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夢を見た。
泣いてる子供の夢。啼いてる子供の夢。
大きな力を持て余して、途方に暮れた子供の夢だ。
あぁ、泣かないで。そう言おうとしても、声も手も届かない。だって自分は………
自分は……
「リ~ン~~?起きたぁ~?」
「ん………」
「わっ、何で泣いてんの!?ちょっとまって、今タオル持ってくる!」
「おはようリン。目、擦るなよ」
目を開けると、そこは見慣れた天井だった。一人が慌てたようにタオルを取りに部屋を出て行って、もう一人が頭を優しく撫でてくれる。
「リン、どうした。怖い夢か、それとも…」
「泣いてる子が、いた…」
「?」
「優しい子なんだ。でも、あの子の弟以外、誰も傍にいてあげられない…。優しくて暖かい子なのに。ねぇ、なんで?」
「そうは言われてもなぁ……」
笑顔が似合う、太陽のような子供だった。強い力が、本来はそれを後押ししてもっと輝くはずなのに、途方に暮れた子供には重荷でしかない。
「ほら、リン!タオルタオル」
「ありがと……」
柔らかいタオルに顔を突っ伏しながらも、考えるのは夢の中の子供だ。名前も知らない。声も、何も。知っているのは、泣いていることと、優しい弟がいるということ。
「どこにいるのかな…」
助けてあげたい。な……。
「…?何の話?」
「リンの夢に出てきた子供の話だ」
二人がそう話す間も、どうすればいいだろうと考えていた。自分なんかがあの子のそばにいては、あの子は幸せになんてなれない。自分みたいに厄介で、『おかしい』子供があんな太陽みたいな子供のそばにいたら、ダメなんだ。
自分は、今の幸せだけあればいい。
ではどうすればいいだろう?あの子に、あの子のそばにもっと、支えて励ましてくれる人が、いたなら……。
「…そっか」
「「??」」
「増やせばいいんだ。あの子が優しいんだって分かるように、分かってくれる人を、増やせばいいんだ」
そうすれば、いい。最悪、自分が敵役みたいになって、どんどんあの子を幸せにして。
そう話すと、二人は眉間に皺を寄せた。何だか不機嫌になっていく様子に、思わず慌ててどうしたのか聞くと、一人がずいっと顔を寄せてくる。
「その場合、リンはどうやって私達のところに戻ってくるの~?最悪の場合死んじゃうんじゃない?」
「…それならいっそ『殺せば』いいだろう。『折原臨也』って存在をな。そんで戻ってくればいい。情報操作なんて、覚えりゃ簡単だ」
「あぁ、そっか!」
「………戻ってきて、いいんだ」
皆から嫌われるような性格になって、嫌な奴を演じて、そうして立ち振る舞いというのに。普通、そんな人間と一緒にいるのを人はいやがるのではないのだろうか。
「リンはリンだから関係ないわー。戻ってきても変な性格だったら、その性格も矯正すりゃいいだけの話よ!」
「同感だな。だから安心して、やりたいことやりゃいいんだよ」
どうせだから他の奴も巻き込むか。という言葉に、もう一人が元気よく賛成!と手を挙げる。
その様子に、自分は何だか嬉しくて、ありがとうと、小さく呟いた。
********************
「夢のあの子は静ちゃんで決まり…何だよなぁ…」
あれから何年たっただろう。それから何度も見た夢を、最近見なくなった。
減って来たのは、高校に入ってから。
見ることの方が珍しくなってきたのは最近で、あぁ、あの子が笑っているなと、少しだけ安堵する。
「ねぇ、これはどこにやればいいのかしら」
「あぁ、そっちの段ボールにまとめて。引越し準備まで手伝ってもらっちゃってごめんね」
「………別に、構わないわよ」
そう言えば、自分の隣にもなんだかんだでそばにいてくれる助手がいる。
昔のことを話したら『貴方も妹達とあんまり変わらないんじゃない?』と言われたが。まさかこの新宿で、この東京で、こんな風に話せる人が出てくるとは思わなかった。
「誠二君がうらやましいな」
「は?」
「波江みたいな、素敵な姉さんがいて」
そう笑うと、波江は少し怒ったように空の段ボールを押しつけてくる。これがちょっとした照れ隠しだと知ったのは、つい最近。
「ほら、早くしないと業者来るわよ」
「はーい」
おそらくもう、夢は見ない。
********************
そう言えば最近、あの夢を見ない。
「何でだろうなぁ…」
「ん?どうした静雄」
「え、あ、いえ…ガキの頃から同じ夢をずっと見てたんすけど、最近見ねぇなって」
気のいい上司に、取り立てに向かう道すがら話すのは、小学校に入る前から見ている夢。
泣いて、暗闇の中でうずくまっている自分を、同じくらいの年頃の子供が心配そうに見ている夢だ。
夢の中の子供は自分に触ろうとしてくれているのに、すり抜けてしまうらしく悲しそうな顔をしていつも消える。
声をかけようと口が動くのだが、自分には何を言っているのか分からない。
それが、たまらなく寂しかった。
「高校に入ったくらいからですけど、どんどん減って…今じゃ見る時の方が珍しいっすね」
「ほぉ…。変な夢もあるもんだな」
夢の中の子供は、自分が大きくなるのと同じように、大きくなっていった。でも、自分からは顔がはっきりと見えないから、誰なのかもわからない。
「夢ねぇ…俺は見ない方だからな」
「俺もそうっすけど…あの夢だけは、確実に見れるんです」
手を伸ばしたいとも思った。でも、あの子供が自分に触れられないなら同じだろうと何もしなくて。
やっと、伸ばせるかと思ったら、あの子供の代わりに、自分の周りにはたくさんの人がいた。
寂しくはなくなった。悲しさも薄まった。
でも、遠くで嬉しそうにしているその子供が、嫌で。
こっちに来てくれと言いたいのに、届かない。
「会えたらいいな」
「え?」
「その夢の奴によ」
そう言って自分の背を叩いてくれた上司にはい。と頷いて、近い内にまた見れるかと、夜に思いを馳せる。
また見ることができたなら、今度こそ手を伸ばして叫ぼう。
おそらくそれは、
とても難しいことだろうけれども
叶わない、夢だろうけれども。
あとがき↓
…あれ?切な系になっちゃった…。