「…って~~…」
「静雄?どうした」
「トムさん。いえ、あの…何か口ん中が痛くて。口内炎っすかね」
昨日の夜頃から妙に痛かったのだが、どんどん痛みが増してきている。
冷たいものを飲むとしみる気がして、今飲んでいるのはホットコーヒーだ。
「あぁ~、口内炎も、でっかい奴ができるとかなり痛いって聞くぞ。病院にでも行って来た方がいいんじゃないか?」
「そうっすね…。って、あ」
「…げ」
何処の歯医者がいいだろうか。と考えを巡らせていた静雄の前を横切ったのは、黒のジャケットを羽織った臨也だった。
「いぃぃぃざあぁぁやぁぁく~ん?なぁんで池袋にいるのかなぁ?」
「仕事のついでだよ!っと、あ、静ちゃんこれあげる!最後の一個なんだよハイ!」
「はぁ!?んムグッ」
静雄は何を口に入れられたのか分からなかったが、トムは臨也が持っている袋を見ることができた。
……『ア〇スの実』である。
「おいおい、この時期にアイスか?」
「寒い時のアイスって結構美味しいよ?コタツの中だと最高だけど」
「あぁ、それは分かる。……静雄?どうした」
ちょっとしたアイス談議に盛りあがろうとした二人は、口…というよりは左頬をおさえてうずくまって悶絶している静雄に、首をかしげた。
「あれ、喉奥に突っ込んでは…ないよね。それ以前にそしたらそこおさえないもんね」
「アイスがしみたとかか?」
「しみる?」
「口ん中が痛いんだと」
「っ~~~~~!!」
本当に痛いらしい。悶絶しまくっている。
面白いなぁと思いつつも、臨也はその光景にちょっとした既視観を覚えた。随分前のことだが、あれは…。
「……静ちゃん、ドタチン達今日どこにいるかわかる?」
「はぁ!?」
「いいからいいから」
「…多分、あっちのパーキングだ」
そう聞くと、ありがと。と呟いて、臨也は静雄を引きづって歩き出した。
「ちょ、おい臨也!?離しやがれ!!」
「あ~、いいからちょっと来いってば。それ絶対口内炎じゃないから」
引きづる側と引きづられる側がいつもと逆になっている現象に目を丸くしながらも、トムもそれについて行く。
どうやら、臨也は口内の痛みの原因に気がついたらしい。
口内炎ではないとすると…?
********************
「やっほー、ドタチン。ちょっとワゴンのドア開けてー?」
「は?」
いきなりやってきた臨也は、あろうことか静雄を引きづりながらそう言った。
「…どうした突然」
「ちょっとねー、確かめたいことがあって。ちょっと借りるだけでいいから」
その言葉に無言でドアを開けると、本を読んでいた狩沢と遊馬崎が目を丸くする。
それに一言挨拶して、臨也はワゴンから足を出す形で座り、静雄の頭をがっちり固定して自分の膝に乗せた。
「ちょ、おい!!離しやがれ臨也!」
「うっるさいなぁ、口内炎であれだけ痛がるって異常だっての。あ~見えにく。狩沢、そこのコンビニ袋に入ってる綿棒とって。新羅に頼まれた奴だけど、一本くらい使っていいでしょ」
「え?あ、はーいv」
ちなみに、狩沢は臨也の後ろから携帯のムービーで既にしっかり●RECを押している。
「…おい」
「あ~はいはい。ってか…静ちゃんさぁ、ちゃんと歯、磨いてるわけ」
「あ?磨いてるにきまって…」
「ここと-、ここと…あと、左の奥歯!親知らず?虫歯じゃんこれ。奥のは抜かなきゃだめだよ」
「は!?」
やけに手慣れたように口の中を見て虫歯のある場所を言う臨也は、静雄がじたばたとしてもまるで意に介していない。
やがて臨也が静雄を解放すると、静雄は息も絶え絶えで起き上る気力がないようだった。
「静ちゃ~ん?起きてよちょっと」
「手前のせいだろうが!!」
そう怒鳴る静雄の顔は、少し赤い。まぁ、誰だってあぁされれば恥ずかしいだろうな。と思ったその時。
「あぁ~静雄さんずるい!!」
「舞流…九瑠璃も。お前ら学校帰りか」
「そうだよー。臨兄ずるいー。私達にはもうやってくれないのに!」
「小学校までで充分だろうが」
「えぇー」
「……否(いやだ)…」
そう言って、舞流はひょいと臨也の膝の上、先程まで静雄の頭がのっていたところに乗り上げた。
「ね、久しぶりに歯磨きして~」
「御免被る」
「……」
九瑠璃までもが臨也の服をくいくいと引っ張って催促する。が、臨也としては何故に高校生にもなった妹の歯を磨いてやらねばならんのかといった心情だ。
「大体、そういうのはお互いにやってやればいいんじゃないのか?」
「それもいいけど、やっぱ臨兄が一番なんだなーw」
やったのか。もう試した後だったのか。
全員が同じことを同時に思ったが、臨也だけは、流石に免疫を持っているのかすぐに復活してため息をついた。
「普通に磨けてるだろうが…」
「え~…じゃあいいもん。今日臨兄の家に泊まる!」
「はぁ!?」
「そうだね、そうしよう!行こうクル姉、今日はお泊まりだよ!そして三人一緒に寝るの!」
「ちょ、待て。勝手に決めるな!!九瑠璃、舞流!」
意気揚々と駆け出す二人を追うように、臨也もまたコンビニの袋を持って駆け出す。
が、ふと振り返って、茫然としている静雄に笑顔で叫んだ。
「歯医者に行かないとヤバいと思うよー!静ちゃん!」
「…え、あ、おぅ?」
三人の姿が見えなくなっても、色々な衝撃のせいか、全員固まっている。
そんな中、素敵な画像を手に入れた狩沢はむふふと笑いながらも、ふと呟いた。
「…もしかして、イザイザの中で双子ちゃんと静ちゃんって…同レベル?」
幸か不幸か、その声を聞いていたのは遊馬崎と門田だけだったので、静雄は臨也を追いかけることなく素直に歯医者に行くこととなった。
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