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何故こうなった。と聞かれれば何となく、としか答えられない日々が続く今日この頃。
この来神学園は、男にも調理実習で菓子作りを背負わせるある意味変な学校だった。
新羅は化学感覚で『調合』し、門田は普通にレシピ通りに作っている。前者にそこはかとなく危険な香りが漂っているが、そこは同じクラスで同じ班に振り分けられる臨也がストッパーとして機能していた。臨也は言わずもがな。
と、いうわけで、問題となるのは最後の一人。
「で、静ちゃんとしては調理器具を壊したくない、と」
「これ以上サボったら単位やらねぇって言うんだよあの教師…」
昼休みも終わって、5時限目。天気もいいので屋上でのんびりとくつろいでいた二人の話題は、いつの間にか調理実習となっていた。
「というか、この学校おかしいよね。普通調理実習ってさ、普通の食事を作るもんだと思うんだよ。それなのに、それに加えてお菓子作りって何なの。嫌がらせ?」
「俺はお前の食えるからいいけど」
「黙って食えバカ」
臨也は、手元にあったクッキーを静雄に放り投げた。
それを難なくキャッチして、静雄は一口で腹に収める。
「で?静ちゃんは俺に何頼みたいの~?まさか静ちゃんの調理実習に参加して作れとか言わないよね」
「…あぁ、その手が「あったかとか言ったら刺すよ」……冗談だよ」
嘘つけ。と思ったが、このままでは話が進まないと無言で臨也は続きを促した。
「あ~……その…」
「…静ちゃんさぁ、こういう時こそバシッと言おうよ、なんなの、6限目始まるよ?」
「あぁ~……臨也!」
「な、何!?」
「……料理、教えてくれ」
その時、臨也は目が点になるとはこの事かと、そう感じたらしい。
********************
放課後。
先生に許可をもらわずともいつの間にか鍵を所持することが公式化している臨也によって調理室へと足を踏み入れた二人は、制服の上着を脱いでワイシャツを腕まくりしていた。
「次の実習はクッキーだっけ?」
「おぅ。午前中に作って、冷凍庫で冷やしてから焼くって言ってた」
「アイスクッキーかぁ…なら、凍らせるところまでやれば大丈夫だね。早く終わったらケーキ作るの手伝ってよ」
「……どれ、だ?」
「苺のショートケーキ。スポンジはできてるからさ。後は飾るだけなの」
「あぁ……あれ、か」
実はそれが今日の三時のおやつだと考えていたのだが、午前中を喧嘩に費やしたために無理だったのだ。怪我もして、新羅に拘束されていたし。またそれでもって理由を話すと怒られた犬みたいにシュンとするからついサボりながら食べようとか思ってたクッキー出しちゃったんじゃないかバカァ!!
「…臨也?」
「何?というか静ちゃん。手を動かせ手を!分量は量ってあげたんだからあとは簡単に言えばこねてこねて形作って凍らすだけなんだよ」
「や、そうなんだけどよ」
「何?静ちゃん。さっさと作って凍らせないと今日中に作ったの食えないよわかってるの?そうしたら俺持って帰って妹達への生贄にするからさっさとしなよね」
「…や、だからさ、お前が既に作ってる…」
「え?」
手元を見ると、既に綺麗に出来上がり、ラップで包むところとなっている生地。
………またやってしまった。どうやら、冷静に物を考えられない時は手が勝手に動くのが癖らしい。
「……ごめん、もう一回作ろうか」
********************
30分後。なんとかクッキー作りを終わらせた二人は、苺のショートケーキを完成させるべく材料を切ったり混ぜたりしていた。適材適所ということで、臨也はフルーツ切り、静雄が生クリーム作成中である。
「おい臨也、これくらいでいいのか?」
「ん~?あぁ、そうだね。こう、泡立て機をあげてツノが立つくらいがちょうど良いんだけど…」
仕上げとばかりにボウルをとった臨也は、そのまま数回かき混ぜると器用にスポンジに塗ってフルーツを挟み、そしてまたクリームを塗って苺をのせていく。
「飾り付けとかしたい?静ちゃん」
「いや、いい」
「そう?面白いのに」
するすると器用に、綺麗にクリームを絞り出してデコレーションしていく臨也は本当に楽しそうで、いつもこうやって作っているのかと少々新鮮な気分になる。
「てか、お前ついてんぞ、クリーム」
「え?あぁ、いっつもそうなんだよねぇ。顔とか手についちゃうんだ」
「ふぅん……」
「?静ちゃ、」
いつの間にか静雄が近づいてきていて、臨也の頬についていたクリームを舐めとっていた。
それは本当に一瞬のことだが、しかし少々どころかかなり衝撃的なことで。
「?おい、臨也?」
「ちょっ…静ちゃん、何人の顔舐めてんの!?」
瞬時に、あり得ないほど臨也の顔は赤くなった。
「や、もったいないと思って?」
「だったら手で取るとか他に方法があるでしょ?!というか疑問形?!何人の顔…って、ちょっと!?顎とるな顎を!!」
「っせぇな。あ、こっちにもついてっぞ?」
「指で取れ!ちょ、くすぐった…!」
「二人ともー!美味しそうな匂いがするけど、何作ってるんだい?静雄だけ独り占めはよくないよ~?」
ドスッ ドガッ バキッ
「やぁ、新羅。今ちょうどショートケーキが出来上がったんだよ。これからクッキーも焼くからさ。お茶も入れるし鞄取ってきなよ」
「本当かい?じゃあ、門田も呼んでくるよ。あれ静雄は?」
「静ちゃん?あぁ、生クリームの泡立て頼んだら慣れない筋肉使ったみたいで疲れたってぶーたれてさー」
「ははは。あ、じゃあすぐ戻ってくるね!」
パタパタと出て行く新羅を見届けて、何か絶対いろんな意味で危なかったと、臨也は心の底からため息をついた。
「臨也…手前なぁ…!!」
「あ~はいはい。でも静ちゃんも悪いよ。ほら、クッキー出して出して!切ってオーブンで焼いたら出来上がりだよ。余熱はしといたから」
いきなりの攻撃で床に座りこまされていた静雄を追いたてて、なんとか誤魔化した。と臨也は再びため息をつく。
「…?」
誤魔化すって…誤魔化すようなことあったっけ……?
「………ま、いいか」
さっさと人数分のお茶を淹れよう。とりあえず、最近味を分かってくれるようになった大食漢の為の紅茶と、今からくる二人のコーヒー。
そして皿には、苺のショートケーキと、綺麗なのと不格好なのが混ざったクッキーを。
あとがき↓
こんな感じでいかがだったでしょうか?ちょっと、甘いというか、仲良しにさせすぎたかな…?
きっと、新羅は見計らったって信じて書きました。