彼、門田京平がその少年と出会ったのは、何処に座ればいいのやら。と動く密室たる列車の中を歩いていた時だった。
恐らく、年上。久しぶりの学校と珍しい東洋系の自分に興味を持ったのだろう、口早に話しかけてきたのだが、英会話もできはするが、身体にしみついてはいなかった門田は、困惑するしかできない。やがて相手もゆっくりと喋ってはくれるようになったのだが、クイーンズイングリッシュという、ちょっとした差が門田を困惑させていた。
そんな、時。
『駄目だよ、いぢめちゃ』
そんな声が聞こえて、先輩達の向こう側を除けば、そこにいたのは自分と同じくらいの、銀髪に赤眼と言うアルビノのような色を持った少年だった。
やがて安心したのかその少年に話しかけ、自分の方を軽く叩いて彼らは去っていき、廊下には自分とその少年だけになった。
『えぇ、と…』
『少しなら、話せるんだね。なら、慣れる為にもこのままでいっか…。コンパートメントは、決めてるの?』
ゆっくりと、まだ聞き慣れているアメリカ英語で話しかけてくれた少年に慌てて門田は頷く。いつまでも立っているわけにはいかない。
こっち、と導く少年に連れられてきたのは、列車の端も端、少し大きめのコンパートメントだった。
開ければ、そこには自分と同じ、東洋系の少年が二人。選んで連れて来てくれたのだろうか。とホッとしながらも少年の気遣いに感謝していた門田の耳に飛び込んできたのは、目の前に座っている眼鏡の少年の、日本語だった。
「あれ、臨也。その髪どうしたのさ?」
『イザヤ』?
目を丸くしている眼鏡の少年。その視線の先にいるのは自分…の前に立ち、慣れた調子で黒猫を抱き上げる…銀髪の少年。
「に、日本人だったのかっ!?」
「英国人だと言った覚えはないねぇ。ま、どうせここから先は日本語なんてほとんど使わないんだ。英語を使う習慣は身につけておくべきだと思うよ。で、新羅。そこ空いてるよね?彼を入れてあげてくれる?」
門田と、コンパートメントに既に入っていたもう一人の少年が驚きをあらわにする中、平然と銀髪の少年は、流れるような日本語で話している。なるほど、慣れる為にもこのまま、という先程の発言はこれだったのかと、門田は己を落ち着かせた。
「で?その髪はどうしたのさ。乗り込む前は黒かったのに」
「面白いのを見つけたって、染められたんだよ。今からちょっと落としてもらってくる」
「?あれ。魔術じゃないんだ」
「マグルのらしいよ。水で落ちるってさ。変な市場で買ったみたい」
まったく困ったもんだよね。と言いながら、『イザヤ』と言うらしい少年は猫を抱いたまま、コンパートメントを出ようと扉に手をかけ、あ。と思いだしたようにこちらに身体を向けた。
「新羅、お前の話は長いんだから、先に着替えときなよ。あと、あんまり熱弁して引かれないようにね」
「あ、酷いなぁ…。ま、そうするよ」
その答えに満足したのか笑ってコンパートメントをあとにする臨也を見送ると、眼鏡の少年は遅れちゃったけど。と言いながら眼鏡を意味もなく直した。
「僕の名前は、岸谷新羅。君達と同い年かな?今でてったのは折原臨也。僕と同い年で、本当は銀髪じゃなくて黒髪だよ」
「あぁ…俺は、門田京平」
「俺は平和島静雄だ。こう思うと…日本人って、結構いるんだな」
「今年は特に多いのかもねぇ。まぁ、一学年に一人くらい入るさ。日本人じゃなくてもアジア系で探せば多いしね。さて、臨也の忠告を受けて先に着替えておこうか?どうも私は、語り出したら止まりにくくてね」
そう言って笑うと、新羅は制服を取り出して着替え始めた。その色がどこか自分達と違うことに気づいた静雄と門田だったが、まだホグワーツのことはよく知らない身なので、その違いの意味は分からなかった。
「さっきの折原とは…お前は親しいのか?」
「?うん、そうだね~。親が共通の趣味を持っててさ。朱雀大路で会ったのが初めてだったんだけど」
「朱雀大路?」
「買い物に行かなかったかい?日本で魔法関連の買い物ができるのはあそこだけだからね」
そう言われて、思い出すのは大きな通りに軒を連ねる、露天商や奇妙な着物の人間達。
「ま、そういうのは臨也がいる時にでもして…。ホグワーツについて、僕が知ってることでいいなら教えるよ、二人とも」
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一方の臨也は、とあるコンパートメントまで来ていた。聞こえてくる笑い声に脱力しながらも、通りすがる人々が珍しそうに笑い、ついでにそのコンパートメントの中に誰がいるのかを悟って、誰の仕業か悟っていた。
コンコンと、ノックして、犯人の名前を呼びながら臨也はその中に入って行った。
「ビル、ビールー、これ落としてよ」
「おっ、よし来い。綺麗な黒髪に戻してやるよ」
そう言って笑う年上で他寮生の青年に、なら最初からしないでよ。と言いながら、臨也は彼の膝の上にとん、と乗った。
あとがき↓
うん、ハリポタとデュラララの時代考証が上手くできない…!もうちょい勉強します…!

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