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そろそろ、高校ともお別れか。そんな風に思いながら、いつも通りに走っていたある時、それは突然現れた。
変わった食べ物の趣向、吐き気や、たまに襲う眩暈。流石に心配になったのか、いつもだったら自分を放置する妹達に連れられて、新羅のところへ行った。
告げられたのは、自分の身体の中に新しい命がいるという、その知らせ。
もう一人の親となる人物が誰かなんて、自分にはわかっていた。恋にさえならずに終わった恋。酒の勢いで、たったの一度。向こうはそれさえ覚えておらず、また自分も、その時のことは一切言葉にしなかった。
ただ、無理矢理ではないと、しかし、同意と言っていいのかもわからないとだけ告げ、何とか新羅に追及しないでくれと頼み込んだ。
季節は二月下旬。もう少しで卒業式。体系もまだ誤魔化せる間に、高校生活は終わる。それだけが救いだと、新羅は苦笑してくれた。
産むべきか産まざるべきか。自分の持つもう一つの立場を考えれば、誰もが産まざるべきだと言っただろう。知られれば大事だった。
それを産めばいいと言ってくれたのは、新羅の家に行こうと、妹と一緒についてきてくれた人で。
産みたいなら、産めばいい。東京じゃなくても、関西や九州。いや、いざとなればアメリカに行って、そこで産めばいいさ。6月頃にアメリカで仕事があっただろう?そのままあちらに滞在すればいい。
でも。と反論しようとすると、両手を強く握られた。
その力強さに、目を見開いて。
告げられた言葉に、涙した。
――――――――――あぁ。俺は、私は、あんな恋をする前から、ずっと。
恋にならなかったこの恋をしたことを、後悔などしていない。でも、近すぎて気づけなかったこの恋に、もっと早く気づけばよかったと、そう思った。
********************
「臨也、エアメールが届いてるわよ」
「エアメール?何処から?」
「アメリカよ」
とある日の、新宿。
高層マンションの一室に届けられたその手紙が、一つの終わりと始まりを告げた。
「ありがと…。あぁ、そうか…。成功、したんだ…」
「?ちょっと、どうかしたの?」
エアメールを開いて、その全文を読み終えたのだろう。臨也の顔にあったのは、何とも穏やかな笑みだった。
その手紙の中身を、波江は知らない。しかし、その安堵したかのような表情から、良い知らせであるという事は理解できた。…まぁ、万人にとっての、良い知らせかは分からないが。
「波江さん、ちょっといい?」
「何、仕事の追加?」
「いや、その逆。お得意様の依頼以外は、新しいのは全部断って、このリストにある情報屋を紹介しておいて。俺は今から、お得意様めぐりしてくるから」
「は?」
渡されたそのデータは、波江にも見覚えがある。この日本。そして、世界中にいるこの悪趣味な男と同業の人間達の、連絡先。
「どういう事なの?説明を求めます」
「詳しい説明は帰ってからになるけど…。そうだね。言える事が、一つだけ」
そう言った臨也は、いつも通りのジャケットを手に、玄関へと足を向けて、首だけでこちらを向いて、笑って言った。
「情報屋、辞めることになったから」
後で、紀田くん達にも連絡しといて。そう言って、固まっている波江を置いて、意気揚々と臨也は出かけて行った。
その左手で、携帯を操りながら。
**********
一方、臨也と同じ手紙を受け取った人物がもう一人いた。
その男もまた、その手紙を嬉しそうに読みつつ、かかってきた電話の相手に、更に嬉しそうに顔をほころばせた。
「俺だ。…どうした?」
『手紙、そっちにも届いた?』
「あぁ、届いたぞ。成功して、来月には帰ってくるってな。…二月前に行った時はまだ不安もあったが、もう大丈夫だと、ドクターからの言葉も書いてあった」
『こっちも。…これから、お得意様めぐりして挨拶してくるよ。あと、退職金も用意しなきゃ…。うぅ、忙しいなぁ』
「雇い主になっちまってるからな、お前。迎えは俺が行ってくるよ。あぁ、心配するな。あいつらにあのことは内緒にしておく」
クスクスと笑ってそう言うと、マンションを出たのか、車の音が飛び交う音と共に、慌てたような声が聞こえてきた。
いつまでたっても、からかいたくなるのは変わらない。かわいい反応をしてくれるから、怒られても、ついまたやってしまうのだ。
「あと、岸谷にも言っておけ。知ってるのはあいつらぐらいだしな」
『うん。運…セルティも、写真見て会いたがってたからね。帰ってきたら一番に行くのは池袋かな』
「りょーかい」
『ふふ、それじゃあ、また』
「あぁ、また…って、あぁそうだ。さっき、ロウから連絡来たが、お前聞いたか?」
『…?来てないなぁ。すれ違いかも』
「そうか、それじゃ、俺から一応伝えておくよ」
そう言って知らせるのは、明日には発表になる、とある数字とその記録。
お前の家にも届けられてると思うぞ。とわざとFAXの紙を揺らした音を聞かせると、あちらからは信じられない。という声がポツリと聞こえた。
しかし、彼から…九十九屋真一からしてみれば、この結果は当然のもの。信じられないと呟くほうが信じられない。
散々、そうしてほしいという声をあげられてきて、そろそろ頃合いだろうと踏み切ったそれが、記録を出さないわけがなかった。
「揃ったら、祝賀会でもやるか、臨美。………俺の可愛い、歌姫」
…勿論、そう茶化せばもの凄い声での罵倒が返ってくるのだけれど。
あとがき↓
書いてみました―。頭の中を整理するために~。この二人は、砂か砂糖でもはくほどの…とはいかないまでもラブラブな、万年新婚夫婦を目標にします。……でき、るかな。
多分、臨也さんは辞めようと思えばちょっと時間はかかるけど未練無しにすっぱりきっぱり情報屋辞めると思うのです。
タイトルは、言わないけど思ってる九十九屋さんの声。