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その臨美の言葉に、思わず静雄は力を込めて臨美を抱きしめた。
昨日までは憎たらしく大嫌いな存在だったのに、すっぽりと収まるその身体は自分が守らなければと思ってしまうような感覚に陥る。まぁ、守るほどやわではない事は自分が一番知っているのだろうけれども。
顔は笑っているのに、いつもみたいに人を喰ったように笑わないから、泣いているようにさえ見えた。
「しず…ちゃん?」
「うっせぇな…。てか、お前は何で怒んねぇんだよ。普通叫んでも忘れるなって言うもんじゃねぇのか?」
「ん~…慣れ、かな。それに四六時中じゃないよ。高校に上がって静ちゃんや新羅、ドタチン達と会うまでは、東京にいなかったんだ。これは、父親のせめてもの気遣い」
「そ…か」
「うん。怒ったことはあんまりないなぁ…。今も、静ちゃんの方が怒ってくれてるみたいだから、それでいいのかも」
「何だそれ…」
少しだけ距離を開けて、お互いに顔を見る。見れば、臨美の目に少しだけ涙が浮いていて、それを指で拭った。強く締めすぎたか、それともやっぱり話すのがつらかったのかと内心焦っていたが、これが実はうれし涙だったと、知るのはもう少し先の話。
「…ね、いつまでこのまま?お茶入れたいんだけど…」
「手前が抱きついてきたんだろうが」
「……むぅ」
何だか本当に、存外居心地がいい。
お互いいつも凶器となる手は握られていなくて、何も握っていなくて、相手の背に回されていた。
何だか、身長がいつもより開いて見える。
「お前、靴に何か仕込んでたりするのか?」
「あ、失礼な。自前だよー?静ちゃんと10cmは離れたくないから、毎日カルシウムとってるの」
にぱ。と笑った笑顔が、何だか可愛いと思うって、おかしいのか俺。
というか、本当におかしい。さっきから妙に怒りを感じないし、もっとずっと…
「静ちゃん?」
それは多分、お互いに無意識だった。
疑問に思ったのはお互い一瞬。それを過ぎると、目を閉じて顔が近づく。
ただ触れ合うだけのそれは、でも、多分何かの始まりで。
もう一度、今度は深く。と、お互いが思って近づいた…その時。
ピロリーン
「「?!」」
ピロリンピロリンピロリーン
携帯の写メの音が、沈黙の中に木霊する。しかも連写。
そこにいたのは、いつの間にか入って来たのか、隣人であり静雄が先ほどあった人物。
「ロ…ウ…?!」
「ん。送信」
送信完了の音に、二人は一気に顔を夕陽よりも紅くした。
********************
「何でここに…」
「や、話がやけに長引いてると思って、そろそろ夕飯にしないかと呼びに」
突然の第三者の登場に顔を真っ赤に染めた二人を見て初々しいなぁと感じながら、浪は携帯をたたんだ。しかしまさか…うん。
「ろ、浪サン…?誰にメール送ったのかな…」
「それはもう、臨に彼氏ができたと吉報を幼馴染と化幼馴染とか」
「っぎゃー!!消せ、消去しろ、脳内からもデータからも!!」
「いやいや、男っ気のなかった臨がいきなり彼氏を連れてくるとは俺も驚き。これは早速送信して周りにお知らせしなければと」
「するな阿呆!!う~~~…」
「おい、大丈夫か?」
ずるずると静雄の方に倒れ込んだ臨美は「無理…」と項垂れているようだった。耳まで物凄く赤い。いや、自分も赤いだろうが。
「臨、今日は無理だから明日は赤飯で頼む。さっそくお祝い」
「するな阿呆!!あ~もう、夕飯食べるんでしょ、お夕飯!」
「おぅ」
真っ赤になった顔に手を当てながら、臨美はパタパタとキッチンの方へ走って行った。この口ぶりからして自分も一緒に食べることになるのだろうか。
終始涼しい顔をしている之浪は、静雄の隣まで近寄るとソファに座るように促し、ついでのようにとんでもないことまで言い出した。
「すまんかったな。良いとこ邪魔して」
「ぶっ!」
「最後まで行っても別に俺はよかったんやけど…そうなると他の幼馴染から俺が命の危機にさらされるし、俺の腹の虫もいい加減限界やったんでな」
「は、はぁ…」
幽に似ているな。と静雄は思った。雰囲気もそうだが、何となく。
「でも、ちょお安心したわ。俺としては臨が楽しそうに語る『静ちゃん』と会ってみたかったし、まぁ、まさかこうなるとは思わんかったけどな」
「え、あ~…はぁ」
「あ、せやからはいこれ。餞別やから好きに使い?」
「?」
之浪から渡されたのは、一枚のカードだった。よく見れば磁器も付いている。しかし、キャッシュカードや銀行のカードなどのようにも見えないし…見覚えもない。
「これは…」
「あぁ、このマンションのカードキーや。それでこの部屋も開けられるから好きに入ってきたらえぇ。ま、臨が一緒やったら使う必要ないけどなー。と、すまんな。気ぃ抜くとすぐ東京弁やのぅなる」
「いや、別に……あ」
ありがとうございます。と、言おうとした時だった。美味しそうなシチューの香りとともに、どんよりとした、怒りのオーラが近づいてくる。
「ゆ~き~な~みぃ~?静ちゃんに何上げてるのさ」
「この部屋及びこのマンションへのカードキーや。折角彼氏さんができたんやし、『臨也』の恰好やとすーぐ喧嘩に発展するんやないかと俺が思ってな~?」
「あぁそう!で?この部屋のカードキーなんてどっから持ってきたの!私が持ってる一枚しかないはずなんだけど?!」
「管理人のおばちゃんにな。臨美にかっこえぇ彼氏ができたさかい応援してやりたいから一枚作ってーてお願いしたんや。平和島くん、それ仮のカードな。おばちゃんノリノリで申請しとったから明後日には届いとるよ」
「あ、はい」
「静ちゃんも何でもらってんの?!」
眉間にしわを寄せた臨美は、それでも黙々と料理をテーブルにのせていく。手伝った方がいいかと思ったが、之浪が「動いて怒り解消させた方が余波くらわんで楽や」と言ったので、大人しく待つことにした。
********************
数日後
「なんかさぁ、最近二人とも喧嘩あんまりしないよね。楽でいいけど」
「そうか?」
新羅が何気なく出した言葉に、内心びくりとしながらもそう返すと、新羅はそうだよ!と目を見開いた。
「臨也は臨也で静雄をあんまりからかわなくなったし、静雄は静雄でそんなに怒らなくなったしさぁ。何か企んでるのか我慢強さの訓練してんのかとクラスで賭けが始まってるんだけど」
「へぇー。じゃ、俺『そのまま継続』に一票入れとこうかな。静ちゃんの我慢強さにかけて」
「はっ、じゃあ俺は『何も企んでない』に一票入れてやるよ」
あれ?と、新羅は目を瞬かせる。
本当に、いつもならここで臨也が一言二言余計なことを言って怒らせるのに。
最近では一週間に一回喧嘩をするくらいだ。まぁ、その分怪我は酷いけれど。
「じゃあ、俺は愛しのセルティも待ってるし帰ろうかな。じゃ、また明日二人とも」
「おぅ」
「またねー」
新羅は、家に辿り着いたところで気付く。三人で帰るなんて、今までなかったことだと。
「ま、いっか」
存外楽しい。今日は無理だった門田も誘って、明日は放課後にどこかに寄ろう。
勿論、四人で。
「あ~…新羅は流石というか…目敏いよねぇ」
「門田も不審そうに見てるけどな、平和がいいって昨日言ってたぞ」
静雄の言葉に、臨美は楽しそうに笑った。今日はテストも近いので、静雄へのテスト対策の為にマンションへと向かっている。
「ま、学校の備品が壊れにくくなったのはいいことだよね」
「半分以上は手前のせいだろうが」
マンションへ入ると、事情を知っているのかそれとも慣れたのか、管理人室の女性がお帰りなさい。とほほ笑んだ。あのノリの良さに臨美が項垂れたのはつい先日。しっかりとカードキーを作ってしかも届けに来てくれた時だった。
「そういや、一つ聞きてぇことがあったんだけど」
「ん~?」
パタン、とドアを閉めた音とともに、静雄はふわりと臨美を抱きしめて慣れた手つきで臨美のかつらを外した。
結ばれた黒髪もほどいて、黒の学ランと同化させる。
「あ~…その。『臨美』って、呼んで、いい、か?」
「…………………何か、今更だね」
もちろんいいよと言って、臨美はぎゅっと抱きついた。
「とりあえず、頑張って進級しようね静ちゃん。そうしないと修学旅行行けないし」
「…おぅ」
「行ったら浪以外の幼馴染もいるから、紹介できるしね」
それに、一緒に周れるし。
そう呟かれた言葉をしっかりと拾って、静雄はおぅ。と臨美の頭を撫でた。
あとがき↓
ぐ、甘くしすぎた。砂糖が……!!すみません、読む方にブラックコーヒーをお願いしとくべきでした…!
オリキャラを前半最初に持ってきたのは、ただ単に写メを撮って多方面に贈っていただくためです。
しかも書いてから気づきましたが、この二人八割方密着して会話してるんです…!
もし書き直しの要請がありましたら受け付けます。ちょっと、いや、かなり、甘くしすぎました……!!