久しぶりに見た夢は、繰り返し繰り返し同じ終わり方をした。
顔は見えないけれども、自分と同じく夢の中でも成長していったその子供は、終始嬉しそうで。
久しぶりにたった二人きりの夢の中。周りにいたはずの人々は居なかった。それを不思議に思っていると、いつしか、その人物は笑顔でこちらに手を振って、去り出した。
話してみたい。
ずっと一人だった自分に、夢の中でとはいえ一緒に居てくれた、その子供。
メルヘンだと笑われるかもしれないが、絶対に現実でも会えると信じていた子供。
その子供が笑顔で去っていく。なんだか晴れ晴れとした気配にもう会えないと本能で察するが、追いかけようとすると、今までいなかったはずの自分の大切な人間いつのまにか周囲に居て、動けなかった。
大切で大事な人々のはずなのに、今はどうしようもなく、邪魔に思えてしまう。
やがて、その姿は掻き消えて。
伸ばした手は、届かなかった。
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「………お前、確か…」
「…お久しぶり、です」
東京・池袋。
仕事の昼休み、西口公園で一人休憩していた静雄の目の前に現れたのは、数ヶ月前にこの池袋から姿を消したはずの、人物だった。
「紀田…」
元・黄巾族の将軍が、池袋に戻ってきた。
「……どうも、ご無沙汰してます」
「あ、あぁ…」
あまりにも予想外な人物の登場に、静雄としては驚きをあらわにする事しか出来なかった。まぁ、それも当然といえば当然であるのだろうけれども。
ふと正臣の傍らを見ると、一人の少女が立っていた。何となく見覚えのある気もするが、思い出せない。
「正臣…知り合い?」
「あぁ」
傍らに、可愛らしい少女を連れた正臣は、これからまた池袋で生活する事になりました。と苦笑しながら呟いた。
引越しの挨拶などで、色々と回っているのだという。
「だけどお前、臨也から…」
「……それは、もう、いいんです。臨也さんとは、俺個人としては、和解しましたから」
小さく一応。と付け足した正臣は、今までとは違い、臨也への負の感情を感じさせなかった。それは静雄にとっては至極意外なことであり、また理解しがたいことでもあった。
「軽口叩きながら喧嘩してたもんね、正臣」
「あれは忘れてくれ…」
沙樹、という彼女の楽しそうな言葉に、正臣は僅かに赤くなった顔を手で隠しながら唸る。どうやら、この少女が二人の間を取り持ったらしいと、静雄は解釈した。
当時の事件に静雄はあまり興味を持たなかったし、入り込まなかったということもあるのだろう。三人の間の事情を、静雄はまったく知らなかった。
しかし、正臣の口ぶりから、静雄は一つの疑問に思い当たる。
「お前、最近臨也に会ったのか?」
「え?」
「あいつ、前はうぜぇくらいに池袋に来てたのに、最近ぱったりこねぇから、とうとうくたばったのかと思ってたんだけどよ」
最近、というかここ一ヶ月、新宿の情報屋、折原臨也は姿を見せなかった。
街中で様々な憶測が流れるものの、それはただの噂にすぎない。臨也の妹二人にも一度話を聞いたが、二人からは「知らない」の一言しか返されなかった。
流石というべきかダラーズの情報網にもひっかからず、どこで何を企んでいるのかさえ分からない。
誰もが新宿の情報屋の存在を探す中で、静雄としてはイライラが頂点に達しかけていた。
「池袋の人達は知らないんですか?」
「は?」
「正臣、ちゃんと情報流したの?」
「いや、これが終わってからと思ってたんだけど…闇医者の、岸谷さんからも何も聞いてないんですか?」
「森羅?」
何故そこで森羅が出てくるんだ。と思った静雄に発せられた言葉は、静雄をすぐさま友人のマンションへと走らせるには十分だった。
「静雄さん!?」
正臣の呼び止めるような声にも止まらず、静雄はひたすら走る。その間、頭の中で繰り返し再生されるのは、先ほど二人から言われた、言葉。
ふざけんなっ…!!
知らなかったんですか?
あいつが、本当に…!?
臨也さん、
亡くなりましたよ?
あとがき↓
…意外と長くなりそうだったので、前後編で。これ、臨也さんが臨美さんでも大丈夫にしているんですが、どっちのほうがいいだろう…。しばらく性別不明でも進むようにはしてるんですが。…うぅむ。
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