あれからもう、何年経っただろう。まだ酒が飲めるようになって間もないというのに、高校時代を思い出すとき、それは遠い昔を思い起こすような感覚だった。
高校卒業後、進学、なんて選択肢をもとから考えていなかった俺は、この怪力を生かして工事現場や高所作業などでの仕事をするようになった。池袋での俺のことを知っている人が上司だったのか、最初から少々危険な仕事も任されたし力の加減がわからなくてものを壊すことを多かったが、今ではそんな回数も減り、周囲からも認められている…と、思う。
仕事の関係上門田とはよく会うし、セルティが街にいるからか、セルティ経由で新羅のことも聞いていた。新羅は当初、医師免許を取らずに闇医者となろうと思っていたそうなのだが、それをどう考えを変えたのか一年浪人という形で、現在大学の医学部に通っているらしい。
しかし、本人とは会っていない。解剖の実習も始まって生き生きしていると、そんな話を先日セルティから聞いたのが最新情報だ。
あぁ、そういえば、
「あのノミ蟲は、何してやがんだ…?」
ふと思い出すのは、高校三年間命を狙い続けたといっても過言ではない男。
今でもきっと碌でもないことをしているのだろう。きっとそうだ絶対そうだ。
しかし、全くと言っていいほど噂は聞かない。情報屋なんぞという危険極まりない、胡散臭いことをしていたにもかかわらず、一度もこの池袋で名を聞かないのだ。
門田が一度だけ、新羅に住所を聞いて尋ねたらしいが、家は売りに出されていて誰も住んではいなかったらしい。新羅は何か知っているようだったが、決して語ることはなかった。
ふと、携帯に職場の先輩からメールが入っていた。何でも、近場の大学の環境整備に手伝いで入ることになったから、大丈夫なら入ってほしいとの連絡だった。明日かはどこの現場、とも言われずに待機の予定だったので大丈夫だと返して携帯を閉じる。
池袋の街を歩いていても無暗矢鱈と喧嘩を売られなくなったのは、平和で嬉しい反面、どこか寂しくも感じる。それはなんだかんだと言って、あの高校での日々が充実していたと、そう思っている自分がいることの証明だった。
「でね!教授が~…」
「んだよそれ!」
「いいんじゃない?たまには」
横を、大学生らしき集団が通り過ぎる。あんな笑顔で誰かと話す、そんな学生生活を自分は送れなかった。
暴力と喧嘩と、怒声響く三年間。中学や小学よりもひどく、そして、それ故か心に残るもの。
これがイラつきなのか、懐古なのか。そこまで頭は回らない。
ん………?
何かが、香る。否、匂う?どこか知っているそれのもとを辿れば、自分の後ろ。振り返ればいるのは、いつもの池袋と、先程通りすがった大学生らしき集団だ。
そのうちの一人、長い黒髪をなびかせて笑う女がふと、こちらを向く。
「っ……!」
目があった気がした。否、気のせいだろう。向こうはぐるりと視線を一周させて、他の友人たちを連れてどこかの店に入っていった。だから絶対に気のせいだと思う。のに、
あの紅の瞳と、火花を散らせた気がした。
「………ん?紅…?」
あとがき↓
すみません、前中後編でお願いしますっ!!
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