「派手にやられたねぇ、そ・う・と・くv」
「うっせぇぞ臨也ぁ。手前何処行ってやがった」
京。
そのとある料亭の一室に、その二人はいた。
一方は派手な女物のような着物を着て、煙管を手に外を見やる男。その顔には、片目を隠すかのように包帯が巻かれてあった。
他方は、まるでどこぞの大店の主人のようにきっちりと服を着て、尻尾のように少し長い髪を一つに括って遊ばせている、若い青年。
「仕事があったもんでねぇ。江戸くんだりまで行って失敗してくるとは…晋さんらしくないと馳せ参じたんですよ」
「っせぇ、手前、公演でも入ってたか?」
「付き合いというもんでね。一昨日で千秋楽でしたよ」
臨也、と呼ばれた青年は、関西では有名な歌舞伎役者、それも女形を演じる人間であった。とはいえ、幕府のお役人嫌いで、そう言った人間が来ると聞けば絶対に公演には出ないひねくれ者、とも有名である。
「そりゃあ、間に合わなくて悪かったな」
「いいですよ。あんたがそう言って、俺の舞台見に来てくれた事ないからね」
料理と酒を持ってきてくれた女将に会釈して、臨也は二人分、お猪口に酒を注いだ。いつも見に行けなくてすまないと、たまには江戸にも来たらどうだと、古い馴染の友人である大工職人から贈られた酒である。
「…江戸は、どうでしたか、総督」
「あいっかわらずだ」
そう言うことを聞きたかったんじゃないんだけどなぁ…。
白飯を口に運びながら呆れたように視線を投げると、わかってて返したのか、総督と、あるいは隊長と、あるいは晋さんと呼ばれた男、高杉晋介は観念したようにため息をついた。
「ヅラも銀の野郎も、俺の船で大立ち回りしやがったくらい元気だったぜ」
「……あ~それで、絶交宣言でも出されて不貞腐れ「黙れガキ」…ほんとのこと言われたからって俺に奴当たらないでよもぅ」
やはり当たりか、と、一緒に江戸に行った人間から色々と聞かされていた臨也は確信した。自分で巻き込んだわけではないのに、巻き込んでしまった挙句、「ぶった斬る」宣言出されればまぁ、落ち込むだろう。
「謝りにでも言ったらいかがですか~」
「…ンで俺が謝らにゃいけねぇんだよ」
「部下が原因とは言え巻き込んで悪かったと、一言いやぁいい話でしょうが。あっちも言った後で何か落ち込んでたって、真撰組とかにひそませてる部下から来ましたよ、連絡」
そのおかげで桂が捕まりそうです。何ぞと連絡が来た日には何とかごまかせ邪魔しろと言っておいたが…。
「そう言うお前だって、あのガキとやらと仲違いしたままじゃあなかったのか」
「………」
「臨也」
諭したような言葉に、臨也は目を閉じる。思い出すのは、生意気で人並み外れた怪力で、今、江戸にいるだろう、その男。
「………晋、さん」
「あ?」
「俺は、江戸に行くのが正直…怖い」
一年にも満たない日々とはいえ過ごした昔馴染みの友人達に、生身で会うのが。
故に、江戸での話はすべて断り、こうして京に身を置いているのだ。
鬼兵隊に身は置いておらず、今の鬼兵隊には色々と情報を流すのみでその幹部と話したことすらない。攘夷活動をしているというよりは、それを煽り大きな火へと育てるのが、今の自分の仕事だった。
しかし、そうも言っていられないのかもしれない。かつての攘夷戦争、その終結と共にその身を襲った絶望を、今でも自分は抱えている。
「江戸に行けば…多分、顔も知らない俺の本当の家族達がいて、友人達がいて…。きっと、沢山の懐かしい人に会うんだろうなと、思います。それはとても嬉しい事なのかもしれない。でも……それと同時に、恐い」
「…そうだろうな。だが、そうも言ってられねぇぞ」
「分かってますよ…。ですから、今度上方に行く時は、お供させていただきます」
例え、その人達を壊すことになっても。
「俺は…あの時仲間達とした約束を、破るつもりも、果たさぬつもりもありません」
この血一滴、髪一筋に至るまで、この命の灯燃え尽きる最後まで。
「妖刀『甘楽』と共に、この臨也、鬼兵隊総督をお守りします」
その言葉に、ふっと、人を喰ったような笑みではなく、穏やかな笑みを浮かべた晋介は、臨也の頭をクシャリと撫でた。
いつも、表ではどんな相手にでもウザいくらいの態度で接する癖に、自分達の前ではこうだから、甘やかしたくなって困ったものだ。
「…期待してるぜ、初代鬼兵隊の……いや、俺『達』の監察方、隼の頭領さんよ」
「………で、結局坂田隊長や桂隊長と仲直りはするんですか?」
「…うるせぇ黙れ」
あとがき↓
私の書く臨也さんってこんなんでしたっけ…?臨也さんかむばーっく!!!てか、こんなんありですかね?!
PR