[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「あ~…波江はおーぼーだよ。まさか運び屋さんに依頼するとはっ…!」
池袋西口公園。
見事助手の包囲網を逃げ切った臨美は、コーヒー片手にダラダラと休憩していた。
こうなったら、言っていた目的地に行くのは取りやめとして、ぶらぶらと散策しよう。この姿なら誰も自分が自分だとわからないし、池袋にいる幼馴染の一人は仕事上引きこもりだ。
「『臨也』のー、遊び場所にでも行こうかなー。あ、それとも引きこもってるロウのとこでもいこっかな」
『折原臨美』は、俗に言う『二重人格』である。
とは言っても意識的に人格を切り替えて行動しているようなものなので、二重人格とは言い難い。ともかく、妹達が生まれる前から『折原臨也』として行動してきた少女は、男としての自分を主人格として置いていた。
あぁ、自分っておかしいんだろうなーとは、小学生の時から感じている。
しかし止められないのは、きっと最後の糸が切れていないから。最後の糸を持っているのは、親でも、妹達でも、高校時代の同級生でもない。最初から自分を知っている、幼馴染達でも、最近やけに世話焼きになった助手でもない。
「お兄さん」
「んぁ?」
「ね、露西亜寿司ってどこ?お使い頼まれたんだけど場所が分からなくて」
「あ、あぁ…」
きっと、最後の糸を持っているのは、この男だ。
自分が初めて会った、人外魔境な力を持つ『他人』。
バーテン服にサングラスの、男。
「俺も今から行くところだから、一緒に行くか?」
「良いの?ありがとうございます!」
この男は、きっと、自分が『折原臨也』だと、『折原臨也』が女だと知ったら、その拳を向けてはくれなくなるだろう。
別に、それでもいい。自分はそれでも生きていける。でも、その前に、
「おら、ここだ」
「ありがとう!助かりました…。あ。」
「?おぉ、セルティ…どうした?」
露西亜寿司のすぐそば、そこにいたのは、黒いライダースーツの女性。
くそぅ、波江に運び屋の連絡先教えるんじゃなかった…。というか、何故に私の居場所が分かる。
どう逃げようかと画策していると、運び屋…セルティはPDAをスッと静雄の前に出した。
『その子を、探すよう頼まれた』
「え?この子か」
『そう。帰ってくるようにと伝言を頼まれてる』
「う~~~…波江の奴ぅ」
ご機嫌取りも兼ねて寿司を買おうと思ったが、このままだとバイクに乗せられるだろうからあきらめよう。あぁもう、せっかくのんびり『臨也』の好きな街をめぐれると思ったのに!波江に行き先言うんじゃなかったっ…!
後悔しても、時遅し。
観念したように肩を落とした臨美は、セルティに頷いて大人しくバイクへと向かった。
一方、静雄は困惑したままである。
運び屋に連れ戻しを頼むとはどんな人間なのだろう。まさか、家出少女だったのか?
そんな時、少女(実は同い年)が、あ、と、何か思い出したようにこちらに戻って来た。
「?」
「あの、今日はありがとうございました!」
「あぁいや…俺もここに来る予定だったし」
珍しく、まだサイモンは客寄せをしていないようだった。少し静かな露西亜寿司の前で、少女はにこりと笑う。
「あの、実は、頼みたいことがあって!」
「?」
「えっと…早く、『臨也』を殺してあげてくださいね」
「…!?」
思わず、静雄は後ずさりした。この少女からその名が、そしてそんな単語が出てくるとは思わなかったからだ。
「手前…!」
「貴方がきっと、多分最後なんです。そしたら、終わり。…あってもなくてもいいけど、きっとあった方が幸せな終わり…。だから、お願いしますね」
自分が今まで、臨也に殺すと、死ねと言ってきたことはある。しかし、他人から頼まれたのは、流石に初めてだった。
「…何か、恨みでもあんのか」
臨也に。
そういうと、少女は、まさか!と笑った。
「そんなことありえません!『臨也』に私が恨み!?爪の垢どころかこの世に存在の一欠片さえありません」
「じゃあ…」
「ただ、時間だなと、そう思っただけですよ。そろそろ、良い時間だなって」
「は…?」
全く持って意味不明である。
そんな少女はふわりと、重力を感じさせない動作でセルティの後ろに飛び乗った。
「それじゃあ、今日はありがとうございました。目的地には行けなかったけど、楽しかったですよー。『池袋の喧嘩人形』さん」
少女の姿は、都市伝説と共に自分の目の前から消え失せた。
ふわりと、残滓の風だけが舞う。
バイクのエンジン音を聞きつけたサイモンが外に出てきたが、静雄はただ茫然としていただけだった。
「何、だったんだ……?」
『折原臨也が死んだ』と、噂が流れる、それは一月前のことだった。
変な文面ですみません!!