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『それ』を目にしたのは、多分偶然じゃなかったと思う。事務所の社長に一緒に見ないかと誘われてみた、その映像が切欠だった。
その中身は、とある国の、少し前のものだと言われてみたそれは、とあるコンサートの映像だった。
日本ではないそこで歌うのは、長い黒髪が美しい、一人の日本人女性と、活発的な印象のある、濃い茶髪の日本人女性。
ポップスが流れたと思えば次に流れたのはバラードで、その次はオペラ。楽器まで持ち出して、コンサートと言うより舞台だと思った。
「これは…」
「凄いだろう?R'S(アールズ)と言ってな。日本じゃほぼ無名だが、海外では高い評価を得ている。最近は個人活動が多くなってはいるが毎年、夏になるとラスベガスのショーに出てくる大物だ」
記録媒体は滅多に残さないグループ何だが、コンサート用の映像を、専任の少年からもらってな。と笑った社長は、公表するなという条件が唯一残念だとため息をついた。
「見て、聞けばわかるだろう。日本でだって絶対に成功する。それでも、彼らは日本では全く活動しないんだ」
「何か…訳が?」
「ん…まぁ、日本では別の仕事をしているらしい…。支障が無くなるまで、日本では活動しないそうだ」
まだまだ、彼らは子供だからな。その言葉と共に言われた年齢は、幽の兄、静雄と大差ない年齢だった。
それなのに彼らは、中学生の時にはもう、海外で一定の評価を受けていたらしい。
「それで何だが…。羽島君は今度、映画、初出演だったね」
「はい…」
「それで、誰にも口外しないならという条件で、この…ここで歌っている女性、『リン』に連絡を取ったんだ。彼女はほぼ常に日本にいて仕事をしているとのことでね…。どうだろう。彼女は舞台女優としても結構有名なんだ。オペラの舞台と映画は違うが、スタントマン経験もある。…あって、話を聞くのは?」
そう言われて、再びその映像を見る。
観客や、ともに歌うボーカルと笑いあいながら、その女性は黒い髪をなびかせ、紅い瞳は爛々と輝いていた。
………?
その時既視感と言えるようなものが幽の脳内をよぎったが、それの正体がわからず、気のせいだろうと思って、どうだろう。と言ってきた社長の提案を受け入れた。
**********
が。あの時の既視感は気のせいではなかったのだと、幽は確信した。ついでに、『誰にも』口外するなという条件にも納得する。
そして、自分が一人で来るように言われた理由も。
「あぁ、そこにかけて。今お茶持ってくるから」
「はい…」
『リン』との待ち合わせは、渋谷のとある駐車場だった。そこに一人でくるように、と言われた幽の前に、青のスポーツカーで現れたのが…彼、折原臨也である。
黒の髪、紅い瞳。その顔立ち。これで気づくべきだったのだろうが、あの映像は女性の姿だった。【男】の臨也に結び付かなくとも仕方ないだろう。
「それで、えっと今日は…。映画の話、だったっけ」
「えぇ、そうなんですけど…。その前に、本当に貴方があの、『リン』なんですか」
『リン』が直々に迎えに行くと言われた身としては、『折原臨也=リン』と見るしかない。しかし、幽は彼を知っているのだ。兄と、高校時代喧嘩を繰り広げていた、彼を。
そういうと、臨也は「まぁ、そう思うのは当たり前だよね」と言って、自分の髪をグイと引っ張った。
そこから現れたのは、長い、黒髪。
「色々と事情があるものでね…。コンサートでは早替えで男装女装なんかもやってたりするんだけど、それは見なかったかな」
「見て…ませんでした」
「……あんまり驚いてないね。プロテクターとかも取ろうか?」
「いえ、その…充分、驚いてます」
ただ、表情に出ないだけだ。これでも十分驚いているし、まさかカツラだったとは思わないだろう。
後日聞いたところ、このカツラはわざわざ切った自分の髪で作ったものらしい。
しかし、あんまりにもそのリアクションが不満だったのか、臨也は…リンは、ふぅ、とため息をついた。
「まぁ、いいけどね…。さて、それじゃあ…羽島くんでいいかな。演技経験はあったっけ?」
「いえ、今まではモデルだけで…。高校卒業を機に、俳優もということになったんです」
「なるほどねぇ…。君が演じるものの台本でも手に入れとけばよかったけど…。あぁそうだ。うちの旦那の本ならあるから、それでちょっと読み合わせて演ってみようか。私の持論だけど、演技は、そのキャラクターに俳優が色を…」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「うん?」
後に、臨也は…臨美は語る。カツラを外した時より、よっぽどその時の方が動揺していたと。
「『旦那』って……結婚してるんですか?」
「?うん。ついでに二人の子持ちです」
********************
あれから、数年。個性的なR'Sの面々の指導もあり、様々な役柄への理解を得て演じることに成功した幽は、今や大人気の俳優となっていた。
その幽の手には、一冊の本がある。それは、ドロドロのホラーとサスペンス。そして、僅かに顔を見せるSFチックな話。とある小説家の新作で、発売前から映画化が決まっていた作品だ。
そして、その映画の主題歌や挿入歌を含めた音楽のすべてを担当するのは、一月前アメリカで密かにCDを出し、そしてこのひと月の間に、瞬く間にダブルミリオンを達成し、世界記録を作り上げた、20代の若手。
否、若手と言うのは間違いかもしれない。多くの声を長年受けての、CDの発売だ。日本への情報も、いくら流出しないようにとしても限界がある。まぁ、それには、日米間での情報のプロも動いていたらしいのだが、これはまた別の話。
これ以上はめんどくさいし無理。とのことで、映画の主題歌の発表を持って、日本でのCDの発売も始まると、幽はその一月前に連絡を受けていた。
そして今日、リン達の子供が、帰国する。
以前何回か会ったことはあるのだが、それはすべて、仕事で行った海外でだった。
よって、日本で、親子四人でいるのを実際に見るのは初めてである。
「やっ、はーねじーまくーん」
「?あぁ…早いですね。リ……臨也さん」
「はは。そっちの方が早いでしょ。あぁあと、名前は後一時間もしないうちに変わるからね~?」
「はい」
池袋の、とあるビルの大画面の前。待ち合わせのそこに、リンは『臨也』として現れた。いつもの、万人が見慣れた服装で。
「良いんですか、その格好で」
「いや、あっちの恰好でもばれるしねぇ。それに最初の映像はこっちのらしいからさ、周りの人間の反応が楽しみで」
つい、こっちにしちゃったvと笑う、その姿は何だか幼くも見えて、二人の子持ちとは思えない。
「空港に迎えには行かなかったんですね」
「真一が迎えに行ったよ。今まで、ちょっと引っ越し作業しててさ。事務所の引き払い」
「そんな…。言ってくれれば手伝ったのに」
「いやいや、波江とか…他の子達も、手伝いに来てくれたから」
「……そうですか」
その子供達がどんな子供なのかを、幽は知らない。しかし、臨也が関わり、何かしらの騒動に巻き込まれたのだろうということは理解できた。
その、助手や子供達の方は、何だか臨也が押し切られたらしく、今後も一緒に、という方向で決まったらしい。当面の間だけ、と臨也は言っているが。
「美鈴ちゃんに静也くん…。会うのは久しぶりなんで、楽しみです」
「毎日俺はネットであってるけどね…。身長とか、どれだけ伸びたか楽しみだよ」
そう言っている間にも、目の前の画面にとあるロゴが浮かんだ。
R'S
その、誰もが予期していない始りに、誰もが足を止める。
数瞬後には歌が流れどよめきが走るその前にと、幽は口を開いた。
「リンさん…」
「うん?」
「初登場での音楽チャート一位と、最短記録でのダブルミリオン、おめでとうございます」
今更ですけど、と付け足してそう言った幽に、臨也は苦笑した。実感は、未だないのが正直なところだ。
それを分かっているのだろう、臨也の苦笑に、幽もまた苦笑で返して、全く関係のないことを口に出した。
「そう言えば、リンさんが『臨也』さんでいるのに、兄さん来ませんね」
「仕事じゃない?そういえば、待ち合わせの時間だって言うのに、うちの旦那様と子供達はまだ来ないね」
ちょうどその頃。
「せい、バーテンさんだよ、真昼間にバーテンさん!」
「……少し落ち着け、すず」
噂の当事者が、実は邂逅していたりしていた。
あとがき↓
あれ、旦那さま出せなかったわ…?タイトルは、初めて映像を見た幽君の感想から!
コンサートのイメージは、マク○スFの妖精さんとかから。舞台とかのイメージは、曲はサンホライメージ。など色々。