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通話終了のボタンを押すと、助手席にいた波江が呆れたようにいいのかとため息交じりに問いかけてきた。
「ん?何が?あぁ、四木さんに電話したこと?」
「それもあるけれど…現場に行くことよ。警視庁の捜査本部でもいいんじゃないの?」
「ん?まぁそうだけど…若葉もリツも一旦現場を見てから行くっていうし、ちょうど、リュウが買い物で山手線に乗ってたらしいから、一旦そっちに合流するらしいんだ。だから、俺も一応そっちに行って現場見とこうと思って」
それに、波江を送る人材も必要でしょ?
そう言って、ミラー越しに後部座席に置かれた荷物を見る。結構大量なので、家に一人で帰って片づけるのは面倒だろう。池袋ならば、正臣達がいるはずだ。
「それに、波江は呼び出しかかるかもしれないしさ」
「監視カメラの解析とかなら、私はあまり呼ばれないと思うわよ?」
「そう?まぁ、色々と考えて行動しておくのに越したことはないさ。正臣達にはメールで連絡入れたし、池袋にいたら騒ぎには気づくだろうさ」
首なしライダーは、今日もこの道を通ったのだろうか。そんな感傷めいた思いを乗せて、看板が『池袋』と示す道へ、その車は身を滑らせていった。
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「あ、メール来てる。沙樹は?」
「私にも来てるよ。あ、でも文面は同じみたい」
「絶対、この騒ぎで、だよなぁ…」
正臣と沙樹は、ざわざわと騒動に揺れ、警察が必死で野次馬を押しのける光景を見ていた。今しがた、聖辺ルリの街頭イベントが行われていたこの場所は今、違う喧騒に包まれている。
まぁ、いきなり暴力騒ぎと誘拐事件だ。前者のみならば慣れている池袋の住人でも、後者ははっきりと目にすることはまずない。一体何事かと、駆け付けた警察と共に混乱するばかりだ。
「というか、誘拐されたのって…」
「今、帝人達が調べてる。けど、まぁ、間違いないだろ」
警察の覆面パトカーの後部座席に座らされ、憔悴しきっている男性は、正臣達がよく知っている大学の先輩で、臨也達の弟分だという。先日の宴会でも、友人を伴って遊びに来てくれた人だ。
そして、その人がつい昨日、ここに来るということをとても楽しそうに語っていたのだ。久しぶりに、父と出かけるのだと。
そのことと、あの人が今疲れ切ったように項垂れていること、そして、現場にちらほらと見える見覚えのある人間達の顔から、誰が誘拐されたかなんて正臣達としては想像が容易についた。
そして、メール。今日は休みだと言っていた家長からのメールだ。
『今から池袋に行く。波江を送って行ってほしいんだけど、免許証は持ってるよね?』
念のためにと二人に送られたその文面に多少の驚きはあったものの私情を挟んではいられないという意味にもとれた。前倒しになってしまった池袋訪問。しかし、掃除は終わっているのだろう。ちょっと様子見。と、先日言っていたから。
「正臣!ダラーズの方には、結構情報入ってきてる。一応専用の掲示板とスレも作らせた」
「こっちには、あまり情報は来てないので、調べてみるように指示しました…」
「サンキュ、二人とも!俺達はこれから波江さん送って、家に一旦帰んないといけないけど…二人はどうする?池袋にいた方がいいか?」
戻ってくることも可能だが、警察からの情報や、臨也の情報屋の知り合いからの報せは家で受け取った方が早いだろう。あと、ここに臨也が詰めるとしたら、パソコンを持ってこなければならない。
「そう…だね。一応、僕らもお邪魔していいかな?一緒に情報をまとめた方がやりやすいだろうし」
「んじゃあ、パーキングに行こうぜ。もう少しで車が来るはずだから」
「多分、若葉さんに聞けば分かると思う。ちょっと、私行ってくるね!」
沙樹が小走りで、電話をしている一人の女性の元へ向かう。臨也の直属ではないが、同じ部署の女性だ。臨也の到着や車を止める場所も知っているだろう。
「…あれ?波江さんを送るって、家からじゃないの?」
「あぁ、あの二人買い物に行ってたみたいでさ。今車でこっちに向かってるって」
「え?…二人って、臨……也、さんも?」
とっさに小声にしてくれた帝人は、周囲を注意深く見る。ここに静雄がいたなら、事件現場とか関係なく大惨事になりそうだからだ。
「おぅ。で、俺らは車のカギ受け取って、波江さん送って、あと、呼ばれてるようなら仕事場まで送ってやれってさ。後は…多分、買ったものの整理も押し付けられるだろ」
その通りである。
大量の買い物ならスポーツカーではいかないはずだから、恐らく最近買ったファミリー用のワゴンだろう。あれを買う時若干臨也が恥ずかしそうにしていたのは見ていて面白かった。
閑話休題。
大丈夫なのかと焦ってダラーズの『喧嘩人形情報』を見ている二人をよそに、戻ってきた沙樹に正臣は声をかけた。
「どうだった?」
「うん。今来るって。車は、すぐにまた出るんならあっちのパーキングに止めさせるって言ってたよ」
「あっち?」
そういって沙樹が指差したのは、現場から少し離れた場所にある、一時間ワンコインのパーキング。
あぁ、沙樹って会ったことなかったっけ…?
そこを見た瞬間、新たに生まれる騒動を予感して正臣はため息をついた。
「?正臣?」
「はは…。いや、まぁ、あの人のことだから何とかするだろ…」
自分は、何も答えずに車を走らせて逃げよう。そうしよう。
そう思って、一応、夢ではないかと頬をつねりながらパーキングを見る。……うん。夢じゃない。
そこには、臨也をよく知る…否、『新宿の情報屋』であった頃の折原臨也をよく知る、ワゴンに乗った四人組の姿があった。
あとがき↓
…続きは一本だけじゃ、ないということで…!