きっかけを書きましょう。ということで料理シリーズ来神高校時代編。
というか、いつの間にかシリーズになってるこの不思議…。
そろそろ3000hitを迎えそうですね。キリバンゲットした方がいらっしゃったらよろしければリクエストを頂きたいです。
5000hitに達しましたら皆さんからリクエストをお伺いしてみたいとも考えてます。
折原臨也は、心底困っていた。
それは別段、どこぞの同級生が走って追いかけてくるとか机を投げてくるとか椅子を投げてくるとか、そういうことではない。
「あ~…食いたくない」
その原因は、目の前にある『授業の成果』だった。
「ちっ、臨也の野郎どこ行きやがったっ…!」
一方、その『同級生』こと平和島静雄は、今日も今日とて嫌味な同級生の臨也を探して三つ離れたクラスへときていた。
「やっ、静雄。どうかしたかい?」
「新羅…。臨也の奴どこ行った?」
窓際の席でのほほんとしている新羅は、さぁ?授業が終わったらすぐにどっかいったよ。と変わらぬ笑顔でそう言った。
「授業?」
「そう。家庭科の調理実習。しかもお菓子だよ?お菓子。セルティの作ったお菓子だったら食べたいけど、僕が作っても美味しくなかったなぁ…」
「勝手に言ってろ」
「そうそう!臨也なんて、そこらの女子より手際はいいし上手だし、先生より美味しく作っててさぁ!!他の女子があげようとか考えてたらしいけど、あれ見て唖然としてたね」
「………臨也が?」
静雄は、目を丸くした。
平素、自分とナイフで渡り合い日々喧嘩をしている男が、菓子なんて作れるのか。
というか、性格的に似合わないと考えても、顔的に似合いそうだから怖い。
「そう。あ、もらったんだ。食べてみる?作っても食べないみたいだったし、なんだかすごいうんざりした顔で作ってたしね」
そう言って新羅が差し出したマフィンを、一つかじる。それは、自分が先日授業で作らされたのとは全く違う、ふわりとした食感と、ちょうど良い甘さ。
「ね?美味しいだろ、後で門田君にも…って、静雄!?」
「あのバカ探してくる」
すたすたと、来た時とは違い怒りのオーラは全くない。が、何故か新羅はいやな予感がした。
「……や、別に僕には関係ないと………良いなぁ…」
臨也は、屋上でも一番高い、給水タンクの陰でぼんやりと空を眺めていた。
今日は朝から疲れていたのだ。
小学生の双子の妹は今日は弁当の日らしく、何故か母親の弁当ではなく自分が作ったのが食べたいと言って来たのだ。しかも、母親本人の前で『臨也お兄ちゃんの方が美味しい』と、こちらとしては全くはた迷惑なセリフを吐いて。
おかげで今日は朝五時に起きて、二人分、味も飾り付けも全く同じ、しかし一品だけ、具をお互いに交換できるようと何故か変な工夫までして作り、挙句三時のおやつもお願いなどと言いやがったので、前日のうちに冷やして固めておいたチェス盤のようなクッキーを焼いて持たせるという、いつもの数倍は疲れる作業をしてきたのだ。
おかげで、手を抜こうと思っていた調理実習は条件反射の連続で作り上げ、満足はしないもののこんなもんだろうと納得してしまうようなできになってしまった。
あのバカ妹め、一週間買い置きの菓子だけ出してやる……
そんな変な決意を胸に秘めていると、ガチャリと屋上のドアが開いた。
もう四限目は始まっている。こんな時間にここに来るとすれば……。
「静ちゃん?」
「臨也…手前ここにいたのか」
「うん。どうしたのさ?もう授業始ってるよ」
「手前が言えたクチかよ」
こちらに上って来た静雄は、自分の傍らにある二つのマフィンに視線を落した。
あぁ、そういえば、置いたままだったか。
鞄にでも入れて、家に帰ってから食べようかと思っていると、静雄がその内の一つを手に取った。
「え…ちょ、静ちゃん?」
「これ、食わねぇのか?」
「ん?」
「これ、作ったんだろ」
どうやらマフィンのことらしい。
「あ、あぁ……うん。朝からクッキー何か作っちゃったし、俺、作っただけで基本お腹いっぱいになっちゃうからさ。食べる気なくなっちゃって」
「ふーん…」
何故だろう、おかしい。今日の静ちゃんはしっかり会話が成立している。あぁ、そうか。自分が喋っていないからか。いつも、自分が無駄に回りくどく喋るから、静ちゃんは怒るんだったか。
今さらな事実と会話が成立していることに感動していた臨也は、静雄の言葉にとっさに反応を返せなかった。
「食っていいか?これ」
…
……
…………
「はい?」
「や、だから、食っていいか?」
「あ、あぁうん…どうぞ」
そういうと、すぐさま静雄はマフィンを完食した。
え、何。何が起こってるの?
「し、静ちゃん…?」
「?」
「も、もう一個食べる…?俺食わないし…」
「良いのか?」
「ど、どうぞ…」
何だ?今日の静ちゃんは熱でもあるのか?!俺が作ったものを、調理実習で作ったとはいえ躊躇いもなく食べるなんて!明日は雨!?いや雪!?雹!?それともスタンダードに槍?!
「お前、案外料理上手いのな。新羅にも食わせてもらったけど」
「新羅?って…んじゃ、それで何個目?」
「三個目」
明らかに食い過ぎだ。
「そりゃ、妹にお菓子作ったりしてるからね。お菓子は慣れてるけど…」
「へー。すげぇな。ちゃんと『お兄ちゃん』してんのか」
「お菓子作るのが兄としての務めかは分からないけどね…作るの結構楽しいから」
これは本当だ。
暴れる妹達への最終兵器だし、美味しいと言ってくれるのも、また作ってくれとせがまれるのも本当は嬉しい。
そのせいで母親の機嫌が損なうのは御免だが。
「……な、お前、他にも色々作れんのか?」
「?あぁ、作れるよ。レシピと材料さえあればね。最近はお菓子の本も多いし、ネットで探せば色々見つけられるよ」
「へぇ…」
「?静ちゃん?」
何かを思いついたかのようにこちらを向いたその顔は、初めて妹達に菓子を焼いた時と、何故か似ていた。
「な、今度作ってきてくれよ。何でもいいから」
「…は!?」
「これ、美味かったし。他のも食べてみたい」
「な…なななな、えぇ!?」
「なんだよ、駄目か?」
「だ、駄目じゃないけど…!」
不満そうな顔でこちらに顔を寄せてくる静ちゃんから逃れるため後ずさりしつつ、俺は混乱していた。
何だろう、こんな天敵の、毎日ナイフ向けて死ねとか殺すとか言ってる相手からの言葉でも、嬉しいって思うのか俺。
美味しいって、また食べたいって言われて、まさか妹達の時以上に嬉しいのか俺…?
というか、静ちゃん近い近い近い!!?!
「んじゃ、作れよ」
要求が呑まれたことに満足したのかそう言った静ちゃんに、俺は頷こうとしてハッと思いだす。
「ちょ、明日は無理だからね!?」
「は?なんでだよ」
「明日は土曜でしょうが!」
今日は、金曜日だ。
その頃…。
「…入れん」
「あの二人ってさ、結局仲良いの?悪いの?」
「さぁな…しかし、本当に美味いな臨也の奴」
「ね~。しっかし…お昼休み終わっちゃうからどっちでもいいから気付いてくれないかなぁ…」
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