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「……ここか」
静雄は、とある高級マンションの前に立っていた。そこは池袋駅とは遠く、高校からも結構距離のある場所にある、しかし30階建てで遠くからでも目立つマンションだった。
今、静雄の手には二つの鞄がある。一つは自分の、もう一つは、数時間前、ちゃんと説明するからここに来いと、ここの住所のメモを渡して走り去った臨也のものだった。
「しかも最上階とか…嫌味かあいつは」
エレベーターに乗ると、一人の男がいた。ここの住人だろう男は、ピシッと立っていればなかなか映えるであろう顔をしているというのに、目の下にはクマを作り、猫背で、今にも倒れそうであった。
「……えっと、あんた、大丈夫、か?」
「…え、あ、あぁ。ちょっと徹夜明けで。すみませんね。あんたは客かい?このマンションの住人じゃないだろう」
その男は、徹夜明けというには存外しっかりとした口調で、自分の問いに返した。
「は、はい。折原って言う…」
「折原?あぁ、臨がこのマンションに人を呼ぶなんて珍しいなぁ……」
「リン?」
「あの子の文字は、『りん』って読むだろう?幼馴染連中は皆そう呼ぶんだ。あぁ、自己紹介しとこう。俺は西ノ宮之浪。浪の字で『ロウ』って呼ばれてる。之浪でいいよ」
「あ……平和島、静雄です」
「平和島くんね。俺、臨の部屋の隣だから、臨のお話終わったら二人でおいで。夕飯一緒に食べよう」
「……へ?」
最上階のランプがつき、之浪はさっさとエレベーターから降りて行く。何故、自分が臨也の話を聞きに来たというのがわかったのだろうか?
********************
「あぁ。それはそうだよ。このマンションの契約名は本名だからね。普通に同級生連れてくるなんて思わないよ」
臨也の部屋について開口一番、之浪のことを話すと、臨也からはそう返事が返って来た。
臨也は学ランを脱ぎ、ラフな部屋着に、髪を一つにくくっていた。
「浪に会うとはね~…レアキャラだよ静ちゃん。あいつ仕事のせいか引きこもってばっかでさ、高校も行かないで仕事してんの」
「おい臨也」
「こっちにはいないけど、他にも俺には幼馴染がたくさんいてさ~変わり者が多いのは、やっぱ類は友を呼ぶってことなのかな?そう考えると面白いよねぇ」
「おい、」
「そうなると、静ちゃんや新羅もそうか!ドタチンはどっちかっていうと苦労人フラグ立ちまくりだよね。その内何か贈ろうか」
「誤魔化してんじゃねぇ!!」
矢継ぎ早に話す臨也に怒鳴ると、すぐに臨也はシュンと、悪いことをした子供のように項垂れた。
「説明しろ」
「説明って…何から言えばいいのさ。男の恰好して高校に行ってること?それとも静ちゃん達に黙ってたこと?一人でこんな所に住んでること?何から言えばいいの?」
「全部」
「全部って…あのねぇ静ちゃん。俺にだっていろいろと事情というものが」
静雄は、少々イラついていた。あちらは、臨也はどうせ自分のことなど把握しきっているというのに、自分の知らない『折原臨也』は自分が考えていたよりもっともっと大きかったのだ。
何故か、そう考えるとイライラして、何となくむかむかした。
「……」
「………分かった。その為に呼んだんだしね。でも、さ。いいの?」
「…あ?」
「静ちゃんは、さ。ここで聞いたら、俺ともう、今日のあの時までみたいに、喧嘩して、殺しあうとかできなくなっちゃうかもしれないんだよ?」
臨也にとって、高校生活であの時間は、生死をかけているとはいえ楽しくもあった。だから、一緒にいられないかもしれないと思うと、少しいやだ。
「…別、に、」
「?」
「お前が男でも女でも、俺と喧嘩してきたことに変わりはねぇだろ。むしろ女で俺と普通に殺りあって来たことがすげぇし……手加減、しちまうかもしれねぇけど、お前が女でも男でも、そんなに大差ねぇよ」
その瞬間、パン、と、音が聞こえたような気がした。視界が一気に広がったような気がした。
初めて、何も知らない人から言われた、ずっと言ってほしいのだと思っていた、『自分』全部を認めてもらった言葉。
良かったねと、自分じゃない自分が囁いた。
嬉しくて嬉しくて、思わず目の前の、いつも喧嘩しているはずの男に抱きつく。すると妙に慌て始めるので、少し笑った。
「ね、何から聞きたいの?」
「話してくれんのか?」
「うん。いいよー。情報屋さんは今日特別特価の日だから。このままでいいんなら話してあげる」
「は!?ちょ、お前なっ」
「だって、何か居心地いいんだもん、静ちゃんの腕の中」
いつの間にか抱きしめられている格好になっているが、何だか居心地がいい。ある意味信頼しているからだろうか。
「あ~……じゃあ、名前から、か?」
「名前ね。静ちゃんにしては初歩的なところから来たね。名前はね、折原臨美だよ。臨める美しさって書いて、臨美」
「じゃあ、臨也っつーのは……」
偽名かと、言おうとした時だった。
「『臨也』はね、双子のお兄ちゃん?弟?どっちかわかんないや。その人の名前なの。母親の体から出てくる前に、死んじゃった……私の片割れ」
そこから先は、臨也が…否、臨美が、自分の問いを理解しているかのように喋り出した。
「妹二人はね、『私』がいるって知らないの。だって二人が生まれる前から、ずっと私は、あの家で『臨也』だったから。もう癖かなー…普通にして行ったつもりでもね、切り代わっちゃうんだ。『臨美』は『臨也』になっちゃうの」
「それ、は、」
「仕事で両親海外多いって言ったでしょ?アレ半分嘘。父親の仕事のついでにね、母親の治療に行ってるんだ。臨美がいるって認識してるのは、血縁内では父親だけ。でも、何も言わない。母親が半狂乱になるのは経験済みだからね」
だったら何で妹が生まれてんだ。と眉間にしわを寄せると、臨美はどこか諦めたように笑った。
「母親が異常なところはただ一つ、『臨也』が死んだことを認められなくて、そして、『臨美』が一人生きていることを忘れていること。だから、それ以外は正常なんだよ」
「忘、れ…?」
「だから、私は『臨也』になって、母親の暴走を食い止めてるってわけ」
『臨也』が生きて隣にいれば、大人しくなってくれるでしょ?
あとがき↓
シリアス一辺倒になってしまいました……。そこはかとなく甘い(?)要素も入れましたが…。前にも記載しましたが、これ、書こうと思っていた臨美さんでの長編の設定をそのまま入れて、ギャグバレだったので説明させるとシリアスになってしまうんでした……。こ、後編はシリアス薄めですよ!