四人を、周囲の人々は驚きの目で見つめていた。
それもそうかもしれない。池袋から姿を消したと思われていた、紀田正臣がそこにいたのだから。
その笑顔には、一年以上離れていたという、空白の時間が見えなかった。
「お土産も買って行こう?正臣」
「そうだな~…。ま、それは帰る前にしようぜ。あ、あと、二人ともわかってると思うけど、俺らの住んでるとことか、誰にも喋らないでくれよ。まだ家ん中散らかってるだろうしさ」
「わかった」
「はい」
そうして、昼の池袋に、ほんの少し、小さな小さなかつての『非日常』が、舞い戻ってきた。
**********
「…新羅、俺、たまに見るんだよ」
「…何を、だい?」
そろそろセルティが帰ってくるかなと、そう思いつつ、新羅は紅茶を飲み干した。恐らく、自分が一番、すぐに順応したように見えてまだ戸惑っているのだろうと、新羅は目の前の友人にいまだ告げられていない。新羅が受け入れているのは、恐らくもう、臨也に会えない事だ。
生きているのだろうとは、思う、でも、きっと、もう。
「あのノミ蟲が…いつものコートを着て、ブクロを歩いている姿を…見る気が、するんだ」
『情報屋』の折原臨也には、自分達が知る折原臨也には、二度と会えないのだろう。
あとがき↓
新羅さんは何も知りません。でも、何となく、勘が鋭い方だとは思うので、そんな感じがしてる。という形。
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