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三月某日。
その日、新宿のとある高級マンションの一室にある折原臨也の事務所に、一つの報せが入った。
それは、情報屋仲間からの、長年待ち続けた、一つの報せ。
ディスプレイに写るそれを確認して、臨也は口角をゆるりと上げた。
「やっと…か。待ってたよ」
恍惚とした笑みを浮かべ、パソコンのディスプレイに写るその文字を、報せを、臨也は指でなぞった。
この日を、この時を、、どれほど待ち続けたことか。
そう思っていると、コーヒーを持ってきた波江が、不思議そうに口を開く。
「臨也?どうかしたの」
「あぁ、波江…。ちょうどよかった。新しい仕事があるんだ」
「あら……何かしら」
もうすぐ上がりなのだけど?
そう言う波江に、明日からでいいよ。と手を振って応えた臨也は、簡単なことさ。と笑った。
「現時点で依頼を受けた仕事以外は、全部他を紹介して断っていてくれ。良い報せが来たんだ」
「貴方の言う『良い報せ』なんて、碌な物じゃない気がするのだけれど…気のせいかしら?」
眉間に皺を作る波江に、酷いなぁ。と笑いつつも、臨也は嬉しそうにディスプレイの文字をなぞる。
その様は、ある意味不気味だった。
「あぁ、あと、正臣と沙樹に、連絡しておいてくれるかな。来週末、大きな仕事ができた」
「手伝い、ってことかしら」
「いや、手伝いはいらない。ただ知らせて、明後日にでもここに来るように伝えておいてくれるかな?これが、最後の仕事だからね」
心底嬉しそうに笑う臨也に、目を見張った波江はすかさずその、臨也のパソコンのディスプレイが見える位置へと移動した。
そこにあったのは、臨也が追い求め続けた、その男の名と、容姿と…今後の行動。
幾多の名と顔を持つ、今時ドラマでもいないだろうと思う、そんな男。
折原臨也の…『情報屋』の最後の、客だ。
「お願い、できる?」
「えぇ…これは、流石に連絡しないとまずいわね。他には?」
一を聞いて十知るべし。
波江の言葉に、流石、優秀だなぁと満足そうな笑みを浮かべた臨也は、今のところはそれだけ。と応えて、しかし手元にあったとある資料を渡す。
それは、臨也が信頼する同業…情報屋達の連絡先をまとめたものだった。いちいちデータを探すよりは早いだろう。そう思って、信頼できる所を何件かピックアップしてプリントしたのだ。今。
「お得意先には、俺がしておくよ。新規の依頼の方はよろしく」
「わかったわ」
そう言って、とりあえず今日は帰るわね。といった波江を玄関まで見送ると、臨也は窓の外から新宿の…東京の街並みを見下ろした。
ここでこの景色を、あとどれだけ見るのかは知らない。しかし、それもまた数える程度だろう。
失敗は許されず、また、それは死と同義とさえ、臨也は覚悟しているのだから。
「さぁ…て。先にあいつらにでも連絡、しようかな」
新宿の夜は更ける。夜だというのに明るいその街は、朗報故の嬉しさに満ちた臨也の、その心の内を表しているかのように、ゆらりと揺れては、消えることなく輝き続けていた。
こんな感じで始まります。