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とある日の朝、今日は仕事が運良く入ってはいなかったなと、家の大掃除に取り掛かっていた臨也のもとに、一本の電話が入った。
「Allô?」
『Izaya!? Guten Morgen!』
「……ギルさん?」
それは、ドイツにいるギルベルト・バイルシュミットからの電話だった。
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「珍しいですね、俺の家に電話してくるなんて」
「ちょっとな~久しぶりにフランスに来たらフランシスの野郎いなくてよ。お前んとこ行ったら、今日は休みだって」
「あ、なるほど」
慣れた調子で、左ハンドルの車を操る。運転しているのはギルベルトだった。
向かっているのは、フランシスの家。家主に夕食に招待されていた二人は、ちょうど良いからとワインやビールを見繕ってきたのだ。
「でも、先生なら朝から仕込みとかしてそうですけど…。寝てたとか?」
「ねぇな。木に上ってあいつの家の窓から見てみたが、出かけてる感じだったぜ?」
「そうですか…。おっかしいなー。電話は?」
「してみたけど繋がんねぇー」
家の中を勝手に覗くな。という常識は、ちなみにこの二人の中にはない。特にフランシスの場合。
何故かというと、まぁ…。フランシスだから。としか言いようがなかった。
「トーニョさんのところにいるとか」
「どーだろーなー。俺昨日一日風邪気味で引きこもってたからなー…。そういや、ヴェスト達が何か騒いでた気もするけど…」
「ふーん…?調べますか」
その瞬間、臨也のいる助手席からアニメの効果音のような音が聞こえた気がして、ギルベルトは別にいい。と首を横に振った。どういう情報網なのか、臨也はいらん事まで調べてくるから恐ろしい。
「えぇ~面白そうだと思うんですけど…」
「面白がってハンガリーのフライパンくらうのは俺だろーが!」
「あぁ、俺よけちゃいますもんねぇ。ギルさんの場合あれでしょ。殺気がないから避ける気になってないだけでしょ」
「……………………ノーコメントで」
そんな、他愛もない話をしながら、二人はフランシスの家に車を入れた。
**********
慣れた調子で車をガレージに入れたギルベルトは、フランシスの車があることを確認して、本当にどうしたんだと首をひねった。
流石に、中止になったらなったで連絡してくる奴だから、中止と言うのはあり得ない。
「…あ、まさか…!」
「!?どーした、イザヤ」
大量のワインが入った木箱を抱えていた臨也が、何とも芝居がかったように、何かを思いついたように口を開いた。
「とうとう、エリザベータさんに手を出して皆さんに埋められたとか…!」
「……。……あり得る、が、その場合俺にも声はかかるので大丈夫だ。残念だがあいつは生きている」
「そうか……。うぅん、あとないかなー」
「俺としては有力候補は、買い物行ってナンパに夢中になって帰ってこない。だったが…。車あるしなぁ」
「そうですよねぇ。とりあえず、中に入りますか」
そう言って、木箱をおいた臨也はバッグからフランスの国旗と凱旋門のストラップがついた鍵を取り出した。以前より、色々な修羅場時に備えて持っている一つである。
「キッチンにこれは置いて…酒はワインセラーだな」
「了解…っと。ビールはお任せしまーす」
「任せとけ!ほとんど俺が呑むからな!」
まぁ、勝手知ったる他人の家。二人は迷うことなく買って来たものを片づけ、ついでとばかりに窓を開けて換気し、そのまたついでに軽く掃除していく。
「こりゃあ昨日から帰ってないんじゃねぇ?」
「いや、早朝に出かけたってのもありですけど…それにしても、中途半端に色々あるなぁ。急用ができて出かけたってとこかな」
「あぁ、それありだな。ん~…お、あったあった。イザヤ、フランの奴来るまでコーヒーでも飲まねぇ?」
「あ、飲みまーす」
勝手知ったる(以下略)故に、テキパキと湯を沸かし始めたギルベルトを見送りながら、臨也はリビングのテレビをつけた。今日はてっきり無礼講も無礼講の馬鹿騒ぎになると覚悟してきたのに、どうしてこんなに穏やかなんだろう。
もう、先生帰ってこなくてもいいかな。とか遠い目をして思っていた臨也に、スッとマグカップが差し出された。
「おらよ」
「ありがとうございます。…あ、美味しー」
「だろ?俺様天才だからな!」
そう言って向かいのソファに座ったギルベルトは、そう言えば、と笑みをにやりとしたものに変えた。
「お前はだいぶ砕けて来たよな」
「は?」
「敬語。前は菊ばりに丁寧だったのに、最近はタメ口増えて来たなってよ。知り合って一年…は、まだか。長かったぜー」
「え…そんなこと気にしてたんですか」
「『そんなこと』ってなんだよ。俺様達にとってはじゅーよーなんだぞ?」
チェッチェのチェー。と口をとがらせるギルベルトに呼応するかのように、彼の肩に止まっていた小鳥も似たような仕草をする。
それに少し笑いつつも、臨也はそう言われればそうですね。と返した。
「とはいえ、見た目はどうあれ年上ですから、皆さん」
「アルフレッドはどーなんだよ…。一日引っ張りまわされたと思ったら、結構仲良くなってたじゃねーか?」
「あぁいう手合いは妹で慣れてますんで」
しれっと返した臨也は、初対面の時の若き大国を思い出した。
最初はそんな風には思ってなかったのだが…。うん。一日中街中を引っ張り…もとい案内され、あぁ、これは妹と同じ人種(?)だなと思うことにしたのだ。
そうすると、扱いも決まってくる。美味しいご飯を作って甘やかして、さりげなく誘導する事も忘れない。
「ギルさんだって、仲良いじゃないですか」
「そーかー?……あぁそうだ。さっき湯沸かしてる時に思い出したんだけどよ」
「?はい」
「昨日…そういやフランシスの奴、何かバカなことやってたわ」
「…は」
「具体的には思い出せねぇんだよなー。ちょっくら起きた時に見ただけでよ。後でヴェストにでも聞こうと思ったら、あいつもう出かけてやがったし…」
それが原因なんじゃねぇ?
そう言ったギルベルトに、まずその『バカなこと』が何なのかを突き止めるのが先か。と臨也が携帯を使おうとしたその時。
ジー
玄関の呼び鈴が鳴った。
********************
玄関を開けた臨也の目の前にいたのは、見た事のない、眼鏡をかけた男性だった。
雰囲気的に何だかギルベルト…というよりはルートヴィッヒに似ている気がする、真面目そうな男性。
「えぇ、と…」
「おぉ、イザヤか。久しぶりだな」
「あ、アーサーさん」
どう話そうか。と軽く3分は見つめ合っていた時、その男性の後ろから現れたアーサーに、臨也も、そして相対する男性もまたホッと息をついた。
「アーサー、こん子供は…」
「フランシスの…まぁ、料理の弟子だな。あと、アントーニョ達の友人。あぁ、イザヤ、こいつはベールヴァルド・オキセンスシェルナ。まぁ…俺達の仕事仲間、って奴だな」
「そうなんですか…初めまして、折原臨也です」
「ん」
頷いたベールヴァルトは、そのまま何を言うでもなく、臨也の目の前に一つの『モノ』を置いた。
「………」
「…」
「……えぇ、と…」
「……」
「……印鑑、必要でしょうか…」
「え、ちょ、イザヤ!?言うのそれ!?つっこみどころそれなのちょっと?!」
ギルー!ギルちゃーん助けてー!!
イザヤとベールヴァルト、そしてアーサーの足元でうねうねとしながら、リビングにいるのが靴で分かったのだろう、そう叫ぶフランシスに、臨也はゴスッと足を乗せた。
「グフォッ」
「……印鑑、いります?」
「…一応、もらう」
**********
「ほぉ~このバカそんなことしてたのか」
「あぁ、それでちょっと、皆でどうシバくかをな…。お前は風邪気味だってんで、ルートヴィッヒの奴が置いてきたと言ってたぞ」
「あぁ、朝に聞こえたのはそれか…。しっかしまぁ、書いてるだけでアイコラまがいの事でもしたのかと思ったが、本気でやってたんだなこいつ」
「あぁ、バカだろ」
「あぁ、バカだバカだとは思っていたが…」
「ちょ、二人とも何なの、いぢめ!?」
アーサー達が持ってきたのは、何故か猫ミミ・シッポを装着したフランシスの簀巻きだった。一瞬本気でつき返そうと思った臨也だったが、ここの家主だし、一応先生だし、と思い踏みとどまったのである。
「どうぞ、アーサーさん。紅茶とクッキーです」
「あぁ、ありがとな。そういや、お前らは何でここに?」
「フランシスの野郎に、うちで夕飯食わないかって連絡来たんだよ」
「それで、ここで待ってたんですけど…。ほら、先生もいつまでも泣かない!これ飲んだら着替えて…「あぁ、ちょっと待ってくれイザヤ」……?」
フランシスの前に紅茶のカップとソーサーを置き、ついでにこの縄も取るべきかと思った臨也を、アーサーが止めた。しかも、何やらとってもいい笑顔で。
しかし、そんな笑顔に心動かされない図太い二人は、真顔でそれに返した。
「どうかしたのかよ。確かにこいつはこの方が大人しいけど、流石に服は着せてぇ」
「まったくです」
「……お前らも大概ひどいよな。まぁ、聞いてくれ、昨日の馬鹿騒ぎの責任っつーことで、こいつは今日一日、ちょっとやらなきゃいけねぇことがあるんだよ」
「「やらなきゃいけないこと?」」
なんだろう、と臨也達がフランシスの顔を見ると、その顔はやけに引きつっていた。
「提案してくれたのはベールヴァルトなんだけどな。もう帰っちまったし…。俺が説明しよう」
そう言って話された『お仕置き』は、なんともまぁ意外なものだった。
・今日一日アーサーの言う事を聞け
・今日一日アーサー文化を褒めちぎれ
・今日一日歌はアーサーのところの国歌しか歌っちゃだめ
・今日一日アーサーの料理以外食べちゃだめ
………
知らない人間がきくと何とも馬鹿馬鹿しいように思えるのだが…
「なるほど、良いなそれ」
「よく思いつきましたねぇ」
「お前ら非情ーっ!!」