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五年間。
そんな長い間、皆は口をそろえて『連絡がなかった』と呆れていたが、そこには例外がいた。
当たり前と言われればそうだし、今更とも言えるかもしれない。
時間はほんの少し、彼女らが中学校に入りたての時期まで遡る。
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「クル姉!絵ハガキきたよ~!!」
「!」
折原家、現在家長がいないその一軒家に住むのは、二人の瓜二つな少女…。九瑠璃と舞流だ。
舞流は、学校から帰ってきてすぐに郵便受けを確認する。するとそこには、雲を下に見下ろす写真が写されたはがきが入っていた。
「…所(どこ)?」
「えぇっと…『モンブランって山に登ってきた』だって~!あ、知り合いの人と行ったみたいだよ」
写真に写っているのは、兄であり現在フランス在住の臨也。そして、その隣にいるのは兄と揃いのような紅の瞳に、銀の髪が光る、兄より少し年上くらいの青年。青年が臨也の肩を抱き、嬉しそうに笑っていた。
「お料理以外もやってるんだねぇ。でも、なんで登山?疲れるからヤダとかいいそうなのに」
「…強…誘……書」
「え、あ。ほんとだ。でも、それで登れる臨兄も凄いね~」
そう言って、二人は自室のコルクボードにその写真を留める。他にも、そこにはたくさんの写真や絵が貼られてあった。
アクア・アルタのイタリアの街並。ドイツのサンスーシ宮殿。アルタミラという洞窟。
他にも何枚もあるが、そのどれもが、臨也本人が行って撮影したものだという。証拠は、写真に写っている本人。
ヨーロッパのほぼすべての国を旅行しているらしい臨也からの便りは、美しい写真と共に自分達までもが行った気分にさせてくれる。
「『高校生になった初めての夏休みまで我慢するなら、金は全部出す』って!海外行けるのなんて久しぶりだよね、クル姉!」
「肯…否、何、高?」
「う~ん…。迎えには来れないからじゃない?義務教育中は大人しくって、臨兄も守ってたうちの決まりだし」
義務教育が終わったら好きにしろ。というのは、折原家の家訓に近い。そもそも放任主義の両親だ。何をしてもバレはしないだろうが、『あの』折原兄妹の遺伝子を提供した二人でもある。
やれやれ。と思いながらも、その決まりを守って国外には出ないようにしている二人だった。
「…夜、話」
「賛成!後で臨兄に電話しようっ!!」
そうして、折原家の日本宅に住む二人の夜は更けていく。
時差を考えず、昼食中だったらしい臨也の呆れ声に哂いで返しながら。
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「あ、しっずおさ~ん!!」
「よぉ。…どうした、その分厚い…」
「あ、フォトブック?えへへ~これね、今日の朝に届いたの!」
静雄さんにも見せてあげようと思って~と笑う舞流と大事そうに分厚いフォトブックを抱えている九瑠璃に、静雄は煙草の火を消しつつ首を傾げた。
臨也がフランスに戻って、そろそろ一月。そろそろ梅雨の時期で、今も雨が降りそうな空だった。
「届いたって…」
「臨兄から!でね、静雄さん臨兄帰っちゃって寂しいかな~とか思って、これ、見せに来たの!」
そこの喫茶店入ろう!と行って両手をとられ引っ張られつつ、あの野郎俺には全然連絡しねぇ癖に何やってんだ。と、今日の仕事が終わったあたりにでも電話しようと誓う静雄だった。
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静雄がパラ。と表紙をめくれば、そこにあったのは臨也と、先日会った奇妙な三人組がビールやワイン片手に馬鹿騒ぎしている写真や、知らない男女とお茶をしていたり、料理をしていたり、何かを作ったりどこか旅行に行ったらしい写真だった。最初の何枚かはあいつは何やってんだと思うような、絵にかいたような馬鹿騒ぎを見事なアングルから取った絵で…何故か、あの三人と臨也が女装している写真や、仮装していたりフライパン(高速で投げられているらしくぶれて見える)の直撃寸前のものであったりと様々だ。女装は、妙に似合っているので余計怖い。
日常をとったもの以外は、山の上だったり海の上だったり森の中だったりと、明らかにどこかに遊びに行ったものが多い。というか、何故こんなに山の頂上らしいところで撮ったものが多いんだ。
そう思って聞いてみれば、一時期登山にはまっていたらしいのだという。そちらに引きずり込んだのは山の写真だと必ず写る銀髪赤眼のあの男だ。
「ちょっと前にね、『モンブラン』って山に登って来たんだって。臨兄達が登ろうとすると大抵天気がいいから、他にも何人かの登山グループと一緒に行ったらしいよ~?」
「…部(サークルみたいだって、言ってた)」
確かに、言われてみれば10人とは行かないまでも結構な人数で写っている写真が少しある。というか、バッグにおそろいのロゴシールを入れている時点でこれはそうだと言っていいんじゃないだろうか。
「しっかし…あいつが山とか登るのを趣味にしてるとは思わなかったな」
「何かねぇ、興味があって行ってみたら、存外いいものだったんだって。体力ついたから静雄さんとの追いかけっこももう少し粘れるかもって言ってたよ~」
「ほぉ…?」
やっぱり後で電話して色々と聞いてやる。と、あって直接殴るという選択肢が使えないことを悔しく思っていた静雄の耳に届いたのは、少々意外な九瑠璃の、いつもと違う口調での声だった。
「『そこに山があるから』って言うのが疑問で、行ってみたって聞いた…」
「……………は?」
あとがき↓
疑問に思ったら、とりあえず実践してみる臨也さん。