某名探偵の映画です。ちょっと短いかな。と思いましたが、それでも楽しく面白かったです~。ツイッタで妄想を呟いたので、それについてはまた後日あげようかと思います。
『if.~La bonne médecine a un goût amer~』
「静ちゃん、紅茶でいい…?」
「え、お、おぅ……」
久しぶりに来たその家は、何故かいつもより柔らかい雰囲気に見えた。
あの変な客とか言う奴のせいなのか、目の前の…臨也の変化故なのかは分からなかったが、それはまるで、臨也の菓子のように柔らかかった。
「はい。どーぞ」
「おう」
「あ、あとね!昨日作ったクッキーと、今日作ったタルトが余ってたんだ!食べる?」
「臨、」
「食べるよね、今持ってくるから、ちょっと待って…」
「臨也」
そう言ってキッチンへと行こうとする腕を掴んで、ぐい、と引き、自分の懐に、腕の中に収める。逃げられないように。
「し、静、ちゃ…」
「臨也、それは後ででいい。そういうのは…いい。どうして、こう、なった?」
「……それ、は、」
目線を泳がせる臨也にため息をついて、ゆっくりでいいから。と促すと、臨也は口ごもりながらも、事の始まりである一週間前の出来事を話し始めた。
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…
………
………………
一つ、俺の心の内を覗ける人間に聞こう。
「新羅の奴、殴りに行っていいか」
「へっ?だ、駄目だよ静ちゃん!?新羅を殴って再起不能にしたら二度と戻れないじゃないか!」
「あ?んだよ聞こえてたのかよ…」
口には出さずに呟いたつもりだったのだが、突いて出てしまったらしい。不覚だ。
そう舌打ちすると、眉間に皺を寄せた臨也が、今度はハムスターのように頬を膨らます。
感情がすぐに顔に出てしまうのだろうか。それが面白くて思わず、指の腹でプス、とその風船を潰した。
「静ちゃんっ!」
「あ~、分かった分かった。新羅の奴には後で軽くお見舞いしとくから、な」
「ただでさえ波江とセルティにボコボコにされたのにちょっと可哀想になってくるよ!?」
あれを見た時ちょっと可哀想だったんだから止めたげてっ!
そう新羅を庇う臨也に少しムッとしつつ、静雄は何とかばれない様にやるか。とため息をついた。
全然、臨也の言うことは聞いていないようである。
「……で?」
「え?」
「何で、俺には知らせなかった?」
「………そ、れ」
「門田達にも知らせてはないんだろうし、新羅の薬ができるまでならって思ったんだろうが…何で、俺には話さなかったんだ」
「それ、は、」
「この家の鍵持ってんだぞ?俺は。勝手に入ってきたらどうしようとか思わなかったのかよ」
「う………」
事実、仕事で忙しいからと言われて行かないまでも、仕事の用事などで新宿まで来た時はよく、その窓に明かりがあることを見てから帰っていた。
死んでいるわけではない。
またバカなことに首突っ込んで、俺を巻き込まないようにしてるとかいうわけでもない。
それならいいと、そ、思っていたけれど。
思い込ませていたけれど。
「何で、話してくれなかったんだよ……」
それだけが一番、腹立たしかった。
自分は、そんなに信用されてなかったのか。信頼されていなかったのか。
そう、突きつけられたような気がして。
そんな、自分で考えて自身の考えに落ち込んでいた静雄の耳を打ったのは、泣きじゃくるような声だった。
慌ててその顔を覗き込むと、グスグスと鼻をすすりながら、臨也は泣きだしていた。
「お、おい、臨也!?」
「だっ……て…!」
「…?」
「だって、ふつ、う、おとこがおん、なに、なるなんて、ありえないでしょっ」
「そんな、の、しずちゃん、きもちわるいって、いう、て、おもってっ」
「そ、かんが、えたら…いえなかっ…!」
たどたどしくも言うその言葉は、静雄からしてみればひどい妄想である。
男が女になる?実際に目の前に事例がいるし、あの変態闇医者ならその内変な薬は作るんじゃないかと思っていた。
気持ち悪い?散々心配させておいて、言うに事欠いてそれか。しかも、目の前で泣くこのバカのどこが気持ち悪いってんだ。
むしろ綺麗で、儚くて、愛おしくて、
「可愛い…」
「っ、し、ず…?」
「俺がこんな事ぐれぇで気持ち悪いだの言うはずねぇだろうが…バカか手前は」
「ふぇぐっ…だ、って、静ちゃん、俺のこと『ノミ蟲』って言うからっ…!」
「だからって気持ち悪いとかいうかアホらしい。手前は手前だろうが」
涙で濡れた頬をつねって左右に引っ張ったりぐにぐにと押したりしながら、静雄は静かに、言い聞かせるように、臨也の想像を否定して行く。
小さく力ない反論をしていた臨也も、それは少しづつ収まってきて。
最後、優しく頬を包むように当てて、これ以上こんなことで泣かないようにと目の端にあった涙を吸い取った。
まぁ、自分の常日頃の言動もこれの被害妄想の原因たる一部だったわけだし。今度から気をつけよう。
「しず…」
「大丈夫だ……誰が否定なんざしてやるか。してくれって言われてもやんねぇから…覚悟しとけ」
その言葉に目を見開いてきょとんとなった後、
臨也は、やっと涙を止めて花が綻ぶように微笑んだ。
あとがき↓
目指せかっこいい静ちゃん…!!しかし、甘くしすぎた気もしないでもありません…。
でも、この二人、今まで付き合うどころかお互い無自覚鈍感キングなんですよ…。密着率高いのに…。
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