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東京に、行くことになった。
何でも親が妹達と一緒に暮させたいと言い出したらしく、次の中学校から東京の学校に通うことになったのだ。
中学もこちらで、とてっきり思っていた友人達は、皆それぞれ落胆していた。
「で?何でお前は貴船まで来てんねん…。捜したで?」
そんな、夕暮れ。
今日の北、鞍馬山より少し奥、貴船神社の中宮近くのその森に、その子供はいた。
汗をかきながら山を登ってきた少年は、ため息をつきながらそちらへと駆け寄る。
「ん?あぁ…堪忍な。皆ピーピー言うもんやから…今生の別れやあるまいし」
「そりゃ、毎日一緒におった奴が居のぉなるのは、寂しいんやろ…俺もやけどな。椿はどないした?」
「山ん中散策してくるゆうて、二時間ぐらいたっとる…。そろそろ来る頃やないの?」
石の上でぼんやりと頬杖をついていた少年…臨也は、ふと聞こえた『声』に、更に山奥、貴船神社の奥宮の方向を見た。臨也と同時に、やってきた少年もまたそちらを見る。
すると、黄昏の闇を縫うかのように、小さな黒い影が姿を現した。
姿を現したのは、真っ黒な、猫。
「お早いお帰りやなぁ、椿」
『そうか?これでも、船形岩の方まで行って来たんだが。……リュウ?』
「お前らがいないて今度は騒ぎだすもんやから、俺が迎えに来たんや。さっさと帰るで二人とも」
「………めんどくさい」
「おいこら」
面倒だと言いながらも立ち上がった臨也の肩に、椿と呼ばれた猫が飛び乗る。
「宵闇に紛れる程度になったら、式でもつこて帰ろうかとおもっとったんやけど…」
「…えぇなぁて言いたいとこやけど。俺自転車できとんねん」
しばらく、小さな沈黙が流れ、臨也と椿はあからさまにため息をついて、先に歩き出したリュウの背を追うように歩き始めた。
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「東京にいくんはいつ頃や?」
「来週。それまでに言葉使いも東京弁にしとかなあかんから面倒やわ」
「はは、浮くもんなぁ…ゴールデンウィークとか、夏休みは帰ってくるやろ?」
「当たり前やん。妹がどうのて言ってたみたいやけど、あっちもうちも兄妹て認識は薄いし……ま、同じ家に住んでる誰かて認識…?」
『…薄情にもほどがあると思うのだが』
「ンなことゆうたかて…うちの家は、ここにしかあらへんもん」
ゆっくりゆっくりと、二人と一匹で家路へと戻る。
来週には、もう、一人は遠くへ行ってしまうのだ。
「…な、ロウもな、中学はこっちやけど、卒業したら仕事で東京行きたいゆうとんねん」
「へぇ…?」
「東京は、どんどん危のぉなる。お前一人じゃ危ないやろ。特に…池袋の街は生きもんらしいからの」
「…何やのそれ。九十九屋の受け売りか?」
「はは…。まぁな。この間きとったんやけど…」
「……………東京帰還祝いやて、碌でもない呪い付きの人形持ってきおったから熨斗つけて返したわあのアホ」
その時のことを思い出しているのだろう、眉間の皺がかなり深くなっている。
仲が良いのか悪いのかいまいちわからない東京の九十九屋と臨也だが、それはこれからも一緒だろう。
「あぁほら…やっぱ外でとるわ」
「…心配症やなぁ全く」
「アホ。お前と来週まで、少しでも長くいたいからにきまっとるやろ」
そう言って、リュウは自転車を引いて先に行ってしまった。
まったく、とんでもないセリフを素で吐く人間である。
「………」
『顔が紅いが、治すのに時間はかかるか?リン』
「きまっとるやろ…すぐ治まるわ。全く…そう言うセリフは男やのぉて女に言えて、何べんもいっとんのに…」
そう呟きながら、臨也は椿を肩に家の門をくぐる。
それは、臨也が数年前に出会った男の息子と出会う、半月前の出来事であった…。
あとがき↓
はい、突貫です!ちょっと急いで書いちゃいました…。
小学校六年生の、3月の出来事です。