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サイモンは出前を届けた帰り、小さなポン、という音が聞こえて、ふと辺りを見渡した。
しかし、辺りに怪しいものはない。
そして、その音は小さく、しかしまた何度も、それは軽やかに聞こえた。
何だろうかと気になってそちらの方へと行くと、それは何とも意外な光景だった。
小さな、小さな路地裏の空き地。
そこにあったのは、白、白、白。それらはすべて鳥。
そこにあったのは、赤、青、黄。紙でできた鮮やかな吹雪と嵐。
そして、その中心に立っているのは、池袋でいつも、喧嘩をしている少年の片割れ。
鮮やかなその中で漆黒を身にまとう、少年だった。
「…イザヤ?」
「………サイモン」
その少年が自分の名を呼んだ後、パチン、と指を鳴らすと、そこにはもう、鳥も紙も存在してはいなかった。
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「シカシ、オドロイタネー、イザヤガ手品ヤルナンテ」
「趣味でね。俺の父さんはマジシャンで、今も海外にいるんだ。母さんはそのマネジメント」
すべてが消えたその後、思わず拍手をして、店で寿司を食うかと聞いたサイモンに、臨也は今までにないくらい驚いた顔をした後、とても嬉しそうに笑ってついてきた。
しかも、今日は珍しく大トロ大トロと言わず、色々なネタを食べている。
「ヘェ、タイヘンネェ」
「そうでもないよ。いればいたで騒がしいしね。俺の人間観察はさ、これに…このマジックに必要なんだ。どんな人がどうやったら驚いて、喜んでくれるか。『人間の心理』をどう読むかは、大切だってね。そして、ポーカーフェイス。これも大事」
「ソレデイツモ…。でもアブナイヨ。喧嘩駄目ネ~?」
「はーい。…まぁ、喧嘩はねぇ、あっちから吹っ掛けてくる時もあるからなぁ…。あ、これ静ちゃんには内緒ね!新羅くらいしか知らないんだ」
「?」
「新羅の父さんと、俺の父さんが知り合いなの。それで。だから、黙っててね。そしたらこの店に鳩入れちゃうんだから」
「オーソレ駄目ネ。大将ニ怒ラレル」
そう言って残念そうに首を振ると、臨也はその場にあった手拭きを取って、握った左手の上にかぶせる。
「約束してくれそうなサイモンにプレゼント!1…2…3!」
ポン。
そんな音とともに取り払われた手拭きから出てきたのは、小さな人形。
それは、サイモンにとっては懐かしくもある伝統的なものだった。
「オォ!マトリョシカネ」
「そ、母さんが可愛いのいっぱい買ったー!って言ってきてさ。どうせだからと思って。今日はそれ届けに来たんだよ。これ、大将にもあげてね。全部で三つ!」
「3?」
「そ。大将とサイモンと、この店にで、三つ」
二コリ、と笑った臨也のその笑顔は、普段のあの顔が想像できないほどだった。
そして、時折臨也は、大将の思いつきで貸し切りの団体客に小さな手品を見せたりするためにやってきて、いつの間にか、その二階でマジックの練習をして、新作を見てくれるようになった。
それとは反面に、表では喧嘩三昧。ついつい喧嘩を止めてしまうが、あの魔法を見たいと思うとどうしても止めてしまう。
それゆえに、臨也には後から怒られてしまうサイモンだった。
そしてそうやって、臨也の手品を見続けたからだろうか。
いつしかテレビでよく騒がれるその『怪盗』の正体が臨也だと、気づけたのは。
しかし、例えそうだとしても、何も言わない。
だってどんな形であろうと、
その魔法は、人を魅了して輝いている。
あとがき↓
初、サイモン視点!!?